遊楽生活@異世界にて

YaTaroヤタロ@フラット

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第11話 サキュパスの秘密

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 サキュパスの身体は、人間とは、違うのだろうか。

 遠くからその姿を見たとき、それは人間の女性の姿と、見分けがつかない。

 しかし、近くでこうして、接していると、ところどころ違う部分を目にする。

 例えば、尻尾。
 彼女たちは、普段は服の中に尻尾を隠しているが、ときどき、スカートやパンツの中から、その様子を顕にさせ、優しく触っているところを目撃する。

 そして、喋っていて、気づくこと。
 それは、八重歯の存在だ。

 その意地らしい八重歯の存在は、彼女たちと親睦を深めないと、見ることはできない。
 なぜなら、ニタっと笑ったときにやっと、見えるのが八重歯だからだ。
 普段、冷静な彼女たちからは、絶対に確認することはできない。


 まだ、他にもあるのだろう?
 そう問いかけたいのだろうが、それはワシにもわからない。

 なぜなら、今まで、その全貌を拝んだことがであるッ。


 そして、正直。推測の域を出ないが、
 シオン王妃は、ミレイに比べて、お姉さんということもあり、
 ナイスバディだ。

 もしかしたら、年齢というものが関係してるかもしれないというのは、
 牝馬撹乱作戦で、集まった美女たちを見て、なんとなく想像をしている。

 故に、ミレイの今後にも期待大だ。

「ちょっ。ちょっとお姉ちゃん。何してるの?」

 急なシオン王妃の行動にミレイの動揺する声が上がる。

 その理由は。。

 何を隠そうッ。

 いや。何も隠せてはいないッ。

 むしろ、脱いでいる。

 そう。脱いでいるのだッ。

 シオン王妃がワシの目の前でそのベールに包まれた裸体を晒すために、脱ぎ始めているのだ。

「ちょっっと。め、目瞑ってください。殿」

「うぉぉ、何するのじゃ。何をするのじゃぁあぁ」

 後ろから、紅花《べにか》が。

 あの紅花《べにか》が、後ろからワシに覆いかぶさりながら、視界に両手で蓋をしようとする。

「その手。離すのじゃ。紅花《べにか》ぉぉおおおお」
 ワシは首を横に振って必死に抵抗する。

 先日の夜。
 牝馬撹乱作戦が行われた日を思い出す。

 枕元でサキュバスたちは、漂わせた甘い香りが、再び、脳内に喚起する。

 冷徹な蔑むような目線。特徴的なまつげ。
 艷やかな肌。滑り落ちそうな曲線美。

 柔らかい感触。耳の周りまで包み込まれるような温かい吐息。
 なぜ。お主は、足の裏に至るまで、綺麗なのだ。

 ワシなんて。

 ワシなんて。

 ワシなんて。

 心臓の鼓動がドクドク聞こえる。
 まるで、ワシの身体ではないかのように、指先まで心臓の鼓動が伝わってくる。
 胸の内から、形容し難い、熱い感情がこみ上げてくる。

 紅花《べにか》が視界を覆い隠すも、その指のすき間から、シオン王妃の足の指先が垣間見える。

 今、確信しよう。


 ワシはこの為に、生きてきた、と。

 何の為に、その命を全うするか。迷える若者は多い。
 シガラミは多い。
 自分の親や兄弟。家臣団たち。領民たち。

 ワシたちは、常に時代の流れに向き合いながら、
 ときには流され。ときには、立ち向かいながら、生き永《なが》らえている。

 そのため、ふと、自分の辿ってきた道を振り返ると、虚無になることが多い。
 それは、ワシの時代も変わらない。
 戦に明け暮れ、未来ではなく、今、生き残るために必死になる。
 今の積み重ねが、未来を作る。

 皆、考えているのだ。
 死に場所を。

 どのタイミングで、その命を使い果たすのかを。

 自分をどうやって、満足させるのかと。


 しかし。断言しよう。
 そんなものは、複雑怪奇で見つかることはないと。

 故に、信じよう。

 今こそが。

 今こそが。

 今こそが。そのときだと。


 もはや後ろから覆いかぶさってきたときの、紅花《べにか》の硬い甲冑の感触など忘れていた。
 顔を触れられたときの紅花《べにか》の冷たい手のひらの感触など忘れていた。

 今。目を開けなくてどうする。

 今。そのご尊顔を拝まなくしてどうする。

 事はシンプルで良いのだ。シンプルが良いのだ。

 断言しよう。ワシは、これを拝めれば、生を全うしたと言い切ろうと。


「とのッ。何かが、何かがおかしいです」
 後ろから、紅花《べにか》の声が聞こえる。

「離せ。はなすのだ。紅花《べにか》ッ!!」

「離しません。目が。目が充血しているんです。殿の」

「そんなの承知している。当たり前ではないか。これだけ、力強く目をのだからッ」

 もう少しなのだ。

 ワシは、ワシの目を閉じようとする紅花《べにか》の腕をつかむ。
 その手を引き離そうと、両腕に力を込める。

「嫌です。絶対、離しません。こんなの間違っています」
 紅花《べにか》は苦しそうな声を上げて、必死に抵抗をする。

 なにが。

 一体何が。間違っているというのだ。


「紅花《べにか》さん。離してください。これが、私の決意なんです。」
 シオン王妃の声が聞こえる。
 しかし、その声色は、応接間のような豪華な部屋であった時と異なるものだった。


 結婚なんて、だ。いくら、相手が、異世界人で強くたって。異世界人はだ。
 国が滅びようとしている直前まで、そう言い放つシオン王妃の声色と違うことに驚く。

 鼻水をすする音が聞こえて、鼻声で一生懸命に言葉を繋いでいるのがわかる。

「私が、頑張らないと駄目なんです。私がそのを。を皆に示さないといけないんです。」

 目の前のラッキーイベントのせいで、我を忘れていた。
 そして、問いかける。

 なぜ、彼女は、そこまでするのかと。
 なぜ、そんな、声で、ワシと向かい合うのかと。

 しかし、その問いかけに対して、あっという間に答えが返って来る。

「兼昌《かねまさ》さんが、命がけで守ってくれたんです。私のことを。
 私のせいで、兼昌《かねまさ》さんは。。」

 なに。兼昌《かねまさ》が。。
 ワシの興奮は次第に収まっていく。

「兼昌《かねまさ》さんのに、私は報わなければならないんです」
 そうか。兼昌《かねまさ》が、そなたを突き動かしていたのか。

「お姉ちゃん。。。」
 ミレイの声が聞こえる。

「もう良いぞ。紅花《べにか》」
 ワシは地面に視線を下ろし、紅花《べにか》に声をかける。

「えっ。はい。」
 ワシの落ち着いた声を聞いて安心したのか、紅花《べにか》は、おとなしく手を離した。

 ワシが地面を見た頃には、ワシの視界は赤く染まり、
 ワシの足元には赤い血がポタポタ垂れ始めていた。

「えっ」
 ミレイの驚く声が聞こえる。

 ワシは、うつむいたまま、自分の甲冑を脱ぎ捨て、鎖帷子かたびらを取り外すと、着ていた着物を脱いで、ふんどし一枚になる。

 そして、目の前のシオン王妃に向けて、両手で着物を広げ、彼女の裸体が見えないように自らの視界を遮りながら、彼女に向かって歩く。

 シオン王妃は、涙を流していた。
 シオン王妃の涙袋は少し腫れていて、目元が赤みがかっていた。

 その気持ちに敬意を払おう。
「我が家臣の死に対して、自分の優先度を次点に置き、行動をしてくれた気持ちに感謝をする。」

 ワシはそう言って、シオン王妃の身体に、その姿を覆い隠すように、着物をかけた。

 シオン王妃に対して、少しオーバーサイズの着物は、彼女の凹凸に対して、浮足立つように、寄り添う。

 彼女は、驚いた表情で、ワシを見つめる。
「その気持ちだけで、十分じゃ」

「でもッ。。」
 そう、抵抗する彼女の声をワシは遮る。
「己の志を曲げる必要はない。それは、死んだのと同じじゃ。
 答えは、一つではない。

 これから探そうではないか。共に」
 うつむいた彼女の眼差しにワシは、優しく声をかける。


「はい。」


 彼女は頷き、ワシに笑いかけた。

 初めてだった。
 彼女が初めて、ワシに笑いかけてくれた。

 それだけで、嬉しかった。


 太陽の光が彼女の笑顔を照らす。
 こんなにも素敵なのだな。

 そなたの笑顔は。


 そう思った瞬間、彼女を照らしていた太陽の光が細い光の筋へと徐々に絞られる。


「あっ」
 ミレイのその声が聞こえた瞬間。

 シオン王妃を差していた光が途絶えた。


 雨の音が聞こえる。

 どこか懐かしい、深々と降り注ぐ雨音。異世界も、我らの世界と同じ雨音だった。


「天は、ワシたちに軍配を上げた。」
 王城のあちこちから、鎮火の煙が上がる。

 ワシがほっと、胸をなでおろしたとき、シオン王妃は天を見上げていた。

「勝利したのね」
 彼女の返事にワシは頷き、ふいに視線を落とすと、

 彼女を包んだ着物が濡れて、彼女の身体のシルエットが浮かび上がっていた。


 彼女の豊満な体つきに視線が誘導されながらも、ここで、誘惑に負けては、すべてが台無しだと、己を自制する。


「殿ぉおお。」
 塔の出口の方から、文太の声が聞こえる。

 気づけば、丘陵に展開された直政《なおまさ》の陣から、法螺貝が聞こえ、
 城下からは、サキュパスの兵たちや、家臣団の声が聞こえていた。


 そして、紅花《べにか》やミレイの嬉しそうな顔を見渡して、
 ワシは大声を上げる。


「勝どきじゃああああああっ」






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 近況ノートにあとがきを書き始めました。
 ぜひ、フォローしていただいて、読んでいただけたら嬉しいです(*^^*)
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