半月後に死ぬと告げられたので、今まで苦しんだ分残りの人生は幸せになります!

八代奏多

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32. 余命8日②

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「ダメだった……?」

 不安そうに問いかけてくるフレア。
 それを見て、私は聞き返した理由を説明した。少し申し訳なさげに。

「ダメじゃないけど、精霊が湯浴みをするなんて思わなかったから……」
「こんな風に姿を見せてる時はするわよ?」
「そうだったのね」

 そんな会話をしながら準備をして、一緒に湯浴みをすることになった。

 幸いにも湯船は3人は入れる大きさだったから、窮屈に感じることはなかった。
 会話が盛り上がってしまって長湯になったのだけど、お湯が全く冷めないという不思議なこともあった。

 でも、誰かと一緒に湯浴みをするのは初めてで新鮮な感覚だった。


 湯浴みを終えてからは、フレアが10秒くらいで髪を乾かしてくれたおかげで、すぐにベッドに入ることができた。

「おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」

 そんな挨拶を交わして、部屋の明かりを消す私。
 振り返ると、フレアは姿を消していて、少し寂しく感じてしまった。

 でも、眠気に抗うことは出来なくて……。


 ……。


 気がつけば、いつものように真っ白な世界にいた。

 それなのに声は聞こえない。
 代わりに、どこかのお屋敷の様子が浮かび上がってきた。

「どういうつもりですの!?」

 聞き覚えのある声──クリスティーナ様の声が聞こえる。

「貴女を愛せなくなった。それだけだ。
 そもそも、他人を見下し嫌がらせをするような女性を愛せる筈がない」
「そんな理由で貴方は浮気しましたのね!」
「残念ながらまだ交際は出来ていない」

 どうやらクリスティーナ様とその婚約者様の揉め事らしいのだけど……。

 どうしてこの様子を見せられているのかしら?

 そんな疑問が浮かんできた。

「だから慰謝料は払わない。むしろ貴女のせいで悪く言われる羽目になったんだから、こちらが慰謝料を貰いたいくらいだ」
「絶対に払いませんわよ!」
「それでも構わない。公爵夫妻の同意は得ているから、婚約破棄は成立したようなものだ。
 二度と私の前に顔を見せないでくれ」

 そんな言葉と共に、浮かび上がっていた光景はスッと消えた。



 そんな時だった。
 肩を突然叩かれたのは。

「驚いた?」

 驚きながら振り向けば、フレアが慌てて手を引っ込めようとしている様子が目に映った。

「うん……。突然触られたら驚くわよ」
「今の光景のことよ?」
「そのことなら、少しだけ驚いたわ」

 どうやら肩を叩かれたのは脅かすためではなかったらしい。

「あんなことがあったから、嫌がらせは減ると思うわ」
「そうだといいけど……」

 私が曖昧に答えていると、周りの光が一瞬で消えた。
 その代わりに、赤い光が視界を覆って……。


 ……。


「おはよう」

 目を開けると、フレアが目の前にいた。

「おはよう」

 挨拶を返して、すぐに準備を始める私。
 侍女がいない分時間がかかってしまうから早めに起きたのだけど……。

「メイクは無理だけど、手伝えるところは手伝うわ」

 フレアのお陰で思っていたよりも早く終えることが出来た。

 準備を終えたら朝食のためにレストランに行ったのだけど、そこが混んでいたから女官の仕事が始まる時間ギリギリに朝食を終えることになってしまった。

「おはようございます」
「ええ、おはようございます」
「他の皆さんは……?」

 仕事場所に来ているのはまだメリアさん1人だけ。
 不思議に思って問いかけてみると、こんな答えが返ってきた。

「まだレストランにいると思いますわ」
「遅れても大丈夫なのですか……?」
「今の時期は暇なので大丈夫ですの。忙しい時は遅刻厳禁ですわ」
「そういうことでしたのね……」

 曖昧に頷く私。
 すると、こんなことを言われた。

「今日の仕事は公爵家の不正に関する会計の修正だけですもの」

 そんな言葉と共に示されたのはたった1枚の書類。
 あまりの少なさに固まってしまう私だった。
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