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第四章 天使の子 悪魔の子
黒い異心(3)
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ジェードが洗い終わった洗濯物を抱えて【王の間】に戻ると、応接室には黒い人物だけが立っていた。
またジャファルかとジェードは身構えた。
(……誰?)
黒人少年は、扉の開く音を聞いて入り口の方を振り返る。ジェードと目が合うと、片方の口角をあげた。
「ハリーファ皇子に、ここで待つように言われたんでね」
「……」
黒人少年の存在に、ジェードの胸の鼓動が強くなった。
少年の顔はやはりアルフェラツに似ている気がして、不安な気持ちが顔に出そうになる。ジャファルの方がまだましだった。
奥のハリーファの寝室の扉は大きく開いており、そこにハリーファの姿はない。一体どこへ行ってしまったのだろうか。
「あぁ、ハリーファ皇子なら、すぐに戻ってくると思うぜ」
黒い客人は、ジェードを見もせずに言うと、長椅子に腰かけた。
少年は、先日ぶつかった時と比べ、今日は上品な黒い長衣を着ていた。頭にもきちんと布が巻かれている。肌の露出が多くないことにジェードは少しほっとした。
ジェードは少年の前を通りハリーファの寝室に入っていった。持ってきた新しい布をいつものようにベッド敷いて整える。そして寝室から出るとき、さっきまで開け放たれていた寝室の扉をそっと閉めておいた。
「ハリーファ皇子の奴隷は、あんただけ? 他にはいねぇのか?」
寝室から出てきたジェードに向かって、少年が話しかけてきた。
「しゃべれねぇのか? それともしゃべらねぇように命令されてるのか?」
「……命令なんてされてないわ」
「ふぅん」
顎に手をやりながら、少年はジェードを見つめてきた。ジェードはこめかみに落ちてきた髪を耳にかけた。
「あの……、この前のことだけど……」
ジェードの言葉に、少年は不思議そうな色を浮かべた。
「この前?」
「聖典を持ってきてくれた日のことよ……」
「あぁ、そうか、前にも会ってたか」
「驚いちゃって……。助けてくれたのに、ごめんなさい……」
あの時、少年の手を取ることを拒んだことを詫びた。ジェード自身、ハリーファが言うように、黒人を侮蔑しているのか自分でもよくわからない。
「わたし、黒い肌の人を見慣れていなくて……」
ジェードの様子を見て、少年はハッと笑った。
「そっか。あんたも、ハリーファ皇子とは違う意味で世間知らずなんだな。今まで、黒人を見たことないのか?」
世間知らずと言われ、ジェードは自分の中の黒い肌に対しての抵抗感に、罪悪を感じた。
「あんたさ、元は家奴隷だったのか? 大方、皇子様お気に入りで、宮廷から外に出れねぇ箱入りなんだろ?」
少年の言う通り、王宮に暮らす家奴隷は、外出しない限り、白人の奴隷達と小麦色の肌の皇族しか見ることがない。そして、女の家奴隷たちが外出する機会はほとんどない。ジェードの素性を知らない者がそう思うのも無理はない。
「櫛やら何やら贈ってもらえるくらい、皇子様に気に入られてるんなら、皇宮から出してもらえなくてもしょうがねぇな」
ジェードは小さく頭を横にふった。
「そうじゃないわ。わたしはヴァロニアから来たから、ここでは知らないことばかりなの」
「……ヴァロニア!?」
ヴァロニアと聞いて、突然少年は声を高めた。ジェードを見る少年の目が大きく見開いた。
ジェードはその声に驚いて、思わず一歩後ずさった。
「……東大陸人の女奴隷?」
少年はまるで独り言のように、ジェードに対して口を切った。
「そうか、あんた……ヴァロニア人だから皇子付きの奴隷になれたんだな。いや、でも、いつ、どうやってファールークに?」
どうやってと聞かれても、村を追い出されたことを言いたくない。ジェードは口を閉ざした。
少年は立ち上がると、黙っているジェードをじっと見すえる。ジェードのそばに来て声を少し低くした。
「二年前のハリーファ皇子の誘拐事件に、あんたも関わっているのか?」
「……誘、拐?」
すぐには意味がわからなかったが、ジェードがハリーファと聖地で出会った時のことだと気がついた。思わず、はっと顔に出てしまう。
ジェードの反応を見て、少年の眉がピクリと動いた。
「誘拐じゃないんだったら、逃亡か? ハリーファ皇子と落ち合う約束をしてたのか? それとも、あんたの手引きで、ハリーファ皇子はヴァロニアへ逃げようとしていたのか?」
またジャファルかとジェードは身構えた。
(……誰?)
黒人少年は、扉の開く音を聞いて入り口の方を振り返る。ジェードと目が合うと、片方の口角をあげた。
「ハリーファ皇子に、ここで待つように言われたんでね」
「……」
黒人少年の存在に、ジェードの胸の鼓動が強くなった。
少年の顔はやはりアルフェラツに似ている気がして、不安な気持ちが顔に出そうになる。ジャファルの方がまだましだった。
奥のハリーファの寝室の扉は大きく開いており、そこにハリーファの姿はない。一体どこへ行ってしまったのだろうか。
「あぁ、ハリーファ皇子なら、すぐに戻ってくると思うぜ」
黒い客人は、ジェードを見もせずに言うと、長椅子に腰かけた。
少年は、先日ぶつかった時と比べ、今日は上品な黒い長衣を着ていた。頭にもきちんと布が巻かれている。肌の露出が多くないことにジェードは少しほっとした。
ジェードは少年の前を通りハリーファの寝室に入っていった。持ってきた新しい布をいつものようにベッド敷いて整える。そして寝室から出るとき、さっきまで開け放たれていた寝室の扉をそっと閉めておいた。
「ハリーファ皇子の奴隷は、あんただけ? 他にはいねぇのか?」
寝室から出てきたジェードに向かって、少年が話しかけてきた。
「しゃべれねぇのか? それともしゃべらねぇように命令されてるのか?」
「……命令なんてされてないわ」
「ふぅん」
顎に手をやりながら、少年はジェードを見つめてきた。ジェードはこめかみに落ちてきた髪を耳にかけた。
「あの……、この前のことだけど……」
ジェードの言葉に、少年は不思議そうな色を浮かべた。
「この前?」
「聖典を持ってきてくれた日のことよ……」
「あぁ、そうか、前にも会ってたか」
「驚いちゃって……。助けてくれたのに、ごめんなさい……」
あの時、少年の手を取ることを拒んだことを詫びた。ジェード自身、ハリーファが言うように、黒人を侮蔑しているのか自分でもよくわからない。
「わたし、黒い肌の人を見慣れていなくて……」
ジェードの様子を見て、少年はハッと笑った。
「そっか。あんたも、ハリーファ皇子とは違う意味で世間知らずなんだな。今まで、黒人を見たことないのか?」
世間知らずと言われ、ジェードは自分の中の黒い肌に対しての抵抗感に、罪悪を感じた。
「あんたさ、元は家奴隷だったのか? 大方、皇子様お気に入りで、宮廷から外に出れねぇ箱入りなんだろ?」
少年の言う通り、王宮に暮らす家奴隷は、外出しない限り、白人の奴隷達と小麦色の肌の皇族しか見ることがない。そして、女の家奴隷たちが外出する機会はほとんどない。ジェードの素性を知らない者がそう思うのも無理はない。
「櫛やら何やら贈ってもらえるくらい、皇子様に気に入られてるんなら、皇宮から出してもらえなくてもしょうがねぇな」
ジェードは小さく頭を横にふった。
「そうじゃないわ。わたしはヴァロニアから来たから、ここでは知らないことばかりなの」
「……ヴァロニア!?」
ヴァロニアと聞いて、突然少年は声を高めた。ジェードを見る少年の目が大きく見開いた。
ジェードはその声に驚いて、思わず一歩後ずさった。
「……東大陸人の女奴隷?」
少年はまるで独り言のように、ジェードに対して口を切った。
「そうか、あんた……ヴァロニア人だから皇子付きの奴隷になれたんだな。いや、でも、いつ、どうやってファールークに?」
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