今度は悪役目指します! 〜逆行した真面目令嬢は、今度の人生は悪役になって自由に生きる〜

八代奏多

文字の大きさ
8 / 10

8. 意外と頑丈

 その日の夕方、ソフィアはとある本を読んでいた。そのタイトルは『悪役令嬢の日記』で、悪役を目指す上で何か参考になるかもしれないと、ソフィアが書庫から引っ張り出してきたものだ。
 ちなみに、これは公爵夫人が読んでいたものとは違う。

「お嬢様、そんな本一体どこから……」

 しばらく放置していた装飾品の整理を終えて戻ってきたところ、見覚えのある本を目にしたフィオナが問いかける。

「書庫にあったから持ってきたのよ」
「それ、庶民向けの本ですよ?」
「そうだったの? でも、それにしては良く出来てるのよね……」

 読むのを中断し、驚いたといった様子で口にするソフィア。
 公爵令嬢として社交界で三年以上過ごしてきた彼女の目で見ても、この物語で描かれている社交界は良く出来ていた。
 高位の貴族が書いたかのではないかと思えるほどに。

「お嬢様がそう言うのなら、間違いありませんね!」

「一応言っておくけど、私はそこまで完璧ではないのよ?」

 フィオナの言葉にそう突っ込むソフィア。
 そんな時だった。

「ソフィアお嬢様、お話ししたいことがあります」

「分かったわ。少し待ってて頂戴」

 聞き覚えのある男性の声に、急いで本を隠すソフィア。
 そして自ら扉の方へと向かい、会話ができるように開いた。

「話したいことって何かしら?」

「明日の予定が変更になりましたので、お伝えしに参りました」

 そう口にする執事。彼はサリアスといい、前回ではソフィアのことを信用してくれていた数少ない味方だった人物だ。

 だから、ソフィアは彼のことをかなり信頼している。

「分かったわ。何が変わったのかしら?」

「明日の夜会ですが、主催の侯爵様が風邪を召されたために中止になりました。以上になります」

「分かったわ。ありがとう」

「では、失礼いたします」

 恭しく頭を下げ、この場を後にする執事を見送ってから部屋の扉を閉めようとするソフィア。
 しかし、その扉が閉まり切ることはなかった。

「お姉様、待ってください!」

「何か用かしら?」

「このドレスに合う装飾品がなくて……お姉様のもので試させていただきたいのです」

 懲りずに装飾品を漁りに来たシエルにどう返せばいいのか、ソフィアは逡巡しゅんじゅんした。
 というのも、前回の人生ではシエルの来訪は起きていなかったのだ。

「ここで付けてみるだけなら良いわよ、と言いたいところなのだけれど……先に貸しているものを返しなさい」

 シエルは無かったことにしようとしたのかもしれないが、彼女がソフィアから借りている装飾品の返却期限は今日なのだ。
 ちなみに、この期限はシエルがでっち上げたものだから、本来は数日早いり

「そ、そのことなのですけど……」

 口籠るシエル。それを見て、ソフィアだけでなくフィオナも訝しげな表情を浮かべた。

「まさか返せないの?」

「はい……。ごめんなさい、落としたら割れてしまって」

「貴女、また嘘をついているわね?」

 先週ソフィアが貸したという装飾品はそれほど重くなく、宝石だって簡単に割れてしまうほど脆くはない。
 これはフィオナに確認済みだから、間違いないとソフィアは確信していた。

「ソフィアお嬢様、発言してもよろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫よ」

 フィオナの申し出を快諾するソフィア。
 するとフィオナは、鍵付きの宝石箱を持ってきて、先週貸したものとは色違いの髪飾りを取り出した。

 そしてこんなことを耳打ちする。

「壊れてしまっても大丈夫ですか?」

「問題ないけれど……」

 そう返しながら、フィオナの行動を見守るソフィア。
 シエルもまた、何をするのかと不思議そうに見ていた。

 そして……フィオナは大きく振りかぶって、ありったけの力で髪飾りを床に叩きつけた。
 少々……いや、かなり雑に扱っても壊れない安物の装飾品の頑丈さに感謝しているからの行動だった。

「なっ……」

 フィオナの行動は予想していたのに驚いてしまうソフィア。
 一方のシエルはというと、ポカンと口を開けて固まっていた。
感想 5

あなたにおすすめの小説

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

阿里
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

婚約者が聖女様と結婚したいと言い出したので快く送り出してあげました。

はぐれメタボ
恋愛
聖女と結婚したいと言い出した婚約者を私は快く送り出す事にしました。

婚約破棄されたけど、どうして王子が泣きながら戻ってくるんですか?

ほーみ
恋愛
「――よって、リリアーヌ・アルフェン嬢との婚約は、ここに破棄とする!」  華やかな夜会の真っ最中。  王子の口から堂々と告げられたその言葉に、場は静まり返った。 「……あ、そうなんですね」  私はにこやかにワイングラスを口元に運ぶ。周囲の貴族たちがどよめく中、口をぽかんと開けたままの王子に、私は笑顔でさらに一言添えた。 「で? 次のご予定は?」 「……は?」

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。