嫌われた大賢者と未来の竜王 ~「あれ、お前の鱗って金色だったっけ?」隠居した森で見つけたドラゴンの子供が成長しすぎて怖いです~

陽好

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第1章 王国編

第35話 逃走!

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「バウス大尉! 大尉の指示通り奴らを牢に収容しました」

「ああ、ご苦労」

 大尉は後ろから追いかけてきた背の低い男の報告に振り返ること無くうなずいた。

「警備の者はつけたか?」

「はい、牢の上階に宿直の者がおります。しかし鉄格子ですし非力そうな者達でしたのでまあ脱出されるような心配は無いでしょう」

「魔封じの結界はかけたか?」

 背の低い男は逡巡の後、恐る恐る答えた。

「……いえ、その場にそこまでの結界の張れる者がいませんでしたので……しかし庁舎に使いをやっておきました」

 背の低い男の言葉を聞いた大尉は眉を顰めた。

「では今あいつらを見張っている者はいないのだな?」

 語気の強い大尉の言葉にビクリとしながら背の低い男は答えた。

「はい……そうです」

「はぁ……、戻るぞ! 急げ!」

 そう言って大尉は牢に向かって走り出した。背の低い男がそのあとを走ってついて行く。


*****


「よ~し、じゃあデューク、ここに鉄格子と石造りの壁がある」

「……うん」

「どっちがいい?」

「……えっとぉ、なにが?」

「どっちから脱出したい?」

「……いや、どっちでもいいけど」

「じゃあこっちにするか」

 ドレイクはそう言うと石壁に手を当てて呪文を呟いた。するとドレイクの手を中心に魔方陣が広がり始めた。魔方陣はドンドン広がっていき、こんなに大きい魔方陣が本当に必要なのかと思うほどの大きさになった頃

「よし、こんなもんだろ」

 とそう言ってドレイクは手を離し、杖を取り出して壁に向けた。

「ちょっと離れた方がいいぞ、『スティージュ』」

「ちょ!まだ離れて!」

 ドレイクがそう言うと壁に書かれた魔方陣は強い光を発し、そして爆発した。しかし何故か音は鳴らなかった。衝撃はなかなかに強かったが……

「まだ離れ切れて無かったのに……」

「アッハッハッハ、そんな小さいこと気にすんなって! ドラゴンだろ! アッハッハ」

「てかなんで音しなかったの?」

 僕がそう聞くとドレイクはにんまりと笑って言った。

「何でだと思う?」

「う~ん、なんで?」

「いや~、俺天才だからなぁ~、気づいちゃったんだよなぁ~」

「早く教えてよ」

「前に音は壁を貫通するって言ったの覚えてるか?」

「……たぶん」

「そのときにな、なんで壁を貫通した音は小さくなってるのかなと思ってずっと考えてたんだよ」

「暇なことしてるね」

「お前もクソほど暇だっただろうが! まあ兎に角、音について調べるために放出系の魔回路の修復がてらずっと聞えない高さの音を出して左手に当ててたんだよ」

「うん」

「そしたらな、なんか左手が震える感じがしてな」

「うん」

「ただまあ音の出力を上げてたら途中で気分悪くなったからやめたんだけど、それで気になったから他の例えばパンとか肉とか果物にも音を当ててみたんだけどな」

「あ、だから最近ずっとご飯中に食べ物に杖向けてたんだ。いやぁ~旅の疲れでとうとう本格的にぶっ壊れたのかと」

「んなわけあるか! 兎に角! そんなことやってたらこの前な、地図に音当てたらブルッブル震えてたんだよ!」

「……へぇ~」

「てことは! 音が伝わるって事は振動が伝わるって事なんじゃねえかと思ったんだよ!」

「ふんふん」

「だから今回は爆発した瞬間に衝撃も振動も全部跳ね返す結界で壁を包んでみたんだよ。いつも音を防ぐときに使ってるただの分厚い壁じゃなくて!」

「ほぉ~ん」

「そしたらこの通り! 音も何もしない! 素晴らしい! やっぱり俺の考えは当たってたんだ!」

「す、すご~い」

「いや~、よかったよ壁から脱出を選んで。これで明日からはぐっすり眠れそうだ」

 ドレイクがそう言って壁の外に踏み出した次の瞬間、ドアが勢いよく開く「ガシャァン!」という音が聞えてきた。

「やっばい! 走るぞデューク!」

「え? え? 防音したんじゃ無いの!?」

「しらん! 勘が鋭いんだろうよ! いいから行くぞ」

 そう言って走り出すドレイクのあとについて走り出した。

「ドレイクが、あんなどうでもいいこと長々と話してるからだよ! さっさと逃げてればよかったのに!」

「だからさっき聞いたじゃねえか! 壁から行くか鉄格子から行くかって!」

「そんなのどっち、でもいいって、言うに決まってんでしょうがぁ!」

 走りながらそう言うと、僕の耳元を何かがかすめて飛んでいった。ソレは幸いにも石畳に着弾し、「バァン」という音と共に弾けた。

「ヒェッ!」

「ア、アッハッハッハ」

「何がおかしんじゃぁ!!」

「イッヒッヒ、フゥ、ギャッハッハッハ」

 ドレイクはそのまま大爆笑しながらどこかへ向かって走っていった。
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