今度は悪役目指します! 〜逆行した真面目令嬢は、今度の人生は悪役になって自由に生きる〜

八代奏多

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5. 悪役目指します!

「髪型はどうしますか?」

 着替えが一通り終わり、そう問いかけるフィオナ。
 それに対する答えはいつもと変わらないものだった。

「お任せするわ」
「分かりました」

 そんな言葉を交わし、鏡の前へ移動する。
 すると、ソフィアがおずおずと口を開いた。

「……悪役になるにはどうしたらいいのかしら?」

 驚きのあまり、フィオナは手を止めてしまう。いつも真面目で、悪役の悪の字すら感じさせない主からのこの言葉。
 あんぐりと口を開けて驚くほどではないにしろ、驚かないというのは無理な話だった。

「えっと、悪役ですか?」
「そうよ。そんなに驚くことだったかしら?」

 口を開けて固まっていたフィオナを見ながら、ソフィアは不思議そうにしている。
 一方のフィオナは「当たり前だ」と言わんばかり、一度閉じた口を開いた。

「驚きますよ! いつも真面目なお嬢様がそんなことを言うなんて、信じられませんから」
「そういうことね。それより、悪役になる方法についてだけど……」

 どこかの侍女が口を開けたまま十秒も固まっていたことには触れず、質問が繰り返される。
 ちなみに、やり取りの最中もフィオナは手を動かし続け、ソフィアはその様子を鏡で確認していた。

「悪役のご令嬢を見たことがないので、分かりません」
「そうよね……」

 そう呟き、何かを考え始めるソフィア。その様子を見て、邪魔しないように黙々と手を動かすフィオナだった。


   ◇


 場所を移して、公爵邸の食堂。

 毎食ここで暮らす一家が集うこの場所は、今朝もいつもと変わらない様子を醸し出していた。
 円形のテーブルの上手側に公爵夫妻が並んで座り、反対側ではソフィアを真ん中に、両隣に彼女の兄アレクと妹シエルが座っている。

 ソフィア以外、全員楽しそうに会話を交わしていた。

「お姉様、その髪飾り綺麗ですわ。私、一回でいいから着けてみたの。だから、少しだけ貸してほしいですわ」

 ふと、そんな言葉がかけられて、ソフィアは顔をしかめた。
 逆行する前も同じようにねだられて、貸してみたら返ってこなかったことを思い出したから。

 シエルがソフィアのものを欲しがり出したのも、この頃だったというのも思い出していた。

「そのお願いは聞けないわ」

 ……ここで聞き入れたらダメよ。

 つい貸してあげそうになるのを堪えて、キッパリと断るソフィア。
 その言葉に、シエルが文句を言わないはずがなかった。

「どうしてですの!? もしかして、お姉様は私のことが嫌いになりましたの……?」
「貴女に貸して、戻ってきた試しが無いからよ」

 悲しそうな表情は何処へやら。ギクりと固まり、嫌そうな表情を浮かべるシエル。
 ソフィアは逆行前の記憶を元に言っていたのだが、シエルにも何か思い至るものがあったらしい。

(忘れてると思ってたのに、先週借りた髪飾りのこと覚えていたのね……)

 そんなことを思う彼女は、どうやらこのまま返さないつもりのようだ。


「ソフィア、それは本当かな?」

 二人の会話を聞いていた公爵が優しく問いかける。だが、目元は全く笑っていない。
 問い詰められると察して冷や汗を浮かべるシエルを他所に、ソフィアはいつも通りの真面目な表情で口を開いた。

「ええ、本当ですわ。期限を設けなかった私も悪かったと思っていますわ。
 シエルの少しだけという言葉を信じた私が馬鹿でしたわ」

 途中で目を伏せ気味にし、申し訳なさそうな表情を浮かべてみる。
 すると、父親である公爵の表情は柔らかなものに戻っていた。

「そうか。確かに期限を設けないのは問題だったな。だが、反省しているのならそれで良い」
「今後は気を付けますわ」

 そう返事をし、ソフィアが頭を下げる。すると今度は、公爵の視線がシエルへと向いた。

「シエル、私の感覚では”少し”とは長くても三日なのだが、何か文句はあるか?」
「……っ。私は一週間借りると言いましたの。だから、約束は破っていませんわ」
「その間はなんだ?」

 末娘として甘やかされてきたシエルは、問い詰められるという経験をほとんどしていなかった。
 嘘に関しては既に常習犯なのだが、それは事前に考え込んでから口にしていた。

 だから、こういう咄嗟の嘘はかなり苦手だった。
 一方のソフィアも嘘には慣れていない。だが、彼女は表情を作っただけで嘘はついていないのだ。だから不自然な間が開くことは無かった。

「お父様の表情が怖くて……」
「言い訳はよい。
 借りたものは約束通りに返さないと大きな問題になることもある。だから、借りた物はすぐに返すようにしなさい」

 公爵の口調は穏やかなものだったが、その声には重みがあった。
 叱られ慣れていないシエルにとっては、それが怖く感じられていた。

「はい……」

 俯きながら返事をする彼女が泣き出しそうな表情になるには、この優しい説教だけでも十分だった。
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