【完結】氷の王と炎の王妃

藤井 紫

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第七章 闇の中に溶ける

毛布の下で

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 アレー村は、陽が沈むにつれ、空気は張り詰めるように冷えていく。

 ホープの実家――木造りの質素な家には、今は母親が一人で暮らしているため、ラシェルのために一部屋準備されていた。

 ――けれど。

 夜が更けるにつれ、室内は底冷えするような寒さに包まれた。
 厚い毛布の中で身体を丸めていても、ラシェルのつま先は冷たく、眠気は遠い。

 壁が薄いのか、隣室からホープの気配がした。
 迷った末に、ラシェルはそっと立ち上がる。
 隣の扉の隙間から微かな灯が漏れている。
 自分がこんなことをするなんて、と少しおかしく思いながら、ノックした。

「……ホープ様。起きて、いらっしゃいますか?」

 すぐに扉が開く。

「うん、どうしたの?」
「……あの、今夜はちょっと……寒くて、眠れなくて」

 お話でも──と思っていた。
 もっと、ホープのことが知りたくなったから。

 ラシェルは掛け毛布を手に持っていた。風が家の外壁をなでる音がする。

「……ごめん。王都よりは暖かいんだけど、やっぱり田舎の家って、冷えるよね。ぼくの毛布、持っていって」
「でも、それじゃホープ様は?」
「ああ、ぼくは野宿も良くするし、慣れて……」

 と言いかけ、少しの間があって──

 ホープが、躊躇いがちに言った。

「じゃあ……もし良かったら、こっちで……一緒に寝る?」

「えっ……、一緒って言うのは、お隣で?」
「うん、毛布二重にして。で、ぎゅってしたら温かいよ」

 ラシェルは戸惑ったが、断る理由がなかった。
 もっと、ホープと話がしたかった。王宮に居ると、なかなかふたりだけの時間は無い。
 小さく息を吸い、持っていた毛布を上から掛けると、ホープと一緒に毛布の中に身を滑り込ませた。


 仰向けに並ぶ。
 手が、触れる。
 脚が、触れる。
 そして、肩と肩がぴたりと合わさると、ホープの体温が思っていたよりもずっと温かく感じられた。

「……本当、すごくあったかい」

 ぽつりと呟くと、ホープが微笑んだような気配がした。

「私、こんな風に、誰かと一緒に寝たことないかも」
 それは、ラシェルが貴族令嬢だからだ。

「そうなの? ぼく、十歳の誕生日までずっとジェードと一緒に寝てたんだ。こうやって」

 ──と、ホープがそっと身を寄せ、ラシェルを横から包み込むように抱きしめた。

 毛布の下で、ホープの右腕がラシェルの背中を通り抜ける。左腕はやや遠慮がちに、しかし確かにラシェルを引き寄せる。
 胸の内で高鳴る鼓動を抑えきれず、ラシェルは反射的に肩をすくめる。

(え……?)

 思考が追いつくよりも早く、ホープの掌がそっと胸元に触れていた。
 掴むでも、撫でるでもない。ただ、ぬくもりを求めるように、そこに手を置く──そんな触れ方だった。

(え? え? こ、こんなことをジェード様に???)

「あ、あの……ホープ、様……」

 ラシェルの声は、ほんのひとひらの息のようだった。
 暗闇の中、ホープの顔は見えない。

 けれど、ホープは少し苦しそうに囁いた。

「……ラシェル……やめたいなら……、今……言って」

 ラシェルは、何も言わず、ホープの腕の中で、硬直したようにじっとしていた。
 ただ、心臓が強く打っていた。

 何も答えられないままでいると、段々とホープの掌が、薄い衣の上からラシェルの胸を弄る。
 今まで、他人が触れることのなかった場所。だけど、嫌ではない。
 ふたりの体が震えたのは、寒さのせいではなかった。

 ラシェルはホープに向き合い、躊躇わず口づけた。
 ふたりは横たわったまま、抱きしめあい、口づけは、熱を帯て深まっていく。
 舌先が触れ合い、何度も確かめ合うように絡まる。

「……んっ……」

 同時にホープの手は、服の上からラシェルの背や腰の輪郭をなぞる。
 胸を掴んでいた手は、紐を解く前に止まった。 

「……本当に、……いいの? キスの続きだよ……?」

 その一言に、ラシェルははっとする。
 シルヴィアから贈られた『魔女の薬』。リアナによると三日前から飲まなければならなかった。
 忘れていたというより、こんな事になるとは思っていなかった。
 ここから先は、もしかすると、子どもが出来るかもしれない……そういうことだ。

「……えっと……」

 ホープの瞳には、どこまでも真摯な光が宿っている。
 ただラシェルを大切に想っていると伝えるように。

 ――それが、嬉しかった。
 そんな瞳で見られたら、断れるわけがなかった。
 今、ここで断ったら、この先、もうホープはしてくれないかもしれない。そんな予感が過る。

(……それに、もしこの先、ホープ様が離れていったら……。私、きっと今夜を悔やんでしまう)

 そう思うと、自然と答えていた。

「……キスの続き、……教えて下さい」
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