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後日譚 王の側近と王妃の侍女
二人で、ヘーンブルグに行こう
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昼にホープを見つけたラシェルは、人気のない待機室にホープを連れ込んだ。
そして、今回は、誰よりも一番にホープに、この『大変由々しき事態』を伝えた。
薬の効果が切れていたなんて――。
涙がこぼれそうなのを堪え、ホープの返事を待つ。
「――ラシェル。二人で、ヘーンブルグに行こう」
さらりと返ってきたその言葉に、ラシェルの思考は一瞬、止まった。
ぽかん、と口が開いたまま、瞬きを繰り返す。
「……え?」
「アレー村に土地を借りて、家を建てて。宿屋か雑貨屋か……何でもできると思う。お金は、いくらかあるし」
言いながら、ホープの表情は、どこか楽しそうだった。
まるで、自分の長年の夢を語るかのように、何の不安も感じさせないような雰囲気。
ラシェルは息を呑んだ。あまりに明るく、あまりに現実的なホープの未来の話。
――どうして、そんな顔ができるの。
「……ちょっと待ってください。え、えっと、私、一人で修道院に行くって……言ったの、聞いてませんでしたか?」
浮かんでいた涙は引っ込んでしまい、声に何故か怒りの色が滲む。
「最初はお暇もらって、産んで、誰かに預けて戻ってこようかとも考えました。だけど、王子殿下を見てたら、私、きっと、赤ちゃんを手放せないと思うの」
「うん、ぼくもそう思う」
「あなたに……あなたに恥じない立派な子に、ちゃんと育てますから! だから、どうか、あなたは……王に忠義を尽くしてください」
すでに別れの覚悟を決めていたラシェルは、眉をキリッと吊り上げホープに自分の意思を伝えた。
ホープはラシェルに近づく。
そして、真っ直ぐその瞳を見つめた。
「前に言ったよね?」
「え?」
「三年前……君の誕生日。もし、ぼくが選ばなければならない時が来たら、絶対に君を手放さないって、言っただろ」
ラシェルの目が見開かれた。
その言葉が、まさか本当になってしまうなんて。
――いや、あの時、自分も確かに、同じくらい本気だったはずだ。
「……そんなこと……、忘れてました……」
……嘘だけど。
本当は、はっきり覚えている。
「ぼくはずっと覚えてるよ。あれからずっと……君のことを想って生きてきた。だから、ぼくの選択はもう決まってるんだ」
ラシェルが何か言おうとする前に、ホープは優しく肩に手を添える。
「ぼくの忠義は『王の選ぶ未来』に対してだ。陛下の事も心配だったけど、王妃様のおかげでなんとかやれてるみたいだし。だから、今度は、君に忠義を尽くすべきだと思ってる」
その言葉に、ラシェルは唇を噛みしめた。
こぼれそうになる涙をどうにか堪えながら、首を横に振る。
「……でも、ホープ、それじゃ……あなたが失うものが多すぎます」
「何を? 何も失わないよ」
一拍置いて、ホープは静かに微笑んだ。
「……むしろ、今度こそ、ぼくが家族を手に入れる番が来たんだ」
ホープは、真っ直ぐに言った。迷いの無い目で。
――だが、その瞬間、ラシェルは悟った。
この人は、本当に『自由』な人だったのだ。
そして、その『自由』を差し出すつもりなのだ。
自分と子どもの為に。
* * * * *
その日の夕方、ホープはギリアンの執務室を訪れた。
ギリアンは書類から目を上げ、ホープを見つめる。
言葉にはせずとも、その目は既に何かを察しているようだった。
ホープは一礼し、静かに告げた。
「……陛下。長い間、お傍に居させて頂きましたが、そろそろ、退かせて下さい」
夏なのに、部屋の空気が、ひやりと揺れる。
ギリアンは、すぐには、何も答えなかった。
ただ、重く静かに、一度瞬きをし、ゆっくりと視線を逸らした。
(……この沈黙、きついな……)
執務室の中は異様なほどに静かで、暑ささえ遠く感じられた。
ホープは、胸の奥を締めつけられるような思いで、その返答を待ち続けた。
そして、今回は、誰よりも一番にホープに、この『大変由々しき事態』を伝えた。
薬の効果が切れていたなんて――。
涙がこぼれそうなのを堪え、ホープの返事を待つ。
「――ラシェル。二人で、ヘーンブルグに行こう」
さらりと返ってきたその言葉に、ラシェルの思考は一瞬、止まった。
ぽかん、と口が開いたまま、瞬きを繰り返す。
「……え?」
「アレー村に土地を借りて、家を建てて。宿屋か雑貨屋か……何でもできると思う。お金は、いくらかあるし」
言いながら、ホープの表情は、どこか楽しそうだった。
まるで、自分の長年の夢を語るかのように、何の不安も感じさせないような雰囲気。
ラシェルは息を呑んだ。あまりに明るく、あまりに現実的なホープの未来の話。
――どうして、そんな顔ができるの。
「……ちょっと待ってください。え、えっと、私、一人で修道院に行くって……言ったの、聞いてませんでしたか?」
浮かんでいた涙は引っ込んでしまい、声に何故か怒りの色が滲む。
「最初はお暇もらって、産んで、誰かに預けて戻ってこようかとも考えました。だけど、王子殿下を見てたら、私、きっと、赤ちゃんを手放せないと思うの」
「うん、ぼくもそう思う」
「あなたに……あなたに恥じない立派な子に、ちゃんと育てますから! だから、どうか、あなたは……王に忠義を尽くしてください」
すでに別れの覚悟を決めていたラシェルは、眉をキリッと吊り上げホープに自分の意思を伝えた。
ホープはラシェルに近づく。
そして、真っ直ぐその瞳を見つめた。
「前に言ったよね?」
「え?」
「三年前……君の誕生日。もし、ぼくが選ばなければならない時が来たら、絶対に君を手放さないって、言っただろ」
ラシェルの目が見開かれた。
その言葉が、まさか本当になってしまうなんて。
――いや、あの時、自分も確かに、同じくらい本気だったはずだ。
「……そんなこと……、忘れてました……」
……嘘だけど。
本当は、はっきり覚えている。
「ぼくはずっと覚えてるよ。あれからずっと……君のことを想って生きてきた。だから、ぼくの選択はもう決まってるんだ」
ラシェルが何か言おうとする前に、ホープは優しく肩に手を添える。
「ぼくの忠義は『王の選ぶ未来』に対してだ。陛下の事も心配だったけど、王妃様のおかげでなんとかやれてるみたいだし。だから、今度は、君に忠義を尽くすべきだと思ってる」
その言葉に、ラシェルは唇を噛みしめた。
こぼれそうになる涙をどうにか堪えながら、首を横に振る。
「……でも、ホープ、それじゃ……あなたが失うものが多すぎます」
「何を? 何も失わないよ」
一拍置いて、ホープは静かに微笑んだ。
「……むしろ、今度こそ、ぼくが家族を手に入れる番が来たんだ」
ホープは、真っ直ぐに言った。迷いの無い目で。
――だが、その瞬間、ラシェルは悟った。
この人は、本当に『自由』な人だったのだ。
そして、その『自由』を差し出すつもりなのだ。
自分と子どもの為に。
* * * * *
その日の夕方、ホープはギリアンの執務室を訪れた。
ギリアンは書類から目を上げ、ホープを見つめる。
言葉にはせずとも、その目は既に何かを察しているようだった。
ホープは一礼し、静かに告げた。
「……陛下。長い間、お傍に居させて頂きましたが、そろそろ、退かせて下さい」
夏なのに、部屋の空気が、ひやりと揺れる。
ギリアンは、すぐには、何も答えなかった。
ただ、重く静かに、一度瞬きをし、ゆっくりと視線を逸らした。
(……この沈黙、きついな……)
執務室の中は異様なほどに静かで、暑ささえ遠く感じられた。
ホープは、胸の奥を締めつけられるような思いで、その返答を待ち続けた。
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