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第二章 されるがままに身を任せながら
恋
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寝静まった王宮の奥。
扉をノックすると、中から静かな声が返ってきた。
「……どうぞ」
入ると、暖炉の灯りだけが揺れる部屋で、シルヴィアがひとり、ソファーに腰掛けていた。
夜着姿のまま、レースの髪飾りも外して、少女の素顔に戻っている。
「ラシェル……遅い時間にどうしたの?」
少し驚いたような声だったが、顔はやわらかかった。
ラシェルはドアを閉め、小さく息を整えると、意を決したように言った。
「……王妃様。以前、おっしゃってたこと……恋をしたら、こっそり教えてって……」
シルヴィアは目を瞬いた。
そして、少し年頃の女の子らしい、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「まさか! 本当に報告に来てくれるなんて! 嬉しいけど……ちょっと、こっちが照れそうよ」
ラシェルも、恥ずかしそうに笑った。
そして、ゆっくりとソファーに近づいて、シルヴィアの横に腰掛けた。
「……彼と踊っていて、気づいたんです。手を取るたびに、胸が苦しくて。その人の話を聞くたびに、もっと知りたいって思ってしまって……手を放したくなくて……」
きゃーっと、頬に手を添えて、ラシェルは少し顔を伏せた。
美しいラシェルのその様子を見ているだけで、シルヴィアは自分も胸がときめく。
「こんな気持ち、初めてです。誰かに言わないと苦しくて死んでしまいそうで。王妃様に教えてって言われてて良かった」
シルヴィアは、それを聞いて、ふっと小さく笑った。
でもその笑みの奥に、ほんの少し、寂しさのような、憧れのようなものが混じっていた。
「……ラシェル。実はわたし、恋って、ちゃんとしたものをしたことがないの」
「え……?」
「結婚前に、従弟のことを素敵だなって思ったくらい。でも、それも結局、家の中で許された範囲の感情よ。本気で、どうしようもなく惹かれた経験はないわ」
そう言って、シルヴィアは少しだけ顔を上げて、天井を見た。
「だから、ラシェルが誰かを好きって思えたこと……ちょっと羨ましい」
ラシェルは、驚いたように彼女を見つめた。
「王妃様が……?」
「だって、わたしは王妃になって、恋をしていいのか、どうすればいいのかも、わからなくなってしまって」
それは、彼女が普段決して見せない、誰にも言えない気持ちのかけらだった。
ラシェルは、思わずその手に自分の手を重ねていた。
敬意も、忠誠もある。
けれど今は、それよりも、ただ友達として、そばにいたかった。
「……じゃあ、王妃様も、こっそり教えてくださいね。恋をしたら、私に」
シルヴィアは一瞬目を見開いて、そして、笑った。
本当に、心から笑ったのは、何日ぶりだっただろう。
「ええ、約束するわ。誰より先に、ラシェルに伝える」
「ふたりだけの秘密、ですね」
「ふたりだけの秘密」
暖炉の火が、ぱちりと音を立てる。
そして、二人の少女の胸に灯った、恋と友情の火は、静かに燃えていた。
扉をノックすると、中から静かな声が返ってきた。
「……どうぞ」
入ると、暖炉の灯りだけが揺れる部屋で、シルヴィアがひとり、ソファーに腰掛けていた。
夜着姿のまま、レースの髪飾りも外して、少女の素顔に戻っている。
「ラシェル……遅い時間にどうしたの?」
少し驚いたような声だったが、顔はやわらかかった。
ラシェルはドアを閉め、小さく息を整えると、意を決したように言った。
「……王妃様。以前、おっしゃってたこと……恋をしたら、こっそり教えてって……」
シルヴィアは目を瞬いた。
そして、少し年頃の女の子らしい、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「まさか! 本当に報告に来てくれるなんて! 嬉しいけど……ちょっと、こっちが照れそうよ」
ラシェルも、恥ずかしそうに笑った。
そして、ゆっくりとソファーに近づいて、シルヴィアの横に腰掛けた。
「……彼と踊っていて、気づいたんです。手を取るたびに、胸が苦しくて。その人の話を聞くたびに、もっと知りたいって思ってしまって……手を放したくなくて……」
きゃーっと、頬に手を添えて、ラシェルは少し顔を伏せた。
美しいラシェルのその様子を見ているだけで、シルヴィアは自分も胸がときめく。
「こんな気持ち、初めてです。誰かに言わないと苦しくて死んでしまいそうで。王妃様に教えてって言われてて良かった」
シルヴィアは、それを聞いて、ふっと小さく笑った。
でもその笑みの奥に、ほんの少し、寂しさのような、憧れのようなものが混じっていた。
「……ラシェル。実はわたし、恋って、ちゃんとしたものをしたことがないの」
「え……?」
「結婚前に、従弟のことを素敵だなって思ったくらい。でも、それも結局、家の中で許された範囲の感情よ。本気で、どうしようもなく惹かれた経験はないわ」
そう言って、シルヴィアは少しだけ顔を上げて、天井を見た。
「だから、ラシェルが誰かを好きって思えたこと……ちょっと羨ましい」
ラシェルは、驚いたように彼女を見つめた。
「王妃様が……?」
「だって、わたしは王妃になって、恋をしていいのか、どうすればいいのかも、わからなくなってしまって」
それは、彼女が普段決して見せない、誰にも言えない気持ちのかけらだった。
ラシェルは、思わずその手に自分の手を重ねていた。
敬意も、忠誠もある。
けれど今は、それよりも、ただ友達として、そばにいたかった。
「……じゃあ、王妃様も、こっそり教えてくださいね。恋をしたら、私に」
シルヴィアは一瞬目を見開いて、そして、笑った。
本当に、心から笑ったのは、何日ぶりだっただろう。
「ええ、約束するわ。誰より先に、ラシェルに伝える」
「ふたりだけの秘密、ですね」
「ふたりだけの秘密」
暖炉の火が、ぱちりと音を立てる。
そして、二人の少女の胸に灯った、恋と友情の火は、静かに燃えていた。
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