死に戻って王太子に婚約破棄をしたら、ドSな司祭に婚約されました〜どうして未来で敵だった彼がこんなに甘やかしてくるのでしょうか〜

まさかの

文字の大きさ
39 / 93

元凶

しおりを挟む
 ~~☆☆~~
 高名な医者を何人か当たり、ソフィーの侍従を診てもらえるようにお願いした。
 本日中には来てくださると快諾してくれたため、とりあえず彼女の家へ戻る。

 ――俺の神聖術がどうして効かないのだ?

 神聖術は完璧な秘術では無い。だがそれでも全く効果が無いというのは初めてだった。それほどまでに厄介な呪いなのか、それとも――。
 その時、持っているペンダントが震えた。それは彼女の危険を知らせる聖遺物の反応だ。
 すぐさま首に掛けているペンダントを取り出すと光り輝いている。
 それをソフィーの家の方向へ向けると光が弱まった。

「家にいないだと……!?」


 順番に方角を変えていくと東で反応が強くなる。光が弱いため、おそらくは距離が離れている。
 どうしてそちらへ行ったのか分からないが、俺はペンダントが共鳴する方向へと走った。

 するとどんどん距離が近くなっていくのに気付く。
 もしかするとソフィーがこっちに近づいているのかと思ったが、ペンダントが指し示したのは走る馬車だった。
 そこにはリオネス王太子の満足げな横顔が見えた。
 ペンダントの光もリオネスが進む道で強く輝くので、ソフィーのペンダントをあの男が持っているのだ。


「まさか……」

 迂闊だった。どうしてソフィーを一人にしてしまったのだ。
 もうすぐ異端審問があるのだから片時も離れない方が良かったのだ。
 しかし今は後悔している場合では無い。馬車を追いかけ、王城に先回りした。
 そしてリオネスが降りたタイミングで詰め寄った。

「リオネス王太子殿下、ソフィーはどこにいますか!」

 俺が話しかけてくることをに驚くがすぐに笑いだす。

「ずいぶん鼻が利くな。だがもう遅かったな。ソフィアは魔女としてすでに正教会に引き渡している」
「なんだと……」


 血の気が引いていくのが分かる。彼女を守るとあれほど言ったのに全く守れていない。最後の手段は彼女と供に国を脱出するしかない。

「殿下、ここはわたくしめにお任せください」

 後ろから声を掛けたのは俺と同じ司祭のヒューゴだった。するとリオネスは「あとは身内でどうにかしてくれ」と俺の横を過ぎていく。
 すかさず追いかけようとしたが、ヒューゴが俺の進路を防ぐ。

「余計なことをこれ以上するな。お前はソフィア・ベアグルントの魔法で洗脳されていたと、本人の口から証言があった。下手に騒げばお前まで罪人になるぞ」
「ソフィーがそう言ったのか……?」
「ああ。健気な娘だ。あの娘に免じて良い物をやろう」

 ヒューゴは粉の入った透明の瓶を差し出した。

「病気になった侍従はこれで治るであろう。聖水に浸した薬草を煎じたものだ」

 受け取った瓶を見つめた。
 都合良くこんな薬を持っているわけがない。すかさず問いただす。

「どうしてこんな物を持ち歩いている?」

 ヒューゴは鼻で笑った。

「この薬でしか効かない呪いを植え付けたのだ。大事な人を助けたい心は魔女でも同じだと安心したぞ」
「貴様!」

 怒りからヒューゴの胸ぐらを掴んだ。あろうことか曲がりなりにも司祭であるのに、人を苦しめる呪いを使ったのだ。
 だがこの男も退くことはない。

「文句があるのならお前の後見人である大司教へと言うのだな。元々この呪いも大司教からこの作戦のために譲り受けたのだからな」
「セラフィン大司教が……まさか、あの方がそんなことをするはずが……」

 実の親のように面倒を見てくれたセラフィン大司教は俺の目標だった。俺よりも多くの知恵と経験を持っているため、そんな男に憧れた。
 だからこそ信頼していた人に裏切られたという思いに駆られる。

「そうしなければならないほど魔女は危険なのだ。私は魔女を殺すためならなんでもする。それと勘違いするな、クリストフ司祭。お前が告発しないから第三者が苦しんだのだぞ」

 俺の緩んだ手を振り払った。二重のショックのせいで頭がぐちゃぐちゃになっていく。改めて自分は親のようである大司教を裏切ろうとしていることを実感した。

「しばらくお前は大聖堂への立ち入りを禁止する。異端審問まではあの女も監禁せねばならんからな」


 いくら魔女の証があろうとも聖女が触らなければそれは確実な証拠にはならない。
 異端審問があるまでは、彼女の無事はある意味保証されている。
 残る日は二日のみ。だがすぐにでも無事な姿を見たかった。

「安心しろ。運命の日まではあの娘は綺麗なままにしてやる。異端審問の日に腫れた顔で出られては、無理矢理に自白させたと捉えられてしまうからな」

 その言葉を聞いて一つの不安が解決した。するとヒューゴは「ではまた異端審問の日に会おう」と王城へと入っていく。

 俺も腹を括らなければならない。今、ヒューゴがここにいるのなら大聖堂は手薄なはずだ。
 その時、大聖堂の方から大きな爆発音が聞こえてきた。
 不安がよぎる。あの爆発がソフィーが起こしたのではないかと。

 ~~☆☆~~

 目を覚ますと知らない個室に入っていた。魔女であると正教会にバレてしまったため、おそらくは大聖堂に幽閉されているのだろう。
 リオネスから蹴られたところに痛みがないので、おそらくはヒューゴが治してくれたのだろう。
 一応は脱出できないか部屋を調べたが、窓は鉄格子になっており、ドアも外に鍵があるようで、こちらからは開くことはできない。
 改めて部屋を見渡した。

「一応は待遇を考慮してくれるみたいね」

 部屋は必要最低限の物しかないが、それでも果物やパンなどはあるため、聖女から魔女であると証明されるまでは私の安全は保証されているようだ。
 一度ベッドまで戻り腰を下ろすと、クリストフの顔が思い浮かんだ。

「怒っているだろうな……」


 勝手に行動したあげく魔女であるとバレてしまった。だけど彼の事だから、心配して暴れていないか心配もある。
 最後に一回くらい会えないものだろうか。
 一人でいるせいでどんどん不安が募っていく。誰でもいいから話し相手でもいれば、死への恐怖を紛らせることでもできるのに。
 すると突然、ドアが開く音が聞こえた。
 下がってしまっていた顔を上げると、まず長い金髪が目に入った。


「大司教……様?」

 私のつぶやきにセラフィン大司教は優しい顔で微笑む。

「はい。お久しぶりですね。ソフィアさん」


 この方はクリストフの育ての親みたいなものらしいので、もしかすると彼を誑かしたことを叱りに来たのだろうか。
 優しそうな笑顔に急に鳥肌が立つ。

「少しだけお話をしましょう。貴女と――」
「へっ……」

 まばたきの間にもうすでに目の前にセラフィン大司教が現れた。まるで瞬間移動でもしたかのように。
 彼の手が私の頬を撫でる。その手が異様に気持ち悪く鳥肌が立った。

「私の将来についてお話をしましょうか。魔女のソフィアよ」

 普段の優しい声とは違う、心胆寒からしめる低い声が上から振ってくる。
 その声には聞き覚えがある。

「もしかして……貴方は……」

 組織の中でずっと謎とされていた存在。正教会もずっと追い続けて一切の情報を見つけられなかった怪物。
 そして私を組織へと入れた張本人。

「あの時以来ですね。前はクリスに邪魔されましたが、今回はそうならないでしょう」

 この国の裏側を操る組織のボスだった。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

処理中です...