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第2話
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戦闘が終わると、ダンジョンに淀んだ雰囲気が漂った。
倒れたダスクハウンドの死体が床に転がり、鉄と腐敗の臭いが鼻を突く。
沈黙を切り裂くのは、レオンの剣が鞘に収まる金属音だけだ。
リクは肩を押さえ、ふらつきながら膝をついた。
血が滲み、痛みがジンジンと脈打った。
体が熱を帯び、視界がぼやけた。
レオンの冷ややかな口調が場を突き刺した。
「……お前がいなけりゃ、こんな被害は出なかった」
息が止まる。
「正直、邪魔なんだよ」
カインが苛立ちを滲ませた口ぶりで続ける。
「俺たちは命かけてんだ。お前と違って、背負うもんがあるんだ」
その発言に少年の心が反発する。
命をかけてない?
俺だって、必死で……!
だが、何も言えなかった。
カインの目が険しくなる。
「弱い奴がパーティにいると、誰かが死ぬんだ!」
カインの感情が溢れ出していた。
「……お前みたいな奴がいると、みんなが危ないんだ!」
ガルドも重々しい口調で吐き捨てる。
「俺も同じ意見だ。パーティにお前は、もう必要ねぇ」
彼の眼差しは静かだが、その発言は心に切り込む。
「今日みたいな事が続くと、俺も守り切れねぇ……」
レオンの表情が固まり、カインは怒りをにじませ、ガルドは沈黙の中に拒絶の意志を込めていた。
唯一、リリィだけが見つめていた。
彼女の指がわずかに動き、近づこうとしたが、レオンの厳しい睨みに押し戻された。
「リリィ、余計なことはするな」
レオンの語気に、リリィの唇がわずかにわななく。
カインが畳みかける。
「お前も分かってるだろ? 弱い奴は追い出されるのが常識だ」
リリィの表情に、わずかに同情の色が滲む。
レオンが続ける。
「昔はお前もがむしゃらだった。でも最近は全然ダメだ。やる気がないようにしか見えない」
「そんなことない! 彼は毎日頑張ってるよ!」
リリィが割って入った。
胸が締め付けられるような感覚が走る。
脳裏に、訓練場の夜が蘇る。
木剣を握り、一人で汗と泥にまみれていた場面。
何度も打ち込み、豆が潰れても、歯を食いしばって振り続けた日々。
リリィが水を差し出し、穏やかに微笑む。
「諦めない姿、嫌いじゃないよ」
孤独だった心に、小さな光が灯る。
リリィのこわばる指先が、その夜の温もりを呼び起こす。
「黙っていろと言っただろ! 甘やかすから調子に乗るんだ!」
リリィの掌に力が込められた。
「……役に立ちたいと」
心の中でつぶやくしかなかった。
静けさだけが、重く場を包んだ。
レオンの口調は冷たいが、瞳の奥には焦燥が滲んでいた。
「信じたかった。だが、このパーティは俺の全てだ。命令に従えないなら……置いていくしかない」
支える剣が微かに震えている。
カインは無言でうなずき、リリィは視線を落とした。
「でも……」
囁きは、壊れそうなガラスのようにか細かった。
一歩、踏み出そうとする。
「命がかかってんだ! お前が死ぬかもしれないんだぞ!」
カインの声が空気を裂く。
リリィの肩がわずかにこわばる。
重い無念が、胸を押し潰す。
ガルドが最後の一撃を告げる。
「引退した方がいい」
宣告が、精神を削ぎ落としていった。
喉が乾き、声も出せない。
それは、揺るぎない「決定事項」だった。
冷ややかな虚無が、じわりと内側に広がる。
フラッシュバックが脳裏を走る。
誰にも見られない努力。
それらは、地球での孤独な日々と重なる。
独学でコードを学び、バグを潰し、報われることなく、それでも信じて努力した時間。
「努力すれば、報われる」
そう信じていた。
だが、現実は違った。
壁に背を預け、血に濡れ固まった腕を見つめる。
「……俺には、何もないのか」
周囲では、次の探索の準備が淡々と進んでいた。
レオンは剣を拭き、カインは矢筒を調べ、リリィはガルドに回復魔法をかける。
リクだけが、取り残されていた。
立ち上がろうとしたその時、ガルドの巨体が無言で行く手を塞ぐ。
空間がざわめいた。
《インストール完了》
《デバッグモード起動中……システムエラー検知》
《システムエラー:修正可能》
《強制実行開始》
コンソールからアラート音が脳内に響く。
頭に衝撃が走り、空間が歪む。
世界が一瞬、フリーズしたかのようだった。
「うっ……!」
体が崩れ落ち、意識は闇に呑まれる。
仲間たちは振り返らない。
リリィだけが、一瞥を送るが、すぐに顔を伏せた。
深く暗いダンジョンの影が、少年を静かに包み込んだ。
倒れたダスクハウンドの死体が床に転がり、鉄と腐敗の臭いが鼻を突く。
沈黙を切り裂くのは、レオンの剣が鞘に収まる金属音だけだ。
リクは肩を押さえ、ふらつきながら膝をついた。
血が滲み、痛みがジンジンと脈打った。
体が熱を帯び、視界がぼやけた。
レオンの冷ややかな口調が場を突き刺した。
「……お前がいなけりゃ、こんな被害は出なかった」
息が止まる。
「正直、邪魔なんだよ」
カインが苛立ちを滲ませた口ぶりで続ける。
「俺たちは命かけてんだ。お前と違って、背負うもんがあるんだ」
その発言に少年の心が反発する。
命をかけてない?
俺だって、必死で……!
だが、何も言えなかった。
カインの目が険しくなる。
「弱い奴がパーティにいると、誰かが死ぬんだ!」
カインの感情が溢れ出していた。
「……お前みたいな奴がいると、みんなが危ないんだ!」
ガルドも重々しい口調で吐き捨てる。
「俺も同じ意見だ。パーティにお前は、もう必要ねぇ」
彼の眼差しは静かだが、その発言は心に切り込む。
「今日みたいな事が続くと、俺も守り切れねぇ……」
レオンの表情が固まり、カインは怒りをにじませ、ガルドは沈黙の中に拒絶の意志を込めていた。
唯一、リリィだけが見つめていた。
彼女の指がわずかに動き、近づこうとしたが、レオンの厳しい睨みに押し戻された。
「リリィ、余計なことはするな」
レオンの語気に、リリィの唇がわずかにわななく。
カインが畳みかける。
「お前も分かってるだろ? 弱い奴は追い出されるのが常識だ」
リリィの表情に、わずかに同情の色が滲む。
レオンが続ける。
「昔はお前もがむしゃらだった。でも最近は全然ダメだ。やる気がないようにしか見えない」
「そんなことない! 彼は毎日頑張ってるよ!」
リリィが割って入った。
胸が締め付けられるような感覚が走る。
脳裏に、訓練場の夜が蘇る。
木剣を握り、一人で汗と泥にまみれていた場面。
何度も打ち込み、豆が潰れても、歯を食いしばって振り続けた日々。
リリィが水を差し出し、穏やかに微笑む。
「諦めない姿、嫌いじゃないよ」
孤独だった心に、小さな光が灯る。
リリィのこわばる指先が、その夜の温もりを呼び起こす。
「黙っていろと言っただろ! 甘やかすから調子に乗るんだ!」
リリィの掌に力が込められた。
「……役に立ちたいと」
心の中でつぶやくしかなかった。
静けさだけが、重く場を包んだ。
レオンの口調は冷たいが、瞳の奥には焦燥が滲んでいた。
「信じたかった。だが、このパーティは俺の全てだ。命令に従えないなら……置いていくしかない」
支える剣が微かに震えている。
カインは無言でうなずき、リリィは視線を落とした。
「でも……」
囁きは、壊れそうなガラスのようにか細かった。
一歩、踏み出そうとする。
「命がかかってんだ! お前が死ぬかもしれないんだぞ!」
カインの声が空気を裂く。
リリィの肩がわずかにこわばる。
重い無念が、胸を押し潰す。
ガルドが最後の一撃を告げる。
「引退した方がいい」
宣告が、精神を削ぎ落としていった。
喉が乾き、声も出せない。
それは、揺るぎない「決定事項」だった。
冷ややかな虚無が、じわりと内側に広がる。
フラッシュバックが脳裏を走る。
誰にも見られない努力。
それらは、地球での孤独な日々と重なる。
独学でコードを学び、バグを潰し、報われることなく、それでも信じて努力した時間。
「努力すれば、報われる」
そう信じていた。
だが、現実は違った。
壁に背を預け、血に濡れ固まった腕を見つめる。
「……俺には、何もないのか」
周囲では、次の探索の準備が淡々と進んでいた。
レオンは剣を拭き、カインは矢筒を調べ、リリィはガルドに回復魔法をかける。
リクだけが、取り残されていた。
立ち上がろうとしたその時、ガルドの巨体が無言で行く手を塞ぐ。
空間がざわめいた。
《インストール完了》
《デバッグモード起動中……システムエラー検知》
《システムエラー:修正可能》
《強制実行開始》
コンソールからアラート音が脳内に響く。
頭に衝撃が走り、空間が歪む。
世界が一瞬、フリーズしたかのようだった。
「うっ……!」
体が崩れ落ち、意識は闇に呑まれる。
仲間たちは振り返らない。
リリィだけが、一瞥を送るが、すぐに顔を伏せた。
深く暗いダンジョンの影が、少年を静かに包み込んだ。
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