今度は悪役目指します! 〜逆行した真面目令嬢は、今度の人生は悪役になって自由に生きる〜

八代奏多

文字の大きさ
3 / 10

3. 絶体絶命

 もうこれ以上は後ろに下がれない。
 そんな絶望的状況でも、ナイフを持ったシエルは近付いてくる。

「だから……殿下にお姉様のことを忘れてもらって、私を見てもらうためにも死んでもらうわ」

 誰か、助けて……!

 そう叫ぼうとしたが、声が出ない。
 抵抗しようとしても、恐怖で身体が言うことを聞かない。

 そんな状況に、ソフィアの表情は絶望に染まっていった。

「声を上げようとしても無駄よ? 呪いで大声は出せないようにしたから」

(そんな恐ろしいことが出来るの!?)

 大声限定で喋れなくする。そんな意味不明な力に、彼女は驚くことしかできなかった。

「私を殺したら絶対にばれるわよ?」
「心配しなくても大丈夫よ。お姉様の遺書があれば、誰も疑わないもの」

 そんな言葉と共に一枚の紙が差し出される。
 そこには、ソフィアの筆跡に似せた字で文章が書かれていて……

「そういうことだから、諦めて?」

 ……天使のような笑みを浮かべて、シエルが微笑んだ。
 ソフィアには悪魔の笑みにしか見えないが、本当に可愛らしい笑みだった。それが余計に恐ろしく見えてしまう。

(早く逃げないと殺される……!)

 そう思ってシエルを突飛ばそうとしとするソフィアだったが、突然ドサリと床に崩れ落ちた。
 身体に力が入らなくなってしまったのだ。

「何を……したの……?」
「呪いの力ってすごいのね」

 床に倒れるソフィアにそんな声がかけられる。

「呪い……?」

 呪い――呪術と言えば、数百年前に法で禁止されてからは衰退したというのは有名な話だ。使える人間もこの世にはいないとされている。
 だから、何故シエルが呪術を使えているのかソフィアには分からなかった。

「その絶望した顔が見たかったのよね。所作が綺麗で、容姿も綺麗。完璧令嬢だなんて言われてたお姉様にこの嬉しさが分かるかしら?」
「嫉妬してたのね……」
「確かに嫉妬していたわ。お姉様のもの、全部ほしかったわ。
 大体私のものになったけど、殿下だけは私のものになってないのよね」

 どうして怒りを向けられているのか。どうしたら私を殺すという選択になるのか。
 今のシエルの行動は全く理解できなかった。理解したくなかった。

 だからと言って、説得を諦める訳にはいかない。

「私を殺す以外にも方法はあるわ」
「言ってみて?」
「ちゃんと殿下と向き合って、心を掴めばいいのよ」

 普通なら、関係を築いていこうとするはず。だから、ソフィアはそういう提案をした。
 しかし……

「面倒だから嫌よ」

 ……帰ってきたのは、そんな言葉だった。

「……お姉様が死ねば簡単に全部私のものになるの。だから死んで頂戴」

 ついにナイフが振り下ろされる。
 そして……

 ドスッ!

 ……そんな鈍い音と共に、ソフィアの腹部にナイフが突き刺さってしまった。

「うっ……」
「意外と簡単に刺さるのね。力、入れすぎたかしら?」

 そんなことを言いながら返り血を拭うシエル。
 ソフィアの手をとるとナイフの柄を掴ませて、遺言として書いた紙を机の上に置いた。

 もちろん、ソフィアは抵抗しようとした。
 しかし、身体に全く力が入らない今の状況では何もできなかった。

「さようなら、お姉様」

 パタンと音を立てて、扉が閉められる。

(……まだ生きてる。
 だったら、手はあるわ)

 治癒魔法。これを使えば、出血を抑えられる。ソフィアはすぐに魔法を発動しようとしたが……。
 どういうわけか、何も起こらなかった。

「こんな死に方は嫌よ……誰か助けて……」

 かすれた声で助けを求めたけど、誰も来ることは無くて。

 ソフィア・ハーグレイの十八年の生涯は幕を閉じてしまった。


   ◇  


 ――はずだった。

 しかし……次に目を開けると、見慣れた天井が視界に入った。
感想 5

あなたにおすすめの小説

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

阿里
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

婚約者が聖女様と結婚したいと言い出したので快く送り出してあげました。

はぐれメタボ
恋愛
聖女と結婚したいと言い出した婚約者を私は快く送り出す事にしました。

婚約破棄されたけど、どうして王子が泣きながら戻ってくるんですか?

ほーみ
恋愛
「――よって、リリアーヌ・アルフェン嬢との婚約は、ここに破棄とする!」  華やかな夜会の真っ最中。  王子の口から堂々と告げられたその言葉に、場は静まり返った。 「……あ、そうなんですね」  私はにこやかにワイングラスを口元に運ぶ。周囲の貴族たちがどよめく中、口をぽかんと開けたままの王子に、私は笑顔でさらに一言添えた。 「で? 次のご予定は?」 「……は?」

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。