行くゼ! 音弧野高校声優部

涼紀水無月

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めんどくせ

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「ホラ、音弧野王者決定戦にはレスリングもあるだろう? そこで良い成績を残したいんだって。彼、スピードとかアジリティとかには相当自信があるらしいんだけどね、いかんせん体が小さいからパワーに劣る。だから、パワー系競技は捨てて、少しでも可能性のあるレスリングで少しでも加点したいんだって。柔よく剛を制す、を目論んでるわけだね。でも、さすがに当日にライバルとなるレスリング部には行けない。一方、ウチは残念ながら同好会だからね。決定戦には参加する資格がない。気兼ねなく弟子入りできるってわけサ」

「なるほど……。部費、欲しいですもんね」

「それもあるけど、優勝したら、元々の部費自体も底上げしてやるって校長に言われたんだって」

「おぉ……!」

 また校長か! しかも、一度ならず二度までもあんな熊に直談判するとは! さすがに星野、肝が座っている。

「でも、西元さんとは大丈夫なんですか?」

「大丈夫、って?」

「だって、野球部辞めた西元さんと星野さんがプロレス同好会の……」

「OWE」

 めんどくせ。

「すみません……。の道場で会ったら、めんどくさいことになりませんか?」

「うん。西元は野球部に戻ったよ」

「え!」

「県予選の、三回戦くらいかな? そこからは再びエースとして野球部で投げたよ。僕に土下座してね。もう一度マウンドに立ちたいんだ、って」

 土下座……。今は確か昭和じゃないよな?

「時は来た、と思ってね。無論、激励して送り出したよ。まぁ、残念ながら準決勝で負けちゃったけどね。相手が悪いというのもあったね。なんせ、結局相手は甲子園に行っちゃったんだから」

「接戦だったんですか?」

「五回コールド負け」

 惜しくも何ともねーな。


   ◇   ◇   ◇


 結局、スタバではまるで集中できないので早々に退散した(帰りの電車賃は近藤さんに借りた。奢ると言われたが、さすがにそれは悪い)。

 一行も書けなかった。どうしようかと途方に暮れて帰り道を歩いていた時、そういえば今日はジャンプの発売日だったなぁ、と思い出した。こうしちゃおれん。俺はすぐさま最寄りのコンビニへ向かおうとした。

 いや待て。閃いた。マンガはどうだろうか? マンガなら俺は詳しい。毎週五誌くらい欠かさず読んでる。そういえば、マンガやアニメの舞台化は多いではないか。そうだマンガだ。よし、マンガを参考にして書いてみよう。

 そう思いついてからは早かった。参考資料(ジャンプ)を購入した後、俺の好きな近未来系バトルマンガを下敷きにして、生まれて初めての脚本を執筆した。徹夜もしつつ、三日後には完成した。

 しかし、出来上がった脚本を読み返してみたら、登場人物の名前を変えただけでまんま同じ内容になってしまった。マンガを台詞にしただけの話だ。パクるのにも程がある、と自分に突っ込んでしまったくらいだ。三日間の努力が無駄になり、自分に絶望感を抱きつつ、急激に疲れが襲ってきて、それから二日間は寝て過ごした。

 そんな感じで更に時間は無駄に流れ、夏休みは半分を過ぎた。


   ◇   ◇   ◇


 うだるような暑さの中、流介から連絡が入った。今すぐ来いという。何か進展があったか、と急いで支度をして指定の場所に向かった。

 音弧野高の最寄駅の駅ビルにあるサイゼに行くと、既に流介がテーブルに着いてオレンジジュースをすすっていた。

「よう」

「久しぶり。脚本どう?」

「いやー……、書けねぇ」

「だろうね」

 いやホントこいつブン殴ってやろうかなーと思うが、事実なので何の反論もできない。怒りを抑えるためにとりあえずメニューを開く。丁度昼メシはまだ食ってなかったのでキャベツのペペロンチーノとドリンクバーを注文し、アイスコーヒーを持ってくる。それにしても、百九十円で何杯も飲み放題とういこのシステムは素晴らしい。スタバも見習ってはどうだろうか。

 席に戻ると流介はノートを俺に寄こした。もちろん、マッキントッシュなどではない。断じてない。古びた、一冊のキャンパスノートだった。

「なんだこれ?」

「それを脚本にしようと思うんだけど、どうかなぁ?」

 冷たいアイスコーヒーをストローですすりつつ、ノートを開く。どうでもいいが、先日スタバでキャラメルフラペチーノ(Tall、¥539)飲んだ後だと、なんというか……。まぁ、値段は正直だ。

 ノートに目を通すと、明らかに女の字だった。俺らとタメ年くらいっぽいが、なんとなく古臭い字体だ。

「これ、誰の?」

「大丈夫」

 質問と答えが完全に食い違っている。こういう場合、大丈夫なわけはない。そもそも、流介の大丈夫ほど怪しいものはない。しかし、ワラにもすがる状況なので、目を瞑るしかない。必要悪と判断して、一応読んでみることにする。

 そのノートには書かれていた……小説と言って良いのだろうか、とにかく文章は、ごく短い、掌編とでもいうべきものだったので、簡単に読めた。
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