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第三章 わたしの身体で証明してみせます
恋人とは違いますか?*
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夜の帳が降りる頃、王妃の寝室には燭台の灯りがともり、淡い光が壁の織物に揺れていた。
シルヴィアは鏡台の前で髪を梳きながら、ゆっくりと深呼吸をする。
今日、ホープが帰還した。
しかし、そこに亡国の第二皇子の姿はなく、ホープの双子の姉ジェード・ダークだけを連れて。
シルヴィアは、昼間に、二人が謁見の間に入っていく姿を見かけた。
その時に見たホープの姉は、何かを深く秘めたような漆黒の瞳だったのを思い出していた。
やがて、扉を控えめに叩く音がして、ギリアンが寝室に入ってくる。
衣を脱ぐこともなく、ギリアンは椅子に腰を下ろした。
「……陛下、少しだけお話をしても?」
「……もちろん」
そう言ったギリアンに向かい合いながら、シルヴィアは言葉を選びつつ口を開いた。
「今日、ホープ卿が謁見に向かうのを見かけました」
「……少し問題がありましたが、心配には及ばない」
「何があったか、お聞きしても?」
ギリアンは、少しの沈黙の後、口を開いた。
「例の第二皇子が、行方をくらませました」
一瞬の静寂。
シルヴィアは思わず両手で口元を押さえた。
「……護送任務は無事に終えたとばかり……」
「シーランド側……いや、僕の姉、リナリーの仕業だろう」
淡々と告げながらも、ギリアンの声にはかすかに苛立ちが滲んでいた。
リナリーのことは、政治に疎いシルヴィアでも知っている。祖国シーランドの『元』王妃だ。
「では、第二皇子を取り戻すのですか?」
ギリアンはシルヴィアを見つめる。
「僕は、見捨てるべきだと思ったが……ジェード・ダークは、ラシーディアの情報と引き換えに、皇子の奪還を嘆願してきました」
「そのジェード・ダークさんと、第二皇子のことですけど……もしかしたら、お二人は、恋人同士なのではと……わたしは、そう思います」
ギリアンの目が一瞬だけ細められたが、何も否定も肯定もせず、黙ってシルヴィアの言葉を待っていた。
「わたし……そんな風に、誰かを想ったことがありません。……誰にも、まだ」
自嘲を含んだ笑みを浮かべながらも、シルヴィアの指先は膝の上で固く握られていた。
「……わたしたちは、恋人同士とは違いますか?」
静かに置かれたその問いは、まるで一枚の羽のように落ちた。
ギリアンは黙ったまま動かず、その目の奥に、小さな迷いの光が宿る。
「……すまない。その問いには、答えを持ち合わせていない」
声は低く、普段通りの調子でありながら、その奥に揺れがあった。
次の瞬間、ギリアンの手が彼女の頬に触れる。
その手の熱さに、シルヴィアは不意に息を呑んだ。
唇が重なり、体温が重なる。
ただ触れるだけだった口づけが、少しずつ深くなっていく。
それは義務ではなく、確認でもない。
まるで名前のない想いを探すような、手探りのやさしさだった。
背に回した腕に、シルヴィア自身の想いがこぼれる。
その小さな一歩が、ギリアンの沈黙を溶かしていく。
熱が、混じり合っていく。
(……いつもと、違う……)
シルヴィアの予感は的中した。
ギリアンの動きは慎重で、けれどどこか焦りがあった。
肩を抱かれ、寝台に導かれながら、シルヴィアは戸惑いにも似た熱を感じていた。
儀式のようだった夜とは、違っていた。
ギリアンの指が肌に触れるたび、熱がじわりと広がっていく。
髪を撫で、首筋に口づけが落とされ、腰を抱かれる――
その一つひとつに、ギリアンの思いが滲んでいた。
シルヴィアは、そっと自分から腕を伸ばし、ギリアンの背を抱いた。
その小さな仕草に、ギリアンの動きが止まる。
目が合う。
そして、再び重なった。
重ねられるキスは深く、肌の熱は混じり合い、シルヴィアの吐息が喉奥からこぼれた。
ギリアンの熱が、体の中へと流れ込む。
手が、脚が、ゆっくりと絡まり、ためらいが少しずつ愛しさに変わってゆく。
まるで、何かを確かめるように。
「……君のぬくもりだけは、信じられる……」
その囁きに、シルヴィアは思わず涙がにじみそうになった。
ギリアンの声が、触れるよりもあたたかくて、なのに何故か苦しい。
けれど、幸福だった。
たった一夜で、すべてが変わるとは思っていない。
でも、少しだけ。
ほんの少しだけ、恋人のようになれた気がした。
シルヴィアは鏡台の前で髪を梳きながら、ゆっくりと深呼吸をする。
今日、ホープが帰還した。
しかし、そこに亡国の第二皇子の姿はなく、ホープの双子の姉ジェード・ダークだけを連れて。
シルヴィアは、昼間に、二人が謁見の間に入っていく姿を見かけた。
その時に見たホープの姉は、何かを深く秘めたような漆黒の瞳だったのを思い出していた。
やがて、扉を控えめに叩く音がして、ギリアンが寝室に入ってくる。
衣を脱ぐこともなく、ギリアンは椅子に腰を下ろした。
「……陛下、少しだけお話をしても?」
「……もちろん」
そう言ったギリアンに向かい合いながら、シルヴィアは言葉を選びつつ口を開いた。
「今日、ホープ卿が謁見に向かうのを見かけました」
「……少し問題がありましたが、心配には及ばない」
「何があったか、お聞きしても?」
ギリアンは、少しの沈黙の後、口を開いた。
「例の第二皇子が、行方をくらませました」
一瞬の静寂。
シルヴィアは思わず両手で口元を押さえた。
「……護送任務は無事に終えたとばかり……」
「シーランド側……いや、僕の姉、リナリーの仕業だろう」
淡々と告げながらも、ギリアンの声にはかすかに苛立ちが滲んでいた。
リナリーのことは、政治に疎いシルヴィアでも知っている。祖国シーランドの『元』王妃だ。
「では、第二皇子を取り戻すのですか?」
ギリアンはシルヴィアを見つめる。
「僕は、見捨てるべきだと思ったが……ジェード・ダークは、ラシーディアの情報と引き換えに、皇子の奪還を嘆願してきました」
「そのジェード・ダークさんと、第二皇子のことですけど……もしかしたら、お二人は、恋人同士なのではと……わたしは、そう思います」
ギリアンの目が一瞬だけ細められたが、何も否定も肯定もせず、黙ってシルヴィアの言葉を待っていた。
「わたし……そんな風に、誰かを想ったことがありません。……誰にも、まだ」
自嘲を含んだ笑みを浮かべながらも、シルヴィアの指先は膝の上で固く握られていた。
「……わたしたちは、恋人同士とは違いますか?」
静かに置かれたその問いは、まるで一枚の羽のように落ちた。
ギリアンは黙ったまま動かず、その目の奥に、小さな迷いの光が宿る。
「……すまない。その問いには、答えを持ち合わせていない」
声は低く、普段通りの調子でありながら、その奥に揺れがあった。
次の瞬間、ギリアンの手が彼女の頬に触れる。
その手の熱さに、シルヴィアは不意に息を呑んだ。
唇が重なり、体温が重なる。
ただ触れるだけだった口づけが、少しずつ深くなっていく。
それは義務ではなく、確認でもない。
まるで名前のない想いを探すような、手探りのやさしさだった。
背に回した腕に、シルヴィア自身の想いがこぼれる。
その小さな一歩が、ギリアンの沈黙を溶かしていく。
熱が、混じり合っていく。
(……いつもと、違う……)
シルヴィアの予感は的中した。
ギリアンの動きは慎重で、けれどどこか焦りがあった。
肩を抱かれ、寝台に導かれながら、シルヴィアは戸惑いにも似た熱を感じていた。
儀式のようだった夜とは、違っていた。
ギリアンの指が肌に触れるたび、熱がじわりと広がっていく。
髪を撫で、首筋に口づけが落とされ、腰を抱かれる――
その一つひとつに、ギリアンの思いが滲んでいた。
シルヴィアは、そっと自分から腕を伸ばし、ギリアンの背を抱いた。
その小さな仕草に、ギリアンの動きが止まる。
目が合う。
そして、再び重なった。
重ねられるキスは深く、肌の熱は混じり合い、シルヴィアの吐息が喉奥からこぼれた。
ギリアンの熱が、体の中へと流れ込む。
手が、脚が、ゆっくりと絡まり、ためらいが少しずつ愛しさに変わってゆく。
まるで、何かを確かめるように。
「……君のぬくもりだけは、信じられる……」
その囁きに、シルヴィアは思わず涙がにじみそうになった。
ギリアンの声が、触れるよりもあたたかくて、なのに何故か苦しい。
けれど、幸福だった。
たった一夜で、すべてが変わるとは思っていない。
でも、少しだけ。
ほんの少しだけ、恋人のようになれた気がした。
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