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入学前編
2. 公爵家からの呼び出し
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精神的な意味で散々な目にあった初社交界を終えた私は酷い顔をしていたらしい。
らしいというのは、使用人に指摘されても自分の顔を姿見で見ることなく、帰りの馬車の中で気絶するように眠ってしまったから。
これも今さっき、起きてから聞いた話なのだけど……。
起きた時は夜着を着ていたから、誰かがここまで運んでくれて着替えまでしてくれたはずなのだけど、誰がしてくれたかは知りたくない。
もしも着替えさせてくれたのが弟のアレクだったら、恥ずかしさで何かやらかしてしまう気がする。
とりあえず、いつも通り一人で着替えを始めた。
他所の家のお嬢様なら使用人に手伝ってもらうのが普通だと思うけど、財政に余裕がないうちは専属の使用人を置いていないから基本は一人か家族で助け合って準備をしている。
着替えを終えた私は朝食のために食卓に向かった。
その途中の階段をら降りたところで、アレクに後ろから声をかけられた。
「姉様、次からは自分の足で歩いてくださいね。重くて運ぶの大変だったんですよ」
なんだか失礼な言葉が聞こえた気がする。こんなはっきり聞こえているのに、これが聞き間違いなわけがない。
……これはお仕置きが必要ね!
「誰が重いって……?」
「……」
私が睨むとアレクはそっぽを向いて黙り込んだ。
「失礼な事言ってんじゃないわよ! デリカシーってものを知らないの⁉︎」
グリグリグリグリ……。
アレクのこめかみを押さえつける私。
力がなくても弱点を知っていれば痛みを味わせることくらいは出来る。
「痛い痛い……! ごめんなさい、姉さんはとっても軽いです!」
すぐに謝ってきたから、許すことにした。
一応言っておくと、アレクのさっきの言葉はふざけているだけで、決して私が重いわけではない。
むしろ軽いと思う。みんなから「もう少しふくよかになった方がいいよ」と言われるくらいだから。
朝食を終えた後、私の部屋の掃除をしていると血相を変えたお母様が飛び込んできた。
「リリー! あなた何をやらかしたの⁉︎」
昨日のことがバレてしまったみたい……。
嘘をついても意味がないから、私は素直に答えた。
「虐めの現場に遭遇したのと王子殿下に挨拶されたくらいで、何もやらかしてはないと思うけど……」
結局、あの後は何もよくない事は起こらなかったから大丈夫だと思う。
でも、お母様の顔色はますます悪くなった。
「それ、盛大にやらかしてるわよ! あなたにコンスリア公爵家のお嬢様から呼び出しが来てるのよ、何かされるに違いないわ」
「え……? ど、どうすればいいの?」
「着いたらすぐに謝って許してもらいなさい! それで許してもらえなかったら諦めなさい」
そんな絶望的な事を言うお母様。
本当に私はどうすればいいのよ……。
「そ、そんな……」
「絶対に家には被害が出ないようにしなさいね」
「努力します……」
お母様の言葉に私は曖昧な答えを返すのだった。
☆ ☆ ☆
翌日、私は馬車で公爵家に向かっていた。
「はぁ……」
まるで処刑される前の気分だ。そんな状況になった事はないけど、絶望的すぎてそんな例えしか浮かばない。
どうやってこの状況を回避しようか悩んでいるうちに、公爵邸に到着してしまった。
「いらっしゃいませ。早速で申し訳ありませんが、お嬢様のところまでご案内いたします」
「はい……」
恭しく頭を下げる男性の使用人さんに微妙な返事しか返せない私。
そのままお屋敷の中に連行……ではなく、案内されていった。
「お嬢様、お客様をお連れいたしました」
「ご苦労様、下がっていいわ」
「畏まりました」
頭を下げて離れていく使用人さんを横目に、私は目の前にいる公爵令嬢リーシェ様に頭を下げた。
「一昨日は申し訳ありませんでした!」
「貴女、何を謝っていますの? 顔をあげてくださいまし」
そう言われて頭を下げるのをやめると、リーシェ様が私を不思議そうに見ているのが分かった。
「一昨日、王子殿下とお近付きになってしまいましたし……」
身分の高い令嬢が想いを寄せているお方とお近付きになってしまったら、敵とみなされて社交界から追い出されてしまう。
そんなことが流行りの社交界を主題にした小説に書かれていた。
つまり、私はリーシェ様の敵とみなされてるわけで……今日呼ばれたのは私に脅しをするためだと思う。小説だと脅されていたから。
「好きな人が他の人に近付いたからって怒るような馬鹿な女ではありませんわ。貴女、小説の読みすぎですわよ」
なんで私が小説をたくさん読んでるって分かったのーー⁉︎
「でしたら、一昨日のあれはなんだったのですか?」
「難癖つけて侮辱されたから懲罰権で罰しただけですわ。なにがわたくしの殿下に近付かないでくださいまし、ですの⁉︎ 思い出しただけで苛々してきましたわ!」
一昨日私が見たあれは虐めではなかったみたい。
「すみません、見苦しいところを見せてしまいましたわ。実は、今日は貴女に相談があって来ていただきましたの」
「相談、ですか?」
怒られるものだと思っていたのに……なんだかよく分からない状況になってきた。
らしいというのは、使用人に指摘されても自分の顔を姿見で見ることなく、帰りの馬車の中で気絶するように眠ってしまったから。
これも今さっき、起きてから聞いた話なのだけど……。
起きた時は夜着を着ていたから、誰かがここまで運んでくれて着替えまでしてくれたはずなのだけど、誰がしてくれたかは知りたくない。
もしも着替えさせてくれたのが弟のアレクだったら、恥ずかしさで何かやらかしてしまう気がする。
とりあえず、いつも通り一人で着替えを始めた。
他所の家のお嬢様なら使用人に手伝ってもらうのが普通だと思うけど、財政に余裕がないうちは専属の使用人を置いていないから基本は一人か家族で助け合って準備をしている。
着替えを終えた私は朝食のために食卓に向かった。
その途中の階段をら降りたところで、アレクに後ろから声をかけられた。
「姉様、次からは自分の足で歩いてくださいね。重くて運ぶの大変だったんですよ」
なんだか失礼な言葉が聞こえた気がする。こんなはっきり聞こえているのに、これが聞き間違いなわけがない。
……これはお仕置きが必要ね!
「誰が重いって……?」
「……」
私が睨むとアレクはそっぽを向いて黙り込んだ。
「失礼な事言ってんじゃないわよ! デリカシーってものを知らないの⁉︎」
グリグリグリグリ……。
アレクのこめかみを押さえつける私。
力がなくても弱点を知っていれば痛みを味わせることくらいは出来る。
「痛い痛い……! ごめんなさい、姉さんはとっても軽いです!」
すぐに謝ってきたから、許すことにした。
一応言っておくと、アレクのさっきの言葉はふざけているだけで、決して私が重いわけではない。
むしろ軽いと思う。みんなから「もう少しふくよかになった方がいいよ」と言われるくらいだから。
朝食を終えた後、私の部屋の掃除をしていると血相を変えたお母様が飛び込んできた。
「リリー! あなた何をやらかしたの⁉︎」
昨日のことがバレてしまったみたい……。
嘘をついても意味がないから、私は素直に答えた。
「虐めの現場に遭遇したのと王子殿下に挨拶されたくらいで、何もやらかしてはないと思うけど……」
結局、あの後は何もよくない事は起こらなかったから大丈夫だと思う。
でも、お母様の顔色はますます悪くなった。
「それ、盛大にやらかしてるわよ! あなたにコンスリア公爵家のお嬢様から呼び出しが来てるのよ、何かされるに違いないわ」
「え……? ど、どうすればいいの?」
「着いたらすぐに謝って許してもらいなさい! それで許してもらえなかったら諦めなさい」
そんな絶望的な事を言うお母様。
本当に私はどうすればいいのよ……。
「そ、そんな……」
「絶対に家には被害が出ないようにしなさいね」
「努力します……」
お母様の言葉に私は曖昧な答えを返すのだった。
☆ ☆ ☆
翌日、私は馬車で公爵家に向かっていた。
「はぁ……」
まるで処刑される前の気分だ。そんな状況になった事はないけど、絶望的すぎてそんな例えしか浮かばない。
どうやってこの状況を回避しようか悩んでいるうちに、公爵邸に到着してしまった。
「いらっしゃいませ。早速で申し訳ありませんが、お嬢様のところまでご案内いたします」
「はい……」
恭しく頭を下げる男性の使用人さんに微妙な返事しか返せない私。
そのままお屋敷の中に連行……ではなく、案内されていった。
「お嬢様、お客様をお連れいたしました」
「ご苦労様、下がっていいわ」
「畏まりました」
頭を下げて離れていく使用人さんを横目に、私は目の前にいる公爵令嬢リーシェ様に頭を下げた。
「一昨日は申し訳ありませんでした!」
「貴女、何を謝っていますの? 顔をあげてくださいまし」
そう言われて頭を下げるのをやめると、リーシェ様が私を不思議そうに見ているのが分かった。
「一昨日、王子殿下とお近付きになってしまいましたし……」
身分の高い令嬢が想いを寄せているお方とお近付きになってしまったら、敵とみなされて社交界から追い出されてしまう。
そんなことが流行りの社交界を主題にした小説に書かれていた。
つまり、私はリーシェ様の敵とみなされてるわけで……今日呼ばれたのは私に脅しをするためだと思う。小説だと脅されていたから。
「好きな人が他の人に近付いたからって怒るような馬鹿な女ではありませんわ。貴女、小説の読みすぎですわよ」
なんで私が小説をたくさん読んでるって分かったのーー⁉︎
「でしたら、一昨日のあれはなんだったのですか?」
「難癖つけて侮辱されたから懲罰権で罰しただけですわ。なにがわたくしの殿下に近付かないでくださいまし、ですの⁉︎ 思い出しただけで苛々してきましたわ!」
一昨日私が見たあれは虐めではなかったみたい。
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