26 / 74
26. 余命9日①
しおりを挟む
「マリー、もう時間がないからこのままでも大丈夫かしら?」
「せめて髪飾りくらいは付けてください」
普段なら食堂に移動している時間なのだけど、私は大慌てで夜会に参加するための準備を進めていた。
「お嬢様、あと10分で始まりますよ」
「分かっているわ」
他の侍女さんに時間を告げられ、そう返す。
本来ならあり得ないことなのだけど、こうなったのには理由があった。
数十分前──。
「レティシアさん、今日の夜会はそれで参加しますの?」
夕食中、シエル様にそんなことを言われて、私は首を傾げた。
招待状が届いた訳でも、参加するように言われた訳でもないから。
「私って、参加することになっていますの……?」
「そうですけど、もしかして知らなかったのですか? 招待状の返事は来ていましたのに……」
この言葉で、私は確信した。
お父様かお母様が私を参加させないようにするために仕組んでいたことなのだと。
それが分かっていても、夜会に遅れてしまいそうなのに変わりはない。
「メイクはそのままで大丈夫そうですね。あとは、アクセサリーを付けるだけです」
今日着ていたドレスがシンプルなデザインだったのも幸いして、準備は5分前には終えることが出来た。
「これなら間に合いそうね。手伝ってくれてありがとう」
「いえ、私達のミスも原因でしたので」
「もう始まってしまうので先に会場に行きましょう!」
侍女さん達にお礼をしているとマリーにそう言われて、慌てて部屋を飛び出す私。
会場になっている広間に着いたのは、始まる2分前だった。
「良かった……間に合いましたのね」
「ええ、侍女さん達のお陰ですわ」
入り口近くで待ち構えていたシエル様に声をかけられ、そう返す私。
少しだけ雑談を交わすことは出来たのだけど、シエル様は主催者側の立場で参加者の方々から挨拶を受けないといけないから、私は一旦離れて他の方に挨拶をしに行くことにした。
ちなみにこの夜会、個々の仲を深めるという名目で開かれているから、エスコート役は付けない決まりになっている。
だから、今は婚約者がいない私でも気兼ねなく参加できている。
気は乗らなかったけれど、クリスティーナ様に挨拶した時も嫌味を言われることはなかった。
それどころか縋る|ような視線を向けられたのは、どうしてかしら……?
気にはなったけれど、私も侯爵家の人間だから挨拶を受けなくてはいけない。
だから、深く考えることもなく参加者の方々からの挨拶を返したりしていた。
お父様に声をかけられたのは、そんな時だった。
「何故ここにいる?」
「招待されたからですわ」
正直に答えると、こんな言葉が返ってきた。
「そういうことではない。何故公爵家に迷惑をかけてまで、ここで暮らしているのか聞いている。
最初は連絡が無かったから心配したんだぞ」
「そんなに心配するなら、迎えの馬車が来ないなんてこと起こらないようにしてください。あれ、お母様の嫌がらせですわよね?」
私がそう言うと、お父様は訝しげな表情を浮かべた。
「ちょっと待て……」
そう呟いて、お母様の方を見るお父様。
次の瞬間、怒り混じりの声が聞こえた。
「メアリー、これはどういうことだ? 説明しろ」
「軽い嫌がらせのつもりで……」
「お前の頭が足りないことはよーく分かった。もう二度と侍女以外の使用人に命令するな」
幸いにもまだ誰にも気付かれていないけれど、ここは夜会の会場。このままだと恥を晒すことになってしまう。
だから、私はこう提案してみた。
「お父様、皆様の目がありますので、夜会後にしませんか?」
「そうだな。メアリー、行くぞ」
そう言って離れていくお父様とお母様。
てっきり戻るように迫られると思っていたのだけど、それは無かったから少しだけ驚いた。
でも、それ以上に悲しかった。
分かってはいたけれど……私は家にいない方が良いと言われているようなものだったから。
「せめて髪飾りくらいは付けてください」
普段なら食堂に移動している時間なのだけど、私は大慌てで夜会に参加するための準備を進めていた。
「お嬢様、あと10分で始まりますよ」
「分かっているわ」
他の侍女さんに時間を告げられ、そう返す。
本来ならあり得ないことなのだけど、こうなったのには理由があった。
数十分前──。
「レティシアさん、今日の夜会はそれで参加しますの?」
夕食中、シエル様にそんなことを言われて、私は首を傾げた。
招待状が届いた訳でも、参加するように言われた訳でもないから。
「私って、参加することになっていますの……?」
「そうですけど、もしかして知らなかったのですか? 招待状の返事は来ていましたのに……」
この言葉で、私は確信した。
お父様かお母様が私を参加させないようにするために仕組んでいたことなのだと。
それが分かっていても、夜会に遅れてしまいそうなのに変わりはない。
「メイクはそのままで大丈夫そうですね。あとは、アクセサリーを付けるだけです」
今日着ていたドレスがシンプルなデザインだったのも幸いして、準備は5分前には終えることが出来た。
「これなら間に合いそうね。手伝ってくれてありがとう」
「いえ、私達のミスも原因でしたので」
「もう始まってしまうので先に会場に行きましょう!」
侍女さん達にお礼をしているとマリーにそう言われて、慌てて部屋を飛び出す私。
会場になっている広間に着いたのは、始まる2分前だった。
「良かった……間に合いましたのね」
「ええ、侍女さん達のお陰ですわ」
入り口近くで待ち構えていたシエル様に声をかけられ、そう返す私。
少しだけ雑談を交わすことは出来たのだけど、シエル様は主催者側の立場で参加者の方々から挨拶を受けないといけないから、私は一旦離れて他の方に挨拶をしに行くことにした。
ちなみにこの夜会、個々の仲を深めるという名目で開かれているから、エスコート役は付けない決まりになっている。
だから、今は婚約者がいない私でも気兼ねなく参加できている。
気は乗らなかったけれど、クリスティーナ様に挨拶した時も嫌味を言われることはなかった。
それどころか縋る|ような視線を向けられたのは、どうしてかしら……?
気にはなったけれど、私も侯爵家の人間だから挨拶を受けなくてはいけない。
だから、深く考えることもなく参加者の方々からの挨拶を返したりしていた。
お父様に声をかけられたのは、そんな時だった。
「何故ここにいる?」
「招待されたからですわ」
正直に答えると、こんな言葉が返ってきた。
「そういうことではない。何故公爵家に迷惑をかけてまで、ここで暮らしているのか聞いている。
最初は連絡が無かったから心配したんだぞ」
「そんなに心配するなら、迎えの馬車が来ないなんてこと起こらないようにしてください。あれ、お母様の嫌がらせですわよね?」
私がそう言うと、お父様は訝しげな表情を浮かべた。
「ちょっと待て……」
そう呟いて、お母様の方を見るお父様。
次の瞬間、怒り混じりの声が聞こえた。
「メアリー、これはどういうことだ? 説明しろ」
「軽い嫌がらせのつもりで……」
「お前の頭が足りないことはよーく分かった。もう二度と侍女以外の使用人に命令するな」
幸いにもまだ誰にも気付かれていないけれど、ここは夜会の会場。このままだと恥を晒すことになってしまう。
だから、私はこう提案してみた。
「お父様、皆様の目がありますので、夜会後にしませんか?」
「そうだな。メアリー、行くぞ」
そう言って離れていくお父様とお母様。
てっきり戻るように迫られると思っていたのだけど、それは無かったから少しだけ驚いた。
でも、それ以上に悲しかった。
分かってはいたけれど……私は家にいない方が良いと言われているようなものだったから。
29
あなたにおすすめの小説
さようなら、私の愛したあなた。
希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。
ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。
「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」
ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。
ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。
「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」
凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。
なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。
「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」
こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
恋愛
養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!大勢の男性から求婚されましたが誰を選べば正解なのかわかりません!〜
タイトルちょっと変更しました。
政略結婚の夫との冷えきった関係。義母は私が気に入らないらしく、しきりに夫に私と別れて再婚するようほのめかしてくる。
それを否定もしない夫。伯爵夫人の地位を狙って夫をあからさまに誘惑するメイドたち。私の心は限界だった。
なんとか自立するために仕事を始めようとするけれど、夫は自分の仕事につながる社交以外を認めてくれない。
そんな時に出会った画材工房で、私は絵を描く喜びに目覚めた。
そして気付いたのだ。今貴族女性でもつくことの出来る数少ない仕事のひとつである、魔法絵師としての力が私にあることに。
このまま絵を描き続けて、いざという時の為に自立しよう!
そう思っていた矢先、高価な魔石の粉末入りの絵の具を夫に捨てられてしまう。
絶望した私は、初めて夫に反抗した。
私の態度に驚いた夫だったけれど、私が絵を描く姿を見てから、なんだか夫の様子が変わってきて……?
そして新たに私の前に現れた5人の男性。
宮廷に出入りする化粧師。
新進気鋭の若手魔法絵師。
王弟の子息の魔塔の賢者。
工房長の孫の絵の具職人。
引退した元第一騎士団長。
何故か彼らに口説かれだした私。
このまま自立?再構築?
どちらにしても私、一人でも生きていけるように変わりたい!
コメントの人気投票で、どのヒーローと結ばれるかが変わるかも?
旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる