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第三章 わたしの身体で証明してみせます
風評被害
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冬の終わりが見えない二月、神聖ヴァロニア軍(旧反王太子派)がついに進軍を開始した。
名目は『魔女の討伐』。だが実際には、シーランドとヴァロニアの合同軍によって築かれた『魔女王政への反旗』であり、旧体制に固執する貴族層と教会勢力が主導する戦いだった。
これに応じる形で、魔女王ギリアンは王都ランスより精鋭を出陣させた。
旗印は、金糸の刺繍で描かれた黒髪の魔女。漆黒の髪を持つ王自身が掲げるその紋章は、かつて呪われし印と恐れられていたが、いまや『変革』と『正義』の象徴として、多くの民の心を掴んでいた。
軍師ヴィンセントの策によって、開戦初頭は魔女王軍が圧倒的に優位に立った。
戦線は安定し、敵将の動きを封じる奇策も次々と成功した。
だが、その強さこそが、新たな恐怖を呼び起こしてしまった。
「黒髪の軍が、人を焼いた」
「黒い瞳の兵が、呪いを使った」
そんな噂が、風のように民衆の間を駆け抜けた。
どれほど勝っても、どれほど規律を守っても、『魔女』の烙印は拭えなかった。
村では密かに「黒髪の子供を外に出すな」と言われ、街では「魔女王の時代は異端の支配だ」と囁かれた。
勝利が憎悪を生み、正義が疑念を招く。
ギリアンとその仲間たちは、その皮肉な現実を、最前線で噛みしめることとなった。
ギリアンたちが戦場に赴いている間も、王宮には緊張の気配が色濃く残っていた。
新王の即位によっていったんは鎮まったざわめきは、再び【黒】への恐怖という形で、ひそやかに芽吹きはじめていた。
ホープは戦場には赴かなかった。
今や『王の寵臣』として名の知られた黒髪の騎士ホープ、同じ髪と瞳を持つ双子の姉、ジェード。
二人の存在は、魔女王派であるはずの貴族たちの間でも、密かに波紋と不安を呼んでいた。
それでもホープは、王宮の図書室や政務文書の山から、ジェードが異国の記録から知ったと言う『黒髪と古のヴァロニア王家』に関する情報を探し続けていた。
古い記録のなかに、かすかな手がかりを見つけては、夜ごと灯下に広げて読みふける。
ギリアンの「君には、君にしかできない場所で働いてほしい」という言葉が、ホープの胸の奥に、今も静かに灯っていた。
* * * * *
ラシェルはジェードと冬の庭園を歩いていた。
白く凍えた薔薇園は、葉を落とし、荒れ果てた茨の枝だけが残されている。
けれど、その荒涼とした景色のなかでさえ、少女たちの歩みはどこか静かで、やさしい空気をまとっていた。
「ラシェル様、あなたのこと、ホーから聞きました」
ジェードの声は、思いのほか柔らかかった。
ゆるく波打つ黒髪が風に揺れ、ところどころ短く切りそろえられた髪が、過去の痕跡を物語るようだった。
「……あれが、例の黒髪の女よ」
「王の側近の身内らしいけど……魔女じゃないの?」
「まさか、王宮の中にまで入れるなんて……」
葉の落ちた薔薇の垣根の向こうで、貴婦人たちのひそひそ声が交わされていた。
ラシェルの耳にも、それははっきりと届いていた。
ふと横を見れば、ジェードは目を伏せ、無言で歩いている。
いつもの微笑みは、どこにもなかった。
ラシェルの胸には、不安が募っていた。
自分は金髪に蒼い瞳を持ち、これまで疑念を向けられたことなどなかった。
けれど、ギリアン陛下は?
ホープは?
ジェードは?
そして、二人が生まれ育った領地ヘーンブルグには、黒髪を持つ民がたくさんいる。
――この国は、本当に『黒髪』を受け入れられるのだろうか?
その問いが、枯れ草と土の匂いの奥で、静かに芽吹きはじめていた。
名目は『魔女の討伐』。だが実際には、シーランドとヴァロニアの合同軍によって築かれた『魔女王政への反旗』であり、旧体制に固執する貴族層と教会勢力が主導する戦いだった。
これに応じる形で、魔女王ギリアンは王都ランスより精鋭を出陣させた。
旗印は、金糸の刺繍で描かれた黒髪の魔女。漆黒の髪を持つ王自身が掲げるその紋章は、かつて呪われし印と恐れられていたが、いまや『変革』と『正義』の象徴として、多くの民の心を掴んでいた。
軍師ヴィンセントの策によって、開戦初頭は魔女王軍が圧倒的に優位に立った。
戦線は安定し、敵将の動きを封じる奇策も次々と成功した。
だが、その強さこそが、新たな恐怖を呼び起こしてしまった。
「黒髪の軍が、人を焼いた」
「黒い瞳の兵が、呪いを使った」
そんな噂が、風のように民衆の間を駆け抜けた。
どれほど勝っても、どれほど規律を守っても、『魔女』の烙印は拭えなかった。
村では密かに「黒髪の子供を外に出すな」と言われ、街では「魔女王の時代は異端の支配だ」と囁かれた。
勝利が憎悪を生み、正義が疑念を招く。
ギリアンとその仲間たちは、その皮肉な現実を、最前線で噛みしめることとなった。
ギリアンたちが戦場に赴いている間も、王宮には緊張の気配が色濃く残っていた。
新王の即位によっていったんは鎮まったざわめきは、再び【黒】への恐怖という形で、ひそやかに芽吹きはじめていた。
ホープは戦場には赴かなかった。
今や『王の寵臣』として名の知られた黒髪の騎士ホープ、同じ髪と瞳を持つ双子の姉、ジェード。
二人の存在は、魔女王派であるはずの貴族たちの間でも、密かに波紋と不安を呼んでいた。
それでもホープは、王宮の図書室や政務文書の山から、ジェードが異国の記録から知ったと言う『黒髪と古のヴァロニア王家』に関する情報を探し続けていた。
古い記録のなかに、かすかな手がかりを見つけては、夜ごと灯下に広げて読みふける。
ギリアンの「君には、君にしかできない場所で働いてほしい」という言葉が、ホープの胸の奥に、今も静かに灯っていた。
* * * * *
ラシェルはジェードと冬の庭園を歩いていた。
白く凍えた薔薇園は、葉を落とし、荒れ果てた茨の枝だけが残されている。
けれど、その荒涼とした景色のなかでさえ、少女たちの歩みはどこか静かで、やさしい空気をまとっていた。
「ラシェル様、あなたのこと、ホーから聞きました」
ジェードの声は、思いのほか柔らかかった。
ゆるく波打つ黒髪が風に揺れ、ところどころ短く切りそろえられた髪が、過去の痕跡を物語るようだった。
「……あれが、例の黒髪の女よ」
「王の側近の身内らしいけど……魔女じゃないの?」
「まさか、王宮の中にまで入れるなんて……」
葉の落ちた薔薇の垣根の向こうで、貴婦人たちのひそひそ声が交わされていた。
ラシェルの耳にも、それははっきりと届いていた。
ふと横を見れば、ジェードは目を伏せ、無言で歩いている。
いつもの微笑みは、どこにもなかった。
ラシェルの胸には、不安が募っていた。
自分は金髪に蒼い瞳を持ち、これまで疑念を向けられたことなどなかった。
けれど、ギリアン陛下は?
ホープは?
ジェードは?
そして、二人が生まれ育った領地ヘーンブルグには、黒髪を持つ民がたくさんいる。
――この国は、本当に『黒髪』を受け入れられるのだろうか?
その問いが、枯れ草と土の匂いの奥で、静かに芽吹きはじめていた。
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