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第八章 王は王妃を寵愛している
それでも、この温もりだけは*
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少し時が過ぎ、六月。
初夏の昼下がり。
王宮裏手は、想像よりもひっそりとしていた。
表向きの回廊は陽射しに満ちているが、裏手の階段や納戸の並ぶ通路は、まるで夜の続きのように静かだ。
その奥、一つの木の扉の前で、ラシェルは足を止めた。
(……ここで、良いはず)
小さくノックをする。返事はない。
けれど、鍵はかかっておらず、そっと開けると――寝台の上に、ホープが静かに眠っていた。
夜勤の合間。
この部屋は、王宮内でも使用人用の仮眠室に近い。石壁がむき出しで、窓も小さい。
けれど、ベッドの脇には読みかけの本と水差しが置かれ、生活の気配が確かにあった。
ラシェルは一瞬、声をかけるのを躊躇った。
けれど、ホープの寝顔を見ているうちに、心の奥がふわりと温かくなる。
(……起こしたら、迷惑かな。でも、今日だけは)
「……ホープ様」
そっと名前を呼ぶと、瞼がゆっくり開いた。
「……ラシェル? ……え? 本物?」
まだ夢の中にいるような声だった。
「ごめんなさい。勝手に来てしまって……でも、今日は……」
「……うん、知ってる。……君の、誕生日、だよね」
寝台から体を起こしながら、ホープは優しく微笑んだ。
その微笑みに、ラシェルは決心を込めて、ひとつ頷く。
「だから、今日は、……私のお願い、聞いてもらえますか?」
「うん。どんなお願い?」
そうして自分から、ホープの胸に抱きついた。
「……ホープ様に、……触れたいんです。私にも触れて欲しい。……あの、また、……したいです」
「……触れるまではいいけど……。最後まではダメだよ。子どもが出来たら困るでしょ」
やはり。
ホープならそう言うと思っていた。
だが、それを聞けただけでも、嬉しくてこそばゆくなった。
「ホープ様……、実は……」
そう言って、ラシェルはシルヴィアにもらった『魔女の薬』の事を伝えた。
ふたりはお互いの服を脱がせ合う時、何度も目が合った。
そのたびに、胸の奥が熱くなって、目を逸らしそうになるのをラシェルは必死で堪える。
ホープの全部を、目に焼き付けたい。
ホープの手が、ラシェルの下着の胸元のリボンをほどく。
肩から滑り落ちた布が、白い肌を露わにするたびに、部屋の空気が少しずつ湿っていく。
その首には、去年もらった聖十字のネックレス。
「……やっぱり、君は、すごく綺麗だ」
囁く声が、まるで祈りのようだった。
ラシェルは返事の代わりに、ホープのチュニックに手をかける。
布の下から現れた素肌に、触れるのがもったいないような気がした。
肌と肌が重なり、温かさがじんわりと広がる。初夏の空気に、肌が少しずつ汗ばんでゆく。
昼間の世界がここだけ別物になったように、静寂と熱が交差していく。
ホープは寝台に腰をかけ、ラシェルを正面から膝の上に座らせた。
そのまま肩に顔をうずめ、ホープの手がラシェルの背を確かめるように撫でる。
「……痛くないように、ゆっくりするね」
優しい声に頷いて、少しだけ体を傾ける。
ふたりの身体が、重なり合う。
ホープの唇が、耳に、首筋に、鎖骨に、――胸に向かって這う。
「……あ……っ」
昼の静けさの中で、ラシェルの口から小さな声が漏れる。
最初はくすぐったいような感覚だったけれど、その唇が胸の先に進むと、身体が小さく跳ねた。
「……ホープ、さま……っ」
何度も、呼びかけてしまう。
名前を口にするたび、ホープの腕の力が強くなる。
「……大丈夫。ここにいるよ」
その言葉が、何より嬉しかった。
ホープに抱きあげられ、硬いものが触れたかと思うと、そのままゆっくりと入ってくる。
「……ん……っ……」
初めての時よりも、身体の奥へ届いたように感じられた。
「あぁっ……」
ラシェルが身動ぐと、ホープはそれに動きを合わせ、少しずつ腰を動かした。
やがて、ふたりの動きはゆるやかに重なった。寝台が軋む音と、ラシェルの息が混じり合う。
熱が昇りつめるたび、声が漏れそうになるが、唇を重ねて封じられた。
音さえ許されないほど、真昼の密やかな愛の交わり。
ラシェルは、ホープの中に抱かれて、心の奥まで満たされていくのを感じた。
事が終わる頃には、陽が少しだけ傾いていた。
窓から射す光が、ふたりの肩を淡く照らしている。
ラシェルは、ホープの胸の上にそっと身を寄せた。
ホープはただ静かに、髪を撫でてくれた。
「……ラシェル、二十歳の誕生日、おめでとう。君が生まれてきてくれた事が、嬉しいよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に小さく灯った火が、身体の奥まで届いた。
(私が、生まれてきたことが、嬉しい……って)
腕の中で、小さく震えた。
確かに、そこに生きていると感じた。
(誕生日が、こんなに幸せに思えるなんて……)
裸のまま、寝台の端に腰かけて抱きしめられている。
そっと頬を寄せるラシェルの唇に、ホープが再び、優しいキスを落とした。
寝台の上の皺も、絡まったシーツも、気にならなかった。
あたたかな肌の感触。
ホープの腕がまわされている。
そして、ふたりの身体を一枚の毛布がふわりと包んでいた。
ラシェルは小さく息をついて、そっと毛布の隙間からホープの横顔を見上げた。
「……あの……」
「うん?」
目を細めてこちらを見るその顔は、さっきまでの熱をまだ残したまま、穏やかで優しい。
「今日は、痛くは……なかったです。……ちょっと、恥ずかしかったけど……気持ち……良かった」
小さく打ち明けるように言うと、ホープはくすりと笑った。
「良かった。……ぼくは、すごく気持ち良かったよ」
ホープの手がそっとラシェルの肩を撫でる。
まるで、言葉にならない感情をなぞるように。
「……誕生日、ちゃんとお祝い出来てるかな?」
「……はい。一番……幸せな、誕生日です」
本当はもっと言いたいことがたくさんあるのに、うまく言葉にならない。
胸がいっぱいで、喉がつまるみたいだった。
ホープの胸にそっと額を預けると、ホープが優しく抱き寄せてくれた。
「ラシェル」
「……はい」
「もし、これから先、ぼくが、何かを選ばなきゃいけない時が来たら。……君の事は、絶対に手放さないって決めてるから」
思いがけない言葉に、ラシェルは息を飲んだ。
「……そんな風に……思っていて下さったんですか?」
「うん……ずっと前からだよ。……でも、君が王妃様に仕えてる事も、忠義も、誇りも、ちゃんと解ってる。だから、今はまだ……こうして、君の傍にいることで満足しておく」
言葉の奥にある迷いや覚悟まで、ラシェルには感じ取れた。
――きっと、ホープ様も、苦しいんだ。
でも、それでも、この温もりだけは、信じていたい。
「……私も……こうして、傍にいることで満足ですから」
そう呟いた瞬間、ホープがもう一度、そっと唇を重ねてきた。
さっきとは違う、静かな、確かな口づけだった。
窓の外から聞こえる鳥の声。
遠く、王宮の塔で鐘が鳴っている。
この静かな午後が、ずっと続けばいいのに――と、ラシェルは思った。
初夏の昼下がり。
王宮裏手は、想像よりもひっそりとしていた。
表向きの回廊は陽射しに満ちているが、裏手の階段や納戸の並ぶ通路は、まるで夜の続きのように静かだ。
その奥、一つの木の扉の前で、ラシェルは足を止めた。
(……ここで、良いはず)
小さくノックをする。返事はない。
けれど、鍵はかかっておらず、そっと開けると――寝台の上に、ホープが静かに眠っていた。
夜勤の合間。
この部屋は、王宮内でも使用人用の仮眠室に近い。石壁がむき出しで、窓も小さい。
けれど、ベッドの脇には読みかけの本と水差しが置かれ、生活の気配が確かにあった。
ラシェルは一瞬、声をかけるのを躊躇った。
けれど、ホープの寝顔を見ているうちに、心の奥がふわりと温かくなる。
(……起こしたら、迷惑かな。でも、今日だけは)
「……ホープ様」
そっと名前を呼ぶと、瞼がゆっくり開いた。
「……ラシェル? ……え? 本物?」
まだ夢の中にいるような声だった。
「ごめんなさい。勝手に来てしまって……でも、今日は……」
「……うん、知ってる。……君の、誕生日、だよね」
寝台から体を起こしながら、ホープは優しく微笑んだ。
その微笑みに、ラシェルは決心を込めて、ひとつ頷く。
「だから、今日は、……私のお願い、聞いてもらえますか?」
「うん。どんなお願い?」
そうして自分から、ホープの胸に抱きついた。
「……ホープ様に、……触れたいんです。私にも触れて欲しい。……あの、また、……したいです」
「……触れるまではいいけど……。最後まではダメだよ。子どもが出来たら困るでしょ」
やはり。
ホープならそう言うと思っていた。
だが、それを聞けただけでも、嬉しくてこそばゆくなった。
「ホープ様……、実は……」
そう言って、ラシェルはシルヴィアにもらった『魔女の薬』の事を伝えた。
ふたりはお互いの服を脱がせ合う時、何度も目が合った。
そのたびに、胸の奥が熱くなって、目を逸らしそうになるのをラシェルは必死で堪える。
ホープの全部を、目に焼き付けたい。
ホープの手が、ラシェルの下着の胸元のリボンをほどく。
肩から滑り落ちた布が、白い肌を露わにするたびに、部屋の空気が少しずつ湿っていく。
その首には、去年もらった聖十字のネックレス。
「……やっぱり、君は、すごく綺麗だ」
囁く声が、まるで祈りのようだった。
ラシェルは返事の代わりに、ホープのチュニックに手をかける。
布の下から現れた素肌に、触れるのがもったいないような気がした。
肌と肌が重なり、温かさがじんわりと広がる。初夏の空気に、肌が少しずつ汗ばんでゆく。
昼間の世界がここだけ別物になったように、静寂と熱が交差していく。
ホープは寝台に腰をかけ、ラシェルを正面から膝の上に座らせた。
そのまま肩に顔をうずめ、ホープの手がラシェルの背を確かめるように撫でる。
「……痛くないように、ゆっくりするね」
優しい声に頷いて、少しだけ体を傾ける。
ふたりの身体が、重なり合う。
ホープの唇が、耳に、首筋に、鎖骨に、――胸に向かって這う。
「……あ……っ」
昼の静けさの中で、ラシェルの口から小さな声が漏れる。
最初はくすぐったいような感覚だったけれど、その唇が胸の先に進むと、身体が小さく跳ねた。
「……ホープ、さま……っ」
何度も、呼びかけてしまう。
名前を口にするたび、ホープの腕の力が強くなる。
「……大丈夫。ここにいるよ」
その言葉が、何より嬉しかった。
ホープに抱きあげられ、硬いものが触れたかと思うと、そのままゆっくりと入ってくる。
「……ん……っ……」
初めての時よりも、身体の奥へ届いたように感じられた。
「あぁっ……」
ラシェルが身動ぐと、ホープはそれに動きを合わせ、少しずつ腰を動かした。
やがて、ふたりの動きはゆるやかに重なった。寝台が軋む音と、ラシェルの息が混じり合う。
熱が昇りつめるたび、声が漏れそうになるが、唇を重ねて封じられた。
音さえ許されないほど、真昼の密やかな愛の交わり。
ラシェルは、ホープの中に抱かれて、心の奥まで満たされていくのを感じた。
事が終わる頃には、陽が少しだけ傾いていた。
窓から射す光が、ふたりの肩を淡く照らしている。
ラシェルは、ホープの胸の上にそっと身を寄せた。
ホープはただ静かに、髪を撫でてくれた。
「……ラシェル、二十歳の誕生日、おめでとう。君が生まれてきてくれた事が、嬉しいよ」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に小さく灯った火が、身体の奥まで届いた。
(私が、生まれてきたことが、嬉しい……って)
腕の中で、小さく震えた。
確かに、そこに生きていると感じた。
(誕生日が、こんなに幸せに思えるなんて……)
裸のまま、寝台の端に腰かけて抱きしめられている。
そっと頬を寄せるラシェルの唇に、ホープが再び、優しいキスを落とした。
寝台の上の皺も、絡まったシーツも、気にならなかった。
あたたかな肌の感触。
ホープの腕がまわされている。
そして、ふたりの身体を一枚の毛布がふわりと包んでいた。
ラシェルは小さく息をついて、そっと毛布の隙間からホープの横顔を見上げた。
「……あの……」
「うん?」
目を細めてこちらを見るその顔は、さっきまでの熱をまだ残したまま、穏やかで優しい。
「今日は、痛くは……なかったです。……ちょっと、恥ずかしかったけど……気持ち……良かった」
小さく打ち明けるように言うと、ホープはくすりと笑った。
「良かった。……ぼくは、すごく気持ち良かったよ」
ホープの手がそっとラシェルの肩を撫でる。
まるで、言葉にならない感情をなぞるように。
「……誕生日、ちゃんとお祝い出来てるかな?」
「……はい。一番……幸せな、誕生日です」
本当はもっと言いたいことがたくさんあるのに、うまく言葉にならない。
胸がいっぱいで、喉がつまるみたいだった。
ホープの胸にそっと額を預けると、ホープが優しく抱き寄せてくれた。
「ラシェル」
「……はい」
「もし、これから先、ぼくが、何かを選ばなきゃいけない時が来たら。……君の事は、絶対に手放さないって決めてるから」
思いがけない言葉に、ラシェルは息を飲んだ。
「……そんな風に……思っていて下さったんですか?」
「うん……ずっと前からだよ。……でも、君が王妃様に仕えてる事も、忠義も、誇りも、ちゃんと解ってる。だから、今はまだ……こうして、君の傍にいることで満足しておく」
言葉の奥にある迷いや覚悟まで、ラシェルには感じ取れた。
――きっと、ホープ様も、苦しいんだ。
でも、それでも、この温もりだけは、信じていたい。
「……私も……こうして、傍にいることで満足ですから」
そう呟いた瞬間、ホープがもう一度、そっと唇を重ねてきた。
さっきとは違う、静かな、確かな口づけだった。
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