今度は悪役目指します! 〜逆行した真面目令嬢は、今度の人生は悪役になって自由に生きる〜

八代奏多

文字の大きさ
10 / 10

10. 演技には演技で

「ソフィア様、それは本当ですか?」

 シエルの言葉を聞いて、手を貸した侯爵令息が問いかける。

「いいえ、違いますわ」

「お姉様がそう答えるのは当然ですわ……。だって、正直に言ったら……」

 ソフィアが否定のための言葉を続けようとするも、遮って涙ぐみながらシエルが口を開く。
 そんな状況に、ソフィアは強い口調でこう口にした。

「シエル、黙りなさい。確かに貴女が倒れるところを助けられなかったのは、申し訳ないと思っているわ。
 だからって、私に突き飛ばされたと嘘をつくのは酷いわ……」

 後半は声を振るわせ瞼を伏せ気味にして。

「つまり、シエル様が勘違いしたんですね。お怪我はありませんか?」

 ソフィアのものと同じラインが入った制服を着ている侯爵令息はそう結論付け、手を差し出した。
 この言葉に、周囲も納得してシエルの身を案じるような素振りを見せていた。

 アルバート王太子が通りかかったのは、その時だった。

「何事だ?」

 人だかりを見つけるなり、彼はそう声をかける。

「お姉様に突き飛ばされてしまいましたの……」

「と、シエル様は勘違いしておりますが、おそらく接触してしまったのを勘違いしていると思われます」

 シエルに続けて侯爵令息がそう口にした。
 その言葉が無ければ、王子は勘違いしていただろう。

 ちなみに、ソフィアが経験していた前回の人生でも同様の出来事が起きていた。一週間後の休日に行われる予定の婚約発表の夜会後に。
 その時に今と同じ状況になった時、王子は巧みな演技に騙されていた。

 彼の人を見る目がないのではない。シエルの演技が上手だったのだ。

 ──そんな経験があったから、ソフィアは焦っていたのだが、どうやら杞憂で済んだらしい。

「そうか。シエル嬢、怪我はないか?」

 ある程度距離をとりながら、アルバートが問いかける。
 それに対して、シエルは頬を赤らめながらこう口にした。

「ええ、大丈夫ですわ……」

「それなら大丈夫だな。俺は教授と話があるから、失礼する」

 アルバートはそう口にすると、一瞬だけソフィアに笑顔を見せてから階段を登っていった。
 それに釣られるようにして、集まった人達が散っていく。

 シエルはというと、恥ずかしそうに階段を駆け上がっていた。

「みっともないところを見せてしまい、申し訳ありませんでしたわ」

「誰にも勘違いはありますから、気にしないでください」

 そう口にする侯爵令息は「失礼します」と頭を下げると階段を登っていった。
 遅れてソフィアも階段を登っていく。

 この間は時間の無駄になってしまうが、アルバート以外と親しくしているという噂を流されるわけにはいかないのだ。
 シエルが嘘を流していた以上、前回は無かった浮気の噂だって流されかねない。

 だから、ソフィアは徹底的に用心することにしていた。



 しかし彼女がホームルームになっている小講堂に入ると、何人かがヒソヒソと噂話をしているのが目に入った。
 いつも座っている席までの通り道のため、足音を立てずにそっと近付く。

 だが、そんなソフィアに気付かずに噂話は続けられた。

「……そういえば、ソフィア様は侯爵家のお方と親密にしていたそうですわ」

「もしかして、ご婚約されたとか?」

 どうやら誰かが噂を流しているらしい。
 大方シエルだろうと、ソフィアは予想していた。

 それならばと、ソフィアは声をかけてみる。

「何の話をしていますの?」

「いえ、なんでもないですわ」

「ソフィア様には関係無いですわ」

 2人はあくまでも惚けるつもりらしい。だが、ソフィアは追い討ちをかけるかのようにこう口にした。

「あら、私が侯爵家のお方と親密にしていたと聞こえたのですけど、私の耳がおかしかったのでしょうか?」

 正直に答えれば自らの嘘を告白し、嘘を言おうとしたらソフィアの耳がおかしいと馬鹿にすることになる。
 伯爵令嬢の2人は、しばしの間固まってしまった。
 
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

ミル
2022.12.04 ミル

まだ描いて欲しいヽ(●´ε`●)ノホスィです(*・ω・)*_ _)ペコリ

解除
ぱら
2022.06.14 ぱら
ネタバレ含む
解除
Vitch
2022.06.11 Vitch
ネタバレ含む
解除

あなたにおすすめの小説

義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜

阿里
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。 「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」 本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。 けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。 おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。 貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。 「ふふ、気づいた時には遅いのよ」 優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。 ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇! 勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

悪役令嬢を陥れようとして失敗したヒロインのその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
女伯グリゼルダはもう不惑の歳だが、過去に起こしたスキャンダルが原因で異性から敬遠され未だに独身だった。 二十二年前、グリゼルダは恋仲になった王太子と結託して彼の婚約者である公爵令嬢を陥れようとした。 けれど、返り討ちに遭ってしまい、結局恋人である王太子とも破局してしまったのだ。 ある時、グリゼルダは王都で開かれた仮面舞踏会に参加する。そこで、トラヴィスという年下の青年と知り合ったグリゼルダは彼と恋仲になった。そして、どんどん彼に夢中になっていく。 だが、ある日。トラヴィスは、突然グリゼルダの前から姿を消してしまう。グリゼルダはショックのあまり倒れてしまい、気づいた時には病院のベッドの上にいた。 グリゼルダは、心配そうに自分の顔を覗き込む執事にトラヴィスと連絡が取れなくなってしまったことを伝える。すると、執事は首を傾げた。 そして、困惑した様子でグリゼルダに尋ねたのだ。「トラヴィスって、一体誰ですか? そんな方、この世に存在しませんよね?」と──。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

婚約者が聖女様と結婚したいと言い出したので快く送り出してあげました。

はぐれメタボ
恋愛
聖女と結婚したいと言い出した婚約者を私は快く送り出す事にしました。

婚約破棄されたけど、どうして王子が泣きながら戻ってくるんですか?

ほーみ
恋愛
「――よって、リリアーヌ・アルフェン嬢との婚約は、ここに破棄とする!」  華やかな夜会の真っ最中。  王子の口から堂々と告げられたその言葉に、場は静まり返った。 「……あ、そうなんですね」  私はにこやかにワイングラスを口元に運ぶ。周囲の貴族たちがどよめく中、口をぽかんと開けたままの王子に、私は笑顔でさらに一言添えた。 「で? 次のご予定は?」 「……は?」

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。