半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多

文字の大きさ
16 / 74

16. 余命12日⑦

しおりを挟む
 あれから数時間後、パーティーはお昼前には予定通りお開きとなった。
 私達は特に呼び止められることもなく、すぐに公爵邸へと戻ることが出来そうだった。

「レティシアさん、色々言われてましたけど……気分は大丈夫でして?」
「ええ、大丈夫ですわ。もっと酷い暴言を言われると思っていたので、拍子抜けしたくらいですわ」

 何を隠そう。アドルフは連行される間、ひたすら私への暴言を吐き続けていた。
 ボロボロと涙を流しながら、それはもうみっともなく。

 彼とは完全に他人になった後だから、これによって私が批判されることは無いはずなのだけど……こんなのと婚約していただなんて知りたくはなかった。
 嫌だったのはそれくらいで、暴言については何も思わなかった。

「……強いて言えば、あんなのが婚約者だったことが悲しかったくらいですわ」
「あれは衝撃でしたわ……」

 気まずい空気が馬車の中に流れているけれど、すぐに別の話題が浮かんできて、残りの移動時間は楽しくお話をすることが出来た。



 それから10分。無事に公爵邸に到着すると、使用人さん達が揃って出迎えに来てくれた。

「「お帰りなさいませ!」」
「まもなく昼食が出来上がりますので、お着替えが終わりましたら食堂までお願いします」

 出迎えの言葉に続けて、執事長さんがそう口にする。
 私はそれに頷いて、部屋に向かって急いで着替えた。

 でも、流石に急ぎすぎたみたいで、食堂に入った時には誰もいなかった。

「お嬢様、だからあんなに急がなくてもいいと……」
「遅れるよりはいいでしょう?」
「それはそうですが、急かされる私の身にもなってください」

 反論は出来なかった。マリーを急かしてしまったのは事実だから。

「ごめんなさい……。今度から気をつけるわ」

 余計な負担をかけていたと知って謝る私。
 こういう風にマリーが問題点を指摘してくれなければ気付けなかった。そう思うと、今までの侯爵邸で誰も指摘してくれなかったことが恐ろしかった。

 自分に問題があると気付くことが出来ないのだから。
 もっとも、そうなってしまったのは意見してくれる侍女をお母様が全員クビにしてしまったからなのだけど……。

 そんなことがあったのにマリーが指摘してくれたのは、ここ公爵家の方々が意見を聞き入れるからなのかしら?
 それとも、意見する必要が無いほど完璧なのかしら? もしそうなら、少し恐ろしい。

 そんなことを考えている時だった。

「あら、まだ出来ていないのね」
「ええ、あと5分ほどで出来上がるそうです」
「分かったわ」

 そう返事をし、優雅に腰掛ける公爵夫人。
 その仕草は完璧という言葉以外では言い表せなかった。

 でも……

「奥様、先にメイクを落としてきてください。崩れてしまっていますので」

 ……マリーは細かい崩れを指摘した。鏡を見せながら。

「あら、本当ですわ」

 そう言って、公爵夫人は食堂を後にした。

 一応、私は客人のはずなのだけど……こんな風に指摘して大丈夫なのかしら?
 気になって問いかけてみると、こんな答えが返ってきた。

「お嬢様は、もう家族みたいに思われているので問題ありません。もし他のお客様がいらっしゃったら、気付かれないように伝えています」
「そうだったのね……」

 家族のように思われている。このことはすごく嬉しいのだけど、それはつまり公爵家に相応しいだけの礼儀作法が出来ていないといけないということ。
 だから……今まで殆ど褒められたことがない分、ここで完璧になろうと思えた。

 もちろん緊張もしているけれど、公爵夫妻もシエル様も優しいから、深刻には思わなかった。
 シエル様のお兄様は一切口を聞いてくれないけれど……。



 そんな会話をしている内に全員が揃って、賑やかな昼食が始まった。
 パーティー中にも食事は出されているけれど、少しだけ食べるのがマナー。

 だから、普段通りの量でちょうど良かった。
しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

第一王子と見捨てられた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
アナトール公爵令嬢のマリアは婚約者である第一王子のザイツからあしらわれていた。昼間お話することも、夜に身体を重ねることも、なにもなかったのだ。形だけの夫婦生活。ザイツ様の新しい婚約者になってやろうと躍起になるメイドたち。そんな中、ザイツは戦地に赴くと知らせが入った。夫婦関係なんてとっくに終わっていると思っていた矢先、マリアの前にザイツが現れたのだった。 お読みいただきありがとうございます。こちらの話は24話で完結とさせていただきます。この後は「第一王子と愛された公爵令嬢」に続いていきます。こちらもよろしくお願い致します。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

縁の鎖

T T
恋愛
姉と妹 切れる事のない鎖 縁と言うには悲しく残酷な、姉妹の物語 公爵家の敷地内に佇む小さな離れの屋敷で母と私は捨て置かれるように、公爵家の母屋には義妹と義母が優雅に暮らす。 正妻の母は寂しそうに毎夜、父の肖像画を見つめ 「私の罪は私まで。」 と私が眠りに着くと語りかける。 妾の義母も義妹も気にする事なく暮らしていたが、母の死で一変。 父は義母に心酔し、義母は義妹を溺愛し、義妹は私の婚約者を懸想している家に私の居場所など無い。 全てを奪われる。 宝石もドレスもお人形も婚約者も地位も母の命も、何もかも・・・。 全てをあげるから、私の心だけは奪わないで!!

処理中です...