老舗骨董店の店番はあやかし猫でした。

むに

文字の大きさ
27 / 41
第三章 伍塁様とお仕事 1

まほうの仲間たち

しおりを挟む
「こんにちは」

 真宝野まほうの雑貨店はいつも何か不思議な香りがする。奥から話し声が聞こえ、カフェテーブルには憂差と他に二人が話をしていた。

「あら実玖みるくちゃん、こんにちは」

 憂差うさが手招きをして背の高いスツールから「よいしょ」と降りた。

「座りなさい、お茶を入れてくるわ」

 実玖は他の二人にお辞儀をしてからスツールに腰をのせた。一人は元うさぎ、一人は元さるのようだ。二人は軽く頭を下げて会話を続けている。
 
「こちらは実玖ちゃん。昔のご主人、イケメンの伍塁さんのところに家政夫に行ってるの」

 小さなカップをテーブルに置いた憂差に紹介され、実玖はもう一度頭を下げた。

 眼鏡をかけた元うさぎは目で挨拶をして、カタカタとキーボードを叩いている。

「彼女は鞠夢まゆちゃん、異世界転生のお話を書く小説家。こちらは編集をしている菊田さん。二人ともニンゲンになってから活躍してるわ」

「へぇー、もしかして昔のご主人様に逢いたくてニンゲンになったの? いいネタじゃん。どう、菊田さん」

「そうだな、次作は異世界転生BLにするのもいいかも」

 実玖はよくわからない言葉を気にする余裕がなく、憂差に話しかけた。

「実は聞いて欲しいことがあってきました」

「あら、私でいいのかしら」

「伍塁様には言えないことなんです」

「そう、何があったのかしら」

 実玖は訪問先の美しい飼い猫に厳しい態度と言葉で接しられたことを話した。その時に何も言えなかった自分の気持ちもわからなくなり、伍塁に相談してここに来たことも付け加える。

「わたくしはまだニンゲンのことがわかっていません。猫の時の感覚も薄れています。今の自分のことがわからなくなりました。先程、伍塁様が悲しそうな顔をしていたのは、きっとわたくしが何かそうなる原因を作ってしまったんです」

 実玖は口に出した言葉に感情が高まって最後は強く自分を責め、唇を噛んで下を向く。

「そんなの言わしとけばいいんじゃね?」

 鞠夢がちらりと画面から視線を上げて言った。

「そうだなー。猫には猫のプライドがあるだろうけど、ニンゲンになった元猫の気持ちも事情もそいつにはわからないよな」

 菊田も鞠夢に同意する。

 実玖は二人がきちんと自分の考えを口にしたのを聞き、ニンゲンのキャリアを積んで自信を持って生きているように見えた。
 こんな風に自分もなれるんだろうかと、二人を代わる代わる見ると鞠夢にニヤリとされた。
 実玖は慌てて目を逸らした。

 憂差は話を聞いてるのか聞いていないのか、頬杖をついていて、時々目を開ける。

「めんどくせー猫といつも会うわけじゃないなら、とりあえず無視しときゃいいじゃん」

「鞠夢ちゃんは強いからな。でも、ホントそんなに気にすることじゃないよ。それぞれの考えだから。実玖ちゃんもそのうちニンゲンっていう生き方がわかるようになるさ」

 実玖はますますわからなくなる。無視するとは失礼にならないのだろうか。
 ニンゲンの生活には、何かをするにも考えるにも選択肢が沢山あって、真っ直ぐな実玖には処理しきれなくなることが多々あるのだ。

「ねぇ実玖ちゃん」

 憂差が目を開けて気だるそうに呼びかける。

「他の猫になんて言われてもいいじゃない。ご主人様に会いたくて頑張ったんでしょう。何か恩返しでやりたいことが沢山あったんでしょう。目的をもってここに来たことを忘れちゃダメよ。もし目的を果たし尽くしたとしても、ニンゲンはやりたいように好きなように生きられる力を持ってるの。これからニンゲンとして生きていくんだから大切なことよ。覚えておきなさい」

 もしかして寝てるんじゃないかと思っていた憂差に言われて思い出した。そうだ目的があるのだと。

「そうでした、わたくしは伍塁様に恩返しをするんでした。毎日楽しくて忘れそうでした」

 伍塁は何かと不慣れな実玖に根気よく教えてくれる。いつも優しく接してくれる。たくさんの体験をくれる。それに応えられるよう学び、恩返しをするのだった。
 そう思うと早く伍塁に会いたくなって胸の内ポケットから伍塁に買ってもらったスマホを取り出す。「終わりました」と伍塁にメッセージを送り、スタンプがすぐに返ってきて皆に告げた。

「憂差さん、鞠夢さん、菊田さんありがとうございました。伍塁様と帰ります」

「お迎えに来てくれるのかしら」

 憂差は色の付いた指先で長い煙管をつまみ、煙を細く出しながら笑っている。煙からは甘い匂いがしていた。

「ご主人様にお迎えに来てもらうなんて、不思議な家政夫だな」

「愛されてるね」

 実玖は深くお辞儀をしてから急いで店をあとにした。
 
 早く伍塁に会いたくて道路脇で伍塁の車がくるのを待った。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

紅玉楽師は後宮の音を聞く 〜生き残りたい私の脱走計画〜

高里まつり
キャラ文芸
【耳のいい隠れ長公主】✕【したたかな美貌の文官】コンビが挑む後宮の陰謀! 片目が紅い娘・曄琳(イェリン)は訳あって後宮から逃走した妃の娘ーー先帝の血を引く、隠れ長公主。 貧民街で隠れて生活していたのに、ひょんなことから宮廷に舞い戻ってしまった曄琳は、生まれを秘匿し、楽師としてあらゆる音を聞き分けるという特技を活かしながら、宮廷からの脱走を目論んでいた。 しかしある日、後宮で起きた幽鬼騒動の解決に駆り出された先で、運命を狂わされてしまう。 利用できるものは利用します精神の美形の文官・暁明(シャオメイ)と、出生の秘密をなんとか隠して外に出たい曄琳。 二人が後宮での事件を追う中で、母や貴妃の死、過去の出来事が少しずつ絡んで、宮廷の陰謀に巻き込まれていく。契約じみた曄琳と暁明の関係も少しずつ、少しずつ、形を変えていきーー? 曄琳の運命やいかに!

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...