32 / 74
32. 余命8日②
しおりを挟む「ダメだった……?」
不安そうに問いかけてくるフレア。
それを見て、私は聞き返した理由を説明した。少し申し訳なさげに。
「ダメじゃないけど、精霊が湯浴みをするなんて思わなかったから……」
「こんな風に姿を見せてる時はするわよ?」
「そうだったのね」
そんな会話をしながら準備をして、一緒に湯浴みをすることになった。
幸いにも湯船は3人は入れる大きさだったから、窮屈に感じることはなかった。
会話が盛り上がってしまって長湯になったのだけど、お湯が全く冷めないという不思議なこともあった。
でも、誰かと一緒に湯浴みをするのは初めてで新鮮な感覚だった。
湯浴みを終えてからは、フレアが10秒くらいで髪を乾かしてくれたおかげで、すぐにベッドに入ることができた。
「おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
そんな挨拶を交わして、部屋の明かりを消す私。
振り返ると、フレアは姿を消していて、少し寂しく感じてしまった。
でも、眠気に抗うことは出来なくて……。
……。
気がつけば、いつものように真っ白な世界にいた。
それなのに声は聞こえない。
代わりに、どこかのお屋敷の様子が浮かび上がってきた。
「どういうつもりですの!?」
聞き覚えのある声──クリスティーナ様の声が聞こえる。
「貴女を愛せなくなった。それだけだ。
そもそも、他人を見下し嫌がらせをするような女性を愛せる筈がない」
「そんな理由で貴方は浮気しましたのね!」
「残念ながらまだ交際は出来ていない」
どうやらクリスティーナ様とその婚約者様の揉め事らしいのだけど……。
どうしてこの様子を見せられているのかしら?
そんな疑問が浮かんできた。
「だから慰謝料は払わない。むしろ貴女のせいで悪く言われる羽目になったんだから、こちらが慰謝料を貰いたいくらいだ」
「絶対に払いませんわよ!」
「それでも構わない。公爵夫妻の同意は得ているから、婚約破棄は成立したようなものだ。
二度と私の前に顔を見せないでくれ」
そんな言葉と共に、浮かび上がっていた光景はスッと消えた。
そんな時だった。
肩を突然叩かれたのは。
「驚いた?」
驚きながら振り向けば、フレアが慌てて手を引っ込めようとしている様子が目に映った。
「うん……。突然触られたら驚くわよ」
「今の光景のことよ?」
「そのことなら、少しだけ驚いたわ」
どうやら肩を叩かれたのは脅かすためではなかったらしい。
「あんなことがあったから、嫌がらせは減ると思うわ」
「そうだといいけど……」
私が曖昧に答えていると、周りの光が一瞬で消えた。
その代わりに、赤い光が視界を覆って……。
……。
「おはよう」
目を開けると、フレアが目の前にいた。
「おはよう」
挨拶を返して、すぐに準備を始める私。
侍女がいない分時間がかかってしまうから早めに起きたのだけど……。
「メイクは無理だけど、手伝えるところは手伝うわ」
フレアのお陰で思っていたよりも早く終えることが出来た。
準備を終えたら朝食のためにレストランに行ったのだけど、そこが混んでいたから女官の仕事が始まる時間ギリギリに朝食を終えることになってしまった。
「おはようございます」
「ええ、おはようございます」
「他の皆さんは……?」
仕事場所に来ているのはまだメリアさん1人だけ。
不思議に思って問いかけてみると、こんな答えが返ってきた。
「まだレストランにいると思いますわ」
「遅れても大丈夫なのですか……?」
「今の時期は暇なので大丈夫ですの。忙しい時は遅刻厳禁ですわ」
「そういうことでしたのね……」
曖昧に頷く私。
すると、こんなことを言われた。
「今日の仕事は公爵家の不正に関する会計の修正だけですもの」
そんな言葉と共に示されたのはたった1枚の書類。
あまりの少なさに固まってしまう私だった。
34
あなたにおすすめの小説
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
恋愛
養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!大勢の男性から求婚されましたが誰を選べば正解なのかわかりません!〜
タイトルちょっと変更しました。
政略結婚の夫との冷えきった関係。義母は私が気に入らないらしく、しきりに夫に私と別れて再婚するようほのめかしてくる。
それを否定もしない夫。伯爵夫人の地位を狙って夫をあからさまに誘惑するメイドたち。私の心は限界だった。
なんとか自立するために仕事を始めようとするけれど、夫は自分の仕事につながる社交以外を認めてくれない。
そんな時に出会った画材工房で、私は絵を描く喜びに目覚めた。
そして気付いたのだ。今貴族女性でもつくことの出来る数少ない仕事のひとつである、魔法絵師としての力が私にあることに。
このまま絵を描き続けて、いざという時の為に自立しよう!
そう思っていた矢先、高価な魔石の粉末入りの絵の具を夫に捨てられてしまう。
絶望した私は、初めて夫に反抗した。
私の態度に驚いた夫だったけれど、私が絵を描く姿を見てから、なんだか夫の様子が変わってきて……?
そして新たに私の前に現れた5人の男性。
宮廷に出入りする化粧師。
新進気鋭の若手魔法絵師。
王弟の子息の魔塔の賢者。
工房長の孫の絵の具職人。
引退した元第一騎士団長。
何故か彼らに口説かれだした私。
このまま自立?再構築?
どちらにしても私、一人でも生きていけるように変わりたい!
コメントの人気投票で、どのヒーローと結ばれるかが変わるかも?
【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
諦めていた自由を手に入れた令嬢
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。
これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。
実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。
自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。
赤毛の伯爵令嬢
もも野はち助
恋愛
【あらすじ】
幼少期、妹と同じ美しいプラチナブロンドだった伯爵令嬢のクレア。
しかし10歳頃から急に癖のある赤毛になってしまう。逆に美しいプラチナブロンドのまま自由奔放に育った妹ティアラは、その美貌で周囲を魅了していた。いつしかクレアの婚約者でもあるイアルでさえ、妹に好意を抱いている事を知ったクレアは、彼の為に婚約解消を考える様になる。そんな時、妹のもとに曰く付きの公爵から婚約を仄めかすような面会希望の話がやってくる。噂を鵜呑みにし嫌がる妹と、妹を公爵に面会させたくない両親から頼まれ、クレアが代理で公爵と面会する事になってしまったのだが……。
※1:本編17話+番外編4話。
※2:ざまぁは無し。ただし妹がイラッとさせる無自覚系KYキャラ。
※3:全体的にヒロインへのヘイト管理が皆無の作品なので、読まれる際は自己責任でお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる