自覚するのが遅い…!

トウモロコシ

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自覚するのが遅い…!

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座っているはずなのに、ふわふわと揺れる視界があまりに気持ち悪くて、目を閉じて、下を向いた。

そうしてもなお、ふわふわとした感覚は治らなかった。目を閉じていてもなんとなく揺れているような感覚は気持ち悪い以外のなにものでもない。

一旦目を開ける。やはり視界が揺れる。コーヒーカップを全力で回して降りたあとのような視界に、自分が酔っているのかと疑い出したが、原因となるものが全く見当たらない。

授業中に寝るのはどうかと思う気持ちもあるが、この際、寝てしまえた方が楽だろうに、と少し他人事のように考えてしまう。思考回路がおかしくなっているみたい。

「北松。」
「?なに畑野…」
「お前、大丈夫か?」
「何が。」

小声で問われたものに、なんと答えればいいか迷ってしまう。この視界では板書は無理だし、正直先生の話もほとんど聞けるような状況ではないから、問題は全く分からない。その面で言うなら大丈夫かと聞かれれば、全くもって大丈夫では無いが、畑野の様子を見る限りそういったふうでもなくて、結局どう答えていいかわからないから、何を聞いているのかを聞くことになってしまう。

「体調だよ。お前、ちょっと顔赤いぞ。熱あんじゃね?」

そう言いながら伸ばされた手が、俺の額に触れた。完全に熱を測る時にするその行為。もしも熱があるなら、これだけ視界が揺れるのも納得出来る。

「結構熱い…な。先生に言って保健室行かせてもらえよ。」
「ほけんしつ…?多分大丈夫…だと思うんだけど。」

自分で額を触ってみるが、そんなに熱いとは感じない。
視界が揺れているくらいで、それほどしんどいとも感じないし、多分何かの勘違いだ。

「なあ、北松やばくね?」

畑野が俺の前の席の奴に聞く。前の奴、立川は俺の顔を見るなり、先程の畑野と同じように俺の額に手を当てて「熱い」と呟いた。

「やっぱ自覚ないのお前本人だけじゃん。先生!北松しんどそうだから、保健室行く許可出してやって!」

畑野がそう言って先生に伝えた。先生も俺を見て、畑野がしたのと同じように額に手を当てた。その事について先生は何も言わなかった。しかし「保健室行っておいで。」と言った。三人に熱があると言われれば、自覚していなくても、なんとなくしんどくなってしまうような感覚がした。

「わかりました。」

そう言ってシャーペンを机に置いて、立ち上がった。

その瞬間、全身の血が足に落ちたようにさあーっと引いた。
目の前が一瞬真っ白になった。平衡感覚が保てず、傾いた体を支えようとして出した足には力が入らなかった。どこに何があるのか分からないが、手を伸ばして必死に捕まるものを探した。と思う。伸ばしたてはちょうど近くにあった机の角を捉えた。
膝を強打する形にはなったが、顔面から倒れることは免れた。

暫く目を瞑っていると、徐々に周りがざわついているのに気がついた。音も聞こえていなかったのか、なんて少しズレたことを考えてしまう。
そっと目を開くと目に入ったのは揺れる床。スポンジの上にいるようで上手く平衡感覚が保てず、しゃがみ込んだ状態からさらに、おしりをぺたん、と床につけて座り込んだ。

「北松!?大丈夫か!?」

そこそこ回復しただろうか。さっきのことを学習して目を開けずにではあるが、畑野の問いに頷くことで答えた。

「あ、悪い。大丈夫なわけないよな。」

どうやら俺は畑野に支えられているようだ。畑野の声がとても近くに聞こえる。いつの間にか机を離している自分の手は、畑野の制服の袖を掴んでいた。額は畑野の肩にあって、いつの間にこんな態勢になったのだろう。という疑問は残るものの、先にお礼を言わなくては。

「ごめん、ありがと。」
「あ、うん。全然いいよ。それより保健室一緒に行くぞ。」
「畑野くん、お願いね。」

今の授業担当は女の先生だ。男子高生なんて運べるわけが無い。畑野の方がよっぽど安定感があるだろう。それをわかった上で、先生も畑野に任せたのだろう。

俺の腕を自分の首に回して、教室の後ろのほうの少し広めの空間まで俺を運ぶと、一旦下ろされて、何が起こっているのか理解できないうちに抱き上げられた。

不慣れな感覚に不安を覚えて、つい畑野の首に手を回してしまった。普通に考えれば男同志のお姫様抱っこの図が出来上がっているのだから、不気味なことこの上ないが、今の俺にそこまでのことを考える余裕はなかった。

周りがひゅーひゅーと茶化すように黄色い声をあげるのを水の中で聞くように、ぼんやりと聞いていることしか出来なかった。

気がつけば廊下に出ていて、教室からの声はほとんど聞こえなくなった。


「悪いな。俺がこんなことしたから、みんなから注目浴びちまって。あとでいくらでも怒ってくれていいから。」

そう言って歩く畑野の声が凄く申し訳なさそうな声をしていたから、何か言わなければいけない、そんなことを思って、視界が揺れるのが怖くて閉じていた目をそっと開いた。
目に映るのは本当に申し訳なさそうな顔をする畑野だった。

「ぜんぜん。ごめん。俺がもっと、ちゃんと、自分の、熱、自覚してたら、畑野に、こんなこと、させなくて、すんだのに。」
「しんどいだろ?」

いきなり話題を変えられた。そうわかるほどに極端だったが、それは、この話はやめようと言われているようなものだ。
畑野の言う通り、自覚した分しんどさが出てきたのも、事実だ。素直に少ししんどいことを伝えた。

「寝てていいよ。俺、腕の力だけは自信あるから。」

力強くそう言った畑野の言葉に甘えて、俺は再び目を閉じた。
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