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10. 最大のピンチ

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「申し訳ありません」
「気にしないでください。脅かしてしまった私が悪いんですから」

 宙に浮いたティーカップをキャッチしたエルワード様がそう口にする。
 キャッチしたとはいえ紅茶はこぼれてしまって、エルワード様の服の袖に染みを作ってしまっている。

 頭を下げたままアーシャ様の方を見ると満足そうにしていた。

「このままだとまずいから着替えてきますね」
「本当に申し訳ありません……」
「気にしてないから大丈夫ですよ」

 エルワード様はそう言って会場の外に向かって行った。

 許してもらえたみたいだし、大丈夫なのかな……?

 そう思った時だった。

「あなた、なぜ嫌われていませんの? しっかりエル様に嫌われて社交界から出て行かないと許しませんわよ。
 エル様が戻ってきたら何をしてでも嫌われなさい。それとも、わたくしに強制的に追い出されるのをお望みですの?」

 私に近付いてきたアーシャ様がそう言ってきた。

「申し訳ないのですが、私には出来ませんのでお断りします」
「強制的に追い出されないと気が済みませんのね。覚悟しておきなさい!」

 アーシャ様はそんな捨て台詞を吐いて、取り巻きと共に会場の中央に戻っていった。

 なんだか子供みたいでちょっと可愛い。場違いにも私はそんなことを考えてしまった。


 ……。


「なあ、本当に大丈夫なのか?」
「公爵令嬢様の命令だ。問題ないだろう」

 そんな声が聞こえてくる。
 声の主は防具の形からレノクス公爵家の騎士さんと分かった。

 ちなみに、私は手首を背中側で縛られてベッドの上に転がされている。おまけに頭が痛い。
 最悪ね……。


 こうなった理由は分かっている。

 お花摘みに会場を抜け出した帰り、目の前にいる騎士さんとすれ違った後に襲われたから。
 首のあたりを稲光のようなものを纏った棒で殴られて、気付いたらここにいた。

「お、目が覚めたみたいだな。アーシャお嬢様の命令だから、恨むなら彼女を恨んでくれよな」
「いやいや、まずいですよ。レシア様のお母様はーー」

 ボコッ! バキッ!

「こんないい機会逃してどうする? 貴族令嬢を犯せるいい機会なのによぉ?」

 騎士さんがもう一人の騎士さんに殴られて気絶してしまった。
 周りに助けてくれそうな人はいない。

 もしかして、人生最大のピンチ⁉︎
 私、どうなっちゃうのーー⁉︎

 とりあえず、叫んでみる?
 それとも戦う?

 戦うのは無理よね。この人強そうだし。
 魔法を放つには魔力を練らないといけないけど、そんな時間はくれないよね……。

 どうすればいいの⁉︎

「誰か助けてええぇぇーー!」
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