悪役令嬢への未来を阻止〜〜人は彼女を女神と呼ぶ〜〜

まさかの

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最終章 希望を託されし女神

下僕視点9

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 安い宿ではあるが今は目立つことのほうが不味いので我慢して泊まる。
 一応、女性の裕福層が泊まる宿屋なので、自分たちはアリアとは別の部屋に泊まる。
 大量の魔道具を渡しているので、何があっても時間が稼げるはずだ。
 荷物を運ぶついでに今後の計画を話し合う。


「それでは明日動き出すとして、アリアさまはヴェルダンディと共に伝承の場所まで向かってください。場所は中央広場にあるそうなので、邪魔が入るなら敵を消してでも伝承を開放してください」
「かなり物騒だが、おれが死んでも守る。だが領主の城に乗り込むのは二人だけでいいのか?」


 ぼくは頷く。
 クロートと二人で乗り込んで、領主を倒して本性を領民に知らせる。
 今のぼくの魔力があれば身体強化でも領主候補生以上に立ち回れるはずだ。
 その時急に部屋をノックされた。

「こんな時間に誰だ?」

 ヴェルダンディは小さな声で呟いた。
 今は敵地にいるのでぼくたちは警戒心を強めて、トライードに手をやった。

「ここの主人ですが、みなさんにお会いしたいという貴族の方が来られました」
「貴族? 一体誰ですか?」

 クロートは問いかけた。
 するとすぐさま返事が返ってきた。

「領主の弟ガーネフと申します」


 緊張が走る。
 やはり罠だったのだ。
 検問まではこちらを油断させて、気が抜けた頃にやってきた。
 クロートがこちらに目で訴える。
 ぼくはすぐさま足音を消して、扉の横に行こうとすると慌てた声が掛かってきた。

「わわっ! 敵じゃないですよ! 何もしませんから物騒なことだけはやめてください!」

 どこか間抜けな言葉に拍子抜けしてしまった。
 判断を仰ごうとクロートを見ると、ガーネフの言葉を信じて良いか決めかねるようだ。
 何故ならヨハネさまの義弟なので、彼女の差し金かもしれない。

「義姉上は今居ないですから、安心してください。それにもし皆さんを襲うつもりならこのような回りくどいことはしません」
「分かりました。ですが、もし何か良からぬことをしようとすれば、それ相応の報いを受けてもらいますからね」

 クロートはドアを開けてあげる。
 目の前にいるのは間違いなくガーネフであり、目つきが悪いためこちらを睨んでいるように見えるが本人はかなり人見知りする。
 やはり緊張しているようで手を胸にやって、オドオドと入ってくる。


「信じてくれてありがとうございます」

 ガーネフはお辞儀をする。
 こんな時でも礼儀正しいのは彼自身の真面目さを表している。

「えっと、どうしてわたしたちが来ることが分かったんですか?」
「えっと、それは……あ、アリアさま!?」

 どうやら周りが見えてなかったようで、やっと部屋にいる者たちの顔の識別が出来たようだ。

「どうしてアリアさまが……」
「ぼくたちが来ることを知っていたのに、アリアさまのことは知らなかったのですか?」


 ガーネフの知り得ている情報が完璧でないと分かった。
 彼は頷いて、ゆっくり口を開いた。

「皆さんが来ることは義姉上が予想していました」
「ヨハネさまが……ガーネフさまはどこまで知っているのですか?」
「ぼくについてはあまり期待しないでください。ほとんど何も分かっていませんので、ただ義姉上からは自分の思う通りに動けと言われています」

 今の発言でヨハネさまはビルネンクルベのことを知っている可能性が高い。
 そうなるとガーネフ自体を罠として配置しているかもしれない。
 ただガーネフはどうしてここにやってきたのか。
 クロートも同じことを思ったみたいで、彼に問いかける。

「一体貴方さまが来られた理由は何ですか? 正直に言うとヨハネさまの息が掛かっているので、こちらとしては貴方を信用するわけにはいきません」
「それはもちろん承知の上です。ただ、ぼくはアクィエルさまとお話がしたいのです。今回のクーデターはどういった意味があるのか、そしてマリアさまの側近がビルネンクルベからこちらにやってきたことは何を意味するのか、だからどうかアクィエルさまの真意を教えてください!」

 ガーネフは必死な顔でこちらに訴える。
 どうして彼はそこまで一生懸命なのか。
 まずはそこを知らなければならない。

「どうしてそんなに知りたいんですか?」
「義姉上を救いたいからです」
「へ?」

 ぼくたちは顔を見合わせた。
 彼の目的がまた分からなくなってきた。

「ヨハネさまを救いたいって……誰よりも助けが要らなそうだが?」

 ヴェルダンディはズバリ言った。
 誰もが思うことでもあったので、否定する者はいない。

「いいえ、領主夫人になったのに兄上からずっと道具のように使われて本当に可哀想なんです。でも最近はマリアさまの動向を聞くのが楽しみのようで、どんどん笑顔が増えていった。マリアさまとアクィエルさまの話を聞くのが好きで、ぼくと話す時間も増えて噂ほど冷酷な女性ではないと分かりました」
「そんな彼女がマリアさまの大事な御家族を殺しましたがね」

 クロートの言葉にガーネフは言葉に詰まった。
 結局、彼女は敵としてマリアさまを追い詰めていった。
 たとえ、彼がどれだけ慕おうとも彼女がぼくたちの王を殺したことには変わりない。

「それでもぼくは彼女を救いたい。兄上が領主になってからこの領土の発展は目覚ましいけど、それは全て義姉上の手柄だ。兄上は領土なんて見ていないし考えてもいない。その証拠に義姉上がいなければ皆さんの動向すら探ろうとしないんだ。だからアクィエルさまが勝利なされば、それを支持した者が次の領主になれるかもしれない。
 ぼくにはこれがチャンスなんです」


 クロートはトライードをガーネフに向ける。
 首元まで伸びており、少しでも動かせばガーネフの首は飛ぶ。
 それが分かっているので彼も冷や汗をかきながら、動きを止めてジッと睨む。

「これ以上は本当に戻れませんよ?」
「元よりそのつもりです。一体貴方たちは何をするつもりなんですか? どうしてアクィエルさまが味方するのか教えてもらいたい」
「ぼくが説明するよ」

 ドルヴィたちの正体を教える。
 そしておそらくガーネフの兄はそいつらに操られていることも。
 全ての元凶はフォアデルヘから始まったことを。
 ガーネフは顔が真っ青になった。

「そんな……嘘だ……」
「残念だけど今までの情報を統合するとそうなんだ」

 ガーネフは膝を付いて、気持ちを必死に落ち着かせようとしている。

「兄上は昔は優しかった。尊敬する兄だったんだ。義姉上に相応しい立派な男だった」

 どうやらアビ・フォアデルヘの変化をしっかり見てきたのだ。
 ぼくが伝えた真実を否定したくても否定できないのだ。

「ヨハネさまは完全に全てを知って、それでもなお相手に付いている。彼女は敵です。ただ貴方を利用して場を盛り上げようとしているだけですよ」

 クロートは冷たく突き放すがガーネフは言い返す。

「それはぼくが確かめます。そしてぼくの忠誠はアクィエルさまにあります。また貴方たちとマンネルハイムをしたい。あんなに一致団結してライバルと切磋琢磨できる王国院が本当に好きなんだ」
「クロート、信用してやろうぜ。こんなに熱い想いがあるんだ、味方に決まっている」

 ヴェルダンディは能天気に言うがぼくたちも彼の言葉に同意している。
 マリアさまとアクィエルが凌ぎを削る王国院の独特の雰囲気は味わった者にしか分からないものだ。


「そこまで言うのなら、城への抜け道を教えてくださるのですね?」

 クロートの言葉にガーネフは頷いた。
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