死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜

まさかの

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偽装結婚の継続

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 彼は薄い笑みを浮かべて、さらに言葉を続ける。

「その顔は当たりのようだな。王太子に婚約破棄をしてからもしやと思ったが、先ほどの狩猟大会の騒ぎも過去には無かったこと」

 彼の言葉から私の疑念が確信へと変わった。

「クリストフ様も記憶がありましたのね」

 もしかすると私を過去へ戻したのは彼の神聖術が絡んでいるのだろうか。
 だがそれはすぐに否定された。

「ええ。俺もどうして過去へ戻ったのかは分からないが、こうして災厄が来る前に戻ったのなら、未然に防ぐのが俺の使命。だから貴女へ求婚をしたのですよ」


 ――彼が犯人じゃない!?

 どうやら彼も偶然過去へ戻ってきたらしい。
 しかし彼に私の正体が看破されている以上は、このまま殺されてしまう。
 暴れてみたが、私なんかの力では全く歯が立たなかった。

「私はまだ何もしてません! 絶対に組織と関わらないから見逃してください!」

 少しでも生き延びる可能性を上げるため、私は命乞いをした。
 だが彼は冷徹な顔に戻り、さらに顔を近づけた。

「組織どうこうは関係がないことは知っていますよね。貴女は魔女の力を持った異端者なのですから」

 彼の言葉に私は反論ができない。

 魔女――魔の力を持つ女性。その力は災厄をもたらし、破壊の力で人々に恐怖を与える存在だ。しかし遠い昔に魔女達は人間から駆逐された。

 それなのに私は魔女の末裔だったのだ。


「伝承では、魔女は動物に嫌われるとありました。そして他の動物達の理性を無くすのは、貴女の力が強く出てきた証拠。もうすでに才能が開花しているのではありませんか?」
「そ、それは――」

 本来、魔女と関わりを持つ者は死刑になる。それは大貴族であろうとも関わらずにだ。私もバレたら極刑になる。
 だから絶対にバレてはいけないのだ。
 彼は私の腕をじーっと見ていた。

「伝承では腕のどこかに出ると聞いていたが、どこにもないな。どこにあるんだ、見せてみろ」
「い、いやです……」

 私はそれを見せたくなかった。
 私の場合、魔女の刻印は胸の少し下にあるため、宿敵の彼に裸を見られるということになる。
 彼とは偽装結婚であるため、別れると決まっている相手に裸は見せたくなかった。
 私が黙っていると彼は別の方向へ勘違いしだした。

「別に今すぐ殺すわけではない。ただ俺ならその刻印の進行が分かる。六芒星になっていなければ、まだ魔女の破壊衝動に襲われないはずだからな」
「は、破壊衝動……って何ですの?」

 クリストフはそんなことも知らないのか呆れていたが、私はほとんど魔女のことを知らない。
 まず動物から嫌われるのが、魔女の末裔だからということすら知らなかったのだ。
 彼の言うことが正しければ、動物が暴れ出したのは私のせいだったのだろうか。


「魔女はその力に飲まれ、破壊することだけを生きがいとする存在だ。だから今は理性があろうとも、将来的には破壊することしか頭になくなるのだ」

 理解と同時に先ほど彼が私を殺そうとした理由が分かった。
 破壊衝動に飲まれて、さっきの騒ぎを生み出したと思われたからだろう。
 クリストフはじれったそうにしていた。

「分かったのなら見せてみろ、俺の神聖術ならその進行も止められる」
「そうなのですか!」
「ああ。そうなれば其方の命を奪う必要も無い」

 魅力的な提案であり、彼の言うことが本当なら、私は普通に生きられる。だけど、それはクリストフがずっと側にいるならばの話だった。
 私と彼の関係はあくまで偽装結婚。
 だからこそ越えてはいけない一線があった。

「ダメです……たとえクリストフ様でも裸は見せられません!」
「裸……だと?」

 クリストフの目が一瞬だけ揺らいだ。すると急に手の力が怯んで、私は彼を押しのけた。
 すぐさま彼の手が伸びてくるが、私はブランケットの中に逃げ込んだ。

「おい……何をしているのだ?」

 ブランケットに身を包み、抵抗を試みた。

「いくら貴方でも胸の下にある刻印は見せられません!」

 クリストフは「そういうことか……」と手で髪をかきむしった。

 ――あれ? もしかしてやめてくれるのかな。

 まさかこんなことで躊躇うとは思わなかったので、言ってみるものだ。
 これならもう一押しすれば完全に諦めてくれるかもしれない。

「クリストフ様が責任を取ってくれないのに、私もそのようなことはできません! だから――」


 諦めてください、と言おうとしたが、急に彼がブランケットごと私を引っ張った。

「きゃっ!」

 突然すぎて思わずブランケットを離してしまい、私はうつぶせでベッドに倒れ、無防備な状態になった。逃げようとしたが、もうすでに彼は私を上から抑え込んでいた。


「ほう、なら責任を取れば見せてくれるのか?」

 彼からぞっとするほど低い声が聞こえた。
 そうだ、男性は隙があれば女性を襲おうとする。
 私の馬鹿な発言でまた窮地に陥ってしまった。
 もう他に方法が思いつかない。

「許してください……私は今回こそは幸せになりたいだけなんです。絶対に人々に害をなすことはしませんから……」

 未来の私の所業を知っている彼にとっては、そんな私の本心すら疑わしく思ってしまうだろう。
 だけど私にはそれを証明できない。
 これからは真面目に生きようとしたが、結局は私の行いがこうして返ってきたのだ。

 涙が溢れてくる。やっぱり死にたくない。
 すると彼の指が私の涙を止めた。

「冗談だ。俺もお前にひどいことをするつもりはない」
「えっ……」

 彼は言葉通り私を解放してくれた。彼はベッドに座ってこちらから視線を外していた。


「もし少しでも魔女の刻印が進行がすれば言え」


 本当に何もしないのか疑いたくなった。前の彼は出会えば見境なく攻撃してきたのに、どうして今回は何もしないのだ。


「いいのですか?」
「ああ。だが魔女化が進めば、責任を取るからその刻印に触れるぞ」

 この刻印は時間と供に完成していく。そのため結局は彼から離れられないということだ。
 そうなると彼は私と結婚することになるがいいのだろうか。
 ここは思いっきり聞いてみよう。

「それですと、クリストフ様はずっと私といることになりますよ? 未来であんなことをした私を本当に許せるのですか?」

 彼と何度も戦ったのは私が単に悪いことばかりしていたためだ。
 そのたびに彼は激怒していたため、私との共同生活なんて苦痛ではないだろうか。
 だがクリストフはこちらへ振り返り、フッと笑う。

「前も建物に火を付ける前に、隠れて一般人を逃していただろ。お前の心優しいところは知っているつもりだ」
「どうしてそれを……」


 そう、私は何度も組織の命に従うフリをして民間人がなるべく死なないようにした。
 しかしそれは誰にもバレずに行ったはずだ。そうしないと組織から疑いをかけられてしまう。


「俺もお前の魔女化を止める方法を探す。元々偽装結婚の一年というのはそのための期限だったんだ。だから実験には手伝ってもらうぞ」
「それはぜひお願いします!」

 魔女の破壊の衝動はまだ経験していないが、刻印が無くなれば私も普通に暮らせる。
 彼も私と離れてお互いに両得である。なのにクリストフの顔は少し暗くなっていた。
 何か余計なことを言って気分を悪くしてしまったかと自分の発言を思い出す。

 考えている間に、クリストフはベッドから立ち上がり、手を差し伸べた。

「偽装結婚のルールは継続する。だから夕飯は一緒に食べてもらうぞ。この家の者達にも秘密にしてある」

 彼の目的は分からないが、まだ私に更生する機会はくれるということだ。
 だけどもし道を外せば、すぐに殺されることも意味する。

 ――こうするしかないわよね。

 私は彼の手を取った。彼に記憶がある以上はどうせ逃げられない。
 それならば彼の元で、普通の生活を手に入れてみせる。
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