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最終章 希望を託されし女神
クロートの遺したもの
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デアハウザーだけではいけない。
アンラマンユも倒さないとこの国に平和は来ない。
「闇の神を信仰するスヴァルトアルフだけ光の柱が立っていないですね。やはりまだ完璧ではないーー」
クロートの言葉と同時に周囲にヤギの頭が落ちてくる。
それは闇の神が執着した者に贈ると呼ばれている。
「やだっ、なんでこんなものが」
アリアは特に闇の神を信仰しているのでその恐ろしさをよく知っている。
だがわたしは一つだけ疑問がある。
「これって、アンラマンユが贈っているの?」
ーー人の子よ
突如として落ちてきたヤギの頭の一つが喋り出す。
アンラマンユとは違い優しい声だった。
「もしかして闇の神ドウンケルガット?」
わたしは尋ねる。
ーーそうだ。
ーー生贄を一人捧げよ。
ーーアンラマンユを突破するには全開では足りぬ。
ーーその身の存在を全てささげよ。
アンラマンユが現界しないのは魔力がまだ足りていないからと言っている。
だがそれを呼び覚ますために一人の命が必要なのだ。
そんな損な役回りを誰かに押し付ける気はない。
「ならわたしがーー」
「いいえ、わたしがやらせてもらいましょう」
わたしが名乗り出ようとするとクロートが返事した。
「な、何を言っているのですか!」
即断するクロートをわたしは非難する。
彼はわたしのためにここまで頑張ってきて、また犠牲になろうとするのだ。
そんなことは許してはおけない。
「貴方は十分頑張りました! これ以上自分を犠牲にするのはおやめーー」
わたしが最後まで言う前にクロートはわたしの口を指で止める。
「よくぞここまで成長してくださいました」
クロートはわたしを慈しんでいた。
彼の心はもうすでに決まっている。
「ぼくはマリアさまが成長する姿を見たかった。いつも前向きでひたむきに頑張るマリアさまが本当に好きで、未来ではもう叶わない夢だと何度も思いました。ぼくはもう幸せです」
わたしは涙が溢れてくる。
彼は最後までわたしのために頑張ってくれたのに、何も応えてあげられなかった。
「貴女を独り占めしたい。ですが、貴女は光り輝くこの世の太陽だ。そのお側でずっと支えたかった。この時代のぼくが羨ましくて堪らない。まだまだ貴女さまと一緒に居られるのだから」
クロートは下僕に顔を向けた。
過去の自分に想いを託すため。
「あとは君が守りなさい」
「はい」
「もしマリアさまを泣かせたら次は本当に許さない」
「分かった。ぼくはこの身を一生マリアさまに尽くす。君がやりたかったことを全てぼくが叶えてみせる」
下僕はクロートに約束をした。
それでクロートは満足したのだろうか。
「クロート、どうしてわたしにそこまで尽くしてくれたの」
「鈍感ですね。そんなのは決まっています。愛しているからですよ」
彼は眼鏡を外して優しい顔で微笑んだ。
彼の人生が顔には刻まれている。
これまでかなりの苦労があったのだろう。
わたしは一つだけ恩返しをしよう。
「クロート、目をつぶってください」
「えっ……」
「早く!」
クロートは急かされてやっと目を瞑った。
……少し恥ずかしいけど。
「えーー」
わたしはクロートの頬にキスをした。
情熱的な口付けも考えたが、今のわたしにはこれが限界だ。
「クロート、これまでありがとう。わたしは貴方がいて良かった。初めてのキスだから少し恥ずかしいけど……ちょっと大丈夫!」
クロートは涙を流して嗚咽も我慢した。
もしかしてわたしのキスは嬉しくなかったのか?
わたしがどうするべきか悩んで周りを見渡す前に、クロートはわたしの手を取って口を付けた。
「これ以上の幸せはありません」
クロートは涙を拭き、そしてわたしに背を向けて魔力を闇の神へ奉納し始める。
空へと魔力が上がっていき、そしてクロートは少しずつ消えていく。
「あとはお願いしますね」
消えゆくクロートに心配をかけたくない。
わたしは元気よく答えた。
「ええ、神なんてぶっ飛ばします」
クロートは少し驚いて、そして笑って最後の言葉を残した。
ーー流石はぼくの姫さまです。
最後の言葉と共にクロートの指からわたしが与えた指輪が落ちた。
まるでそこには何もなかったかのように彼の存在は闇の神へと捧げられた。
そしてスヴァルトアルフから光の柱が立つのだった。
「お、おいあれを見ろ!」
どこかの騎士が叫んでいた。
わたしとみんなが見ている方を向くと、空を覆い尽くす巨大な金と黒で分かれている竜が現れた。
エンペラーの数倍もある大きさは神と呼ぶに等しい。
だが姿を現されたということは、神の座から追いやられたのだ。
「マリアさま!」
アスカが騎獣に乗ってやってくる。
わたしに声の大きさを増強する、丸い筒のような魔道具を渡してきた。
「これで全国民に知らせましょう。もうすでに遠隔用の魔道具も各領土に付けていますので、あとはマリアさまのお声だけです。
「ええ、みんな踏ん張るのよ!」
このことを予期してみんなが動いてくれたのだ。
みんなの期待に応えなくてはいけない。
わたしはマリアーマーに乗って、魔道具に声を乗せる。
「みなさん、わたしの声が聞こえていますか!」
わたしの声が魔法で変換されて、このコロシアムの外にまで聞こえているに違いない。
わたしを見る目が増えた。
「あの空に浮かぶ竜と地に堕ちた泥の化け物はこの国を乗っ取ろうとしていた魔物です! これまでわたしたちの領土が魔力不足になっていたのはこの魔物たちが奪っていたからなんです! わたくしマリア・ジョセフィーヌはそのような輩を許しはしない! 騎士たちよ、立ち上がれ! わたしたちの国を取り戻しなさい!」
わたしの言葉が止むと一斉に静かになった。
もしかしたらあまりにも急な話で付いていけないかったか?
だがそれはすぐに破られた。
「聞いたか、パラストカーティの騎士たちよ!」
「おお!」
「我らはマリアさまの一番槍だ! 威光を示すのに我らが先に示さんでどうする!」
「おお!」
「我らが王のために生きたいものは突撃せよぉ!」
「おおおおお!」
メルオープが誰よりも早く声を上げてアンラマンユに突撃していく。
するとパラストカーティの騎士たちは一糸乱れぬ動きで突撃していく。
それを見た他の領土も動き始める。
アンラマンユも倒さないとこの国に平和は来ない。
「闇の神を信仰するスヴァルトアルフだけ光の柱が立っていないですね。やはりまだ完璧ではないーー」
クロートの言葉と同時に周囲にヤギの頭が落ちてくる。
それは闇の神が執着した者に贈ると呼ばれている。
「やだっ、なんでこんなものが」
アリアは特に闇の神を信仰しているのでその恐ろしさをよく知っている。
だがわたしは一つだけ疑問がある。
「これって、アンラマンユが贈っているの?」
ーー人の子よ
突如として落ちてきたヤギの頭の一つが喋り出す。
アンラマンユとは違い優しい声だった。
「もしかして闇の神ドウンケルガット?」
わたしは尋ねる。
ーーそうだ。
ーー生贄を一人捧げよ。
ーーアンラマンユを突破するには全開では足りぬ。
ーーその身の存在を全てささげよ。
アンラマンユが現界しないのは魔力がまだ足りていないからと言っている。
だがそれを呼び覚ますために一人の命が必要なのだ。
そんな損な役回りを誰かに押し付ける気はない。
「ならわたしがーー」
「いいえ、わたしがやらせてもらいましょう」
わたしが名乗り出ようとするとクロートが返事した。
「な、何を言っているのですか!」
即断するクロートをわたしは非難する。
彼はわたしのためにここまで頑張ってきて、また犠牲になろうとするのだ。
そんなことは許してはおけない。
「貴方は十分頑張りました! これ以上自分を犠牲にするのはおやめーー」
わたしが最後まで言う前にクロートはわたしの口を指で止める。
「よくぞここまで成長してくださいました」
クロートはわたしを慈しんでいた。
彼の心はもうすでに決まっている。
「ぼくはマリアさまが成長する姿を見たかった。いつも前向きでひたむきに頑張るマリアさまが本当に好きで、未来ではもう叶わない夢だと何度も思いました。ぼくはもう幸せです」
わたしは涙が溢れてくる。
彼は最後までわたしのために頑張ってくれたのに、何も応えてあげられなかった。
「貴女を独り占めしたい。ですが、貴女は光り輝くこの世の太陽だ。そのお側でずっと支えたかった。この時代のぼくが羨ましくて堪らない。まだまだ貴女さまと一緒に居られるのだから」
クロートは下僕に顔を向けた。
過去の自分に想いを託すため。
「あとは君が守りなさい」
「はい」
「もしマリアさまを泣かせたら次は本当に許さない」
「分かった。ぼくはこの身を一生マリアさまに尽くす。君がやりたかったことを全てぼくが叶えてみせる」
下僕はクロートに約束をした。
それでクロートは満足したのだろうか。
「クロート、どうしてわたしにそこまで尽くしてくれたの」
「鈍感ですね。そんなのは決まっています。愛しているからですよ」
彼は眼鏡を外して優しい顔で微笑んだ。
彼の人生が顔には刻まれている。
これまでかなりの苦労があったのだろう。
わたしは一つだけ恩返しをしよう。
「クロート、目をつぶってください」
「えっ……」
「早く!」
クロートは急かされてやっと目を瞑った。
……少し恥ずかしいけど。
「えーー」
わたしはクロートの頬にキスをした。
情熱的な口付けも考えたが、今のわたしにはこれが限界だ。
「クロート、これまでありがとう。わたしは貴方がいて良かった。初めてのキスだから少し恥ずかしいけど……ちょっと大丈夫!」
クロートは涙を流して嗚咽も我慢した。
もしかしてわたしのキスは嬉しくなかったのか?
わたしがどうするべきか悩んで周りを見渡す前に、クロートはわたしの手を取って口を付けた。
「これ以上の幸せはありません」
クロートは涙を拭き、そしてわたしに背を向けて魔力を闇の神へ奉納し始める。
空へと魔力が上がっていき、そしてクロートは少しずつ消えていく。
「あとはお願いしますね」
消えゆくクロートに心配をかけたくない。
わたしは元気よく答えた。
「ええ、神なんてぶっ飛ばします」
クロートは少し驚いて、そして笑って最後の言葉を残した。
ーー流石はぼくの姫さまです。
最後の言葉と共にクロートの指からわたしが与えた指輪が落ちた。
まるでそこには何もなかったかのように彼の存在は闇の神へと捧げられた。
そしてスヴァルトアルフから光の柱が立つのだった。
「お、おいあれを見ろ!」
どこかの騎士が叫んでいた。
わたしとみんなが見ている方を向くと、空を覆い尽くす巨大な金と黒で分かれている竜が現れた。
エンペラーの数倍もある大きさは神と呼ぶに等しい。
だが姿を現されたということは、神の座から追いやられたのだ。
「マリアさま!」
アスカが騎獣に乗ってやってくる。
わたしに声の大きさを増強する、丸い筒のような魔道具を渡してきた。
「これで全国民に知らせましょう。もうすでに遠隔用の魔道具も各領土に付けていますので、あとはマリアさまのお声だけです。
「ええ、みんな踏ん張るのよ!」
このことを予期してみんなが動いてくれたのだ。
みんなの期待に応えなくてはいけない。
わたしはマリアーマーに乗って、魔道具に声を乗せる。
「みなさん、わたしの声が聞こえていますか!」
わたしの声が魔法で変換されて、このコロシアムの外にまで聞こえているに違いない。
わたしを見る目が増えた。
「あの空に浮かぶ竜と地に堕ちた泥の化け物はこの国を乗っ取ろうとしていた魔物です! これまでわたしたちの領土が魔力不足になっていたのはこの魔物たちが奪っていたからなんです! わたくしマリア・ジョセフィーヌはそのような輩を許しはしない! 騎士たちよ、立ち上がれ! わたしたちの国を取り戻しなさい!」
わたしの言葉が止むと一斉に静かになった。
もしかしたらあまりにも急な話で付いていけないかったか?
だがそれはすぐに破られた。
「聞いたか、パラストカーティの騎士たちよ!」
「おお!」
「我らはマリアさまの一番槍だ! 威光を示すのに我らが先に示さんでどうする!」
「おお!」
「我らが王のために生きたいものは突撃せよぉ!」
「おおおおお!」
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