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ソフィアの覚悟
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ガハリエが消滅して、急にホッとした。
背中を後ろの体に預けた。
「よく頑張ったな」
「うん……クリスは辛くない? 体もだけど心も……」
彼の育ての親を殺したのだ。いくら最低で最悪な男でも、あの男の正体がばれるまでは慕っていた。
私が言わんとしたことに察しがついたようだ。
「辛くはないと言えば嘘になるな。あれでも俺の育ての親だ。だがこれで良かったと思う。あの人は狂ってしまっていた。そうなれば誰かが止めねばならぬ」
ガハリエがどうしてあれほど屈折した精神だったのかは分からない。
元々のああなのか、それとも後天的になのか。
だけどそれを今さら気にしても仕方がない。
「そうだ! 魔女の刻印はどうなった!」
「えっと……うん、少しずつ薄れている……かな?」
たぶんしばらくしたら魔女の力と一緒に消え去るはずだ。
私を助けてくれた魔女達もそうなのかと辺りを探したが、もうすでに見えなくなっていた。
おそらくはこれからの厄介事から逃げるためだろう。
「ソフィア様!」
セリーヌがこちらへ手を振っている。私達は一度降りるため、彼女の元へと向かった。
久々の地面へとたどり着き、降りようとするとクリストフが私を抱えて降りてくれた。
地面に立つと、人影が急接近するように気付いた。
「ソフィアさん!」
「ふげっ!」
すると横から体当たりかのように抱きつかれて一緒に転んだ。
「ブリジット……さん? よかった無事で」
すると目にいっぱい涙をため込んだブリジットが叱リ出す。
「それはこっちのセリフですわ! もう大丈夫ですの! 無茶ばかりして……。これで魔女じゃなくなったんですか!」
「はい……もう違いますよ」
するとブリジットは目一杯涙を流して喜んでくれた。彼女も未来では悲惨な最期を迎えたが今回はそんなことにならずに全てが終わった。
お父様も遅れてやってきて、私を抱きしめてくれた。
「よかった……もう魔女の力は全て消えたのだな!」
「はい……ご心配をおかけしました」
「気にするな! はは、それなら家に帰ったら宴だ! クリストフ君も来たまえ! ははは!」
上機嫌なお父様にちょっとだけほっこりする。
お父様の腕から離れて、チラリとクリストフを見た。私は彼とは逆の方へ歩き出す。
「ソフィー?」
不思議な顔をする彼を無視して、ヒューゴ司祭の元へと向かった。
「もういいのだな?」
「はい……」
ヒューゴは確認を終えると、号令を出す。
すると一斉に神官達が私と皆の間に壁を作った。
「神官達よ! 魔女であった、罪人ソフィア・ベアグルントを護送する! これは教王の命令だ!」
神官達も驚きはあるようだが、教王の指示ということで命令を遂行しようとする。
「どういうことだ! ソフィーはもう魔女ではない! ヒューゴ司祭! 何をするつもりだ!」
やっと全てが終わって安堵してからの絶望にクリストフは理解が追いつけていないようだった。
「言ったはずだ、教王の命令だと。彼女が魔女であったことはこの場にいる皆が見た。魔女の最後がどうなるのか知らないわけではないだろ?」
ヒューゴは異端審問をする立場であり、その任務を遂行しようとするだけだ。
だがそんなことで納得する彼ではなかった。
「馬鹿な! あの男が死ねば魔女の脅威はなくなる! それが分かっていてどうしてソフィーを殺さないといけない!」
「魔女の力が無くなったとどうやって証明する? また時間が経ったら復活するかもしれない。絶対に安全という保証が無いのに、化け物を野放しにするわけがないだろ」
激高するクリストフに冷静な言葉を返すヒューゴ。
さらにクリストフを擁護する声もある。
ブリジットも反論する。
「ですが、ソフィアさんのお力で災厄は退けられたはずです。それなのにその功績も与えずに、彼女を極刑にするのが、彼の国のやり方ですか!」
ブリジットの言葉に多くの騎士達が賛同する。
だがそれを吐き捨てる。
「勘違いをするな、小国の令嬢が口を挟んでいい問題ではない。教王の命令は全てに優先される。もし刃向かうのなら、こんな小さい国なんぞすぐさま滅ぼすこともできる。自分の責任で祖国を滅ぼしたくなければ分をわきまえたまえ」
強権を用いて皆を黙らせていく。私はヒューゴと供に歩きだすと、後ろが騒がしくなっていた。
「落ち着かれよ!」
「こんなことをしたら貴方様も……」
神官達がバッタバッタと投げ飛ばされていく。
それをする人物は一人しかいない。
「ソフィーを……返せ!」
鬼神のごとく彼は相手をなぎ倒していく。
私を助けるために。
ヒューゴは別の神官達に私を任せる。
「先へ行け。私が食い止める」
私は立ち止まることなく歩き続ける。
後ろから私を呼ぶ声が聞こえても止まることなく、歩き出した。
そして三日後に私の公開処刑が決まった。
背中を後ろの体に預けた。
「よく頑張ったな」
「うん……クリスは辛くない? 体もだけど心も……」
彼の育ての親を殺したのだ。いくら最低で最悪な男でも、あの男の正体がばれるまでは慕っていた。
私が言わんとしたことに察しがついたようだ。
「辛くはないと言えば嘘になるな。あれでも俺の育ての親だ。だがこれで良かったと思う。あの人は狂ってしまっていた。そうなれば誰かが止めねばならぬ」
ガハリエがどうしてあれほど屈折した精神だったのかは分からない。
元々のああなのか、それとも後天的になのか。
だけどそれを今さら気にしても仕方がない。
「そうだ! 魔女の刻印はどうなった!」
「えっと……うん、少しずつ薄れている……かな?」
たぶんしばらくしたら魔女の力と一緒に消え去るはずだ。
私を助けてくれた魔女達もそうなのかと辺りを探したが、もうすでに見えなくなっていた。
おそらくはこれからの厄介事から逃げるためだろう。
「ソフィア様!」
セリーヌがこちらへ手を振っている。私達は一度降りるため、彼女の元へと向かった。
久々の地面へとたどり着き、降りようとするとクリストフが私を抱えて降りてくれた。
地面に立つと、人影が急接近するように気付いた。
「ソフィアさん!」
「ふげっ!」
すると横から体当たりかのように抱きつかれて一緒に転んだ。
「ブリジット……さん? よかった無事で」
すると目にいっぱい涙をため込んだブリジットが叱リ出す。
「それはこっちのセリフですわ! もう大丈夫ですの! 無茶ばかりして……。これで魔女じゃなくなったんですか!」
「はい……もう違いますよ」
するとブリジットは目一杯涙を流して喜んでくれた。彼女も未来では悲惨な最期を迎えたが今回はそんなことにならずに全てが終わった。
お父様も遅れてやってきて、私を抱きしめてくれた。
「よかった……もう魔女の力は全て消えたのだな!」
「はい……ご心配をおかけしました」
「気にするな! はは、それなら家に帰ったら宴だ! クリストフ君も来たまえ! ははは!」
上機嫌なお父様にちょっとだけほっこりする。
お父様の腕から離れて、チラリとクリストフを見た。私は彼とは逆の方へ歩き出す。
「ソフィー?」
不思議な顔をする彼を無視して、ヒューゴ司祭の元へと向かった。
「もういいのだな?」
「はい……」
ヒューゴは確認を終えると、号令を出す。
すると一斉に神官達が私と皆の間に壁を作った。
「神官達よ! 魔女であった、罪人ソフィア・ベアグルントを護送する! これは教王の命令だ!」
神官達も驚きはあるようだが、教王の指示ということで命令を遂行しようとする。
「どういうことだ! ソフィーはもう魔女ではない! ヒューゴ司祭! 何をするつもりだ!」
やっと全てが終わって安堵してからの絶望にクリストフは理解が追いつけていないようだった。
「言ったはずだ、教王の命令だと。彼女が魔女であったことはこの場にいる皆が見た。魔女の最後がどうなるのか知らないわけではないだろ?」
ヒューゴは異端審問をする立場であり、その任務を遂行しようとするだけだ。
だがそんなことで納得する彼ではなかった。
「馬鹿な! あの男が死ねば魔女の脅威はなくなる! それが分かっていてどうしてソフィーを殺さないといけない!」
「魔女の力が無くなったとどうやって証明する? また時間が経ったら復活するかもしれない。絶対に安全という保証が無いのに、化け物を野放しにするわけがないだろ」
激高するクリストフに冷静な言葉を返すヒューゴ。
さらにクリストフを擁護する声もある。
ブリジットも反論する。
「ですが、ソフィアさんのお力で災厄は退けられたはずです。それなのにその功績も与えずに、彼女を極刑にするのが、彼の国のやり方ですか!」
ブリジットの言葉に多くの騎士達が賛同する。
だがそれを吐き捨てる。
「勘違いをするな、小国の令嬢が口を挟んでいい問題ではない。教王の命令は全てに優先される。もし刃向かうのなら、こんな小さい国なんぞすぐさま滅ぼすこともできる。自分の責任で祖国を滅ぼしたくなければ分をわきまえたまえ」
強権を用いて皆を黙らせていく。私はヒューゴと供に歩きだすと、後ろが騒がしくなっていた。
「落ち着かれよ!」
「こんなことをしたら貴方様も……」
神官達がバッタバッタと投げ飛ばされていく。
それをする人物は一人しかいない。
「ソフィーを……返せ!」
鬼神のごとく彼は相手をなぎ倒していく。
私を助けるために。
ヒューゴは別の神官達に私を任せる。
「先へ行け。私が食い止める」
私は立ち止まることなく歩き続ける。
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そして三日後に私の公開処刑が決まった。
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