地獄で働くことになりました。

露傘

文字の大きさ
2 / 7

#1

しおりを挟む
「次はー、終点の地獄ー、地獄ー。」

同じ電車に乗っていた中で、地獄まで乗っていたのは私のみ。
天国で四分の一が、異世界転生窓口駅で残っていた半分が降りた。
これで人手不足はなんなのか。
覚悟してはいたけれど、一つ手前の駅だった生まれ変わりを行う場所である輪廻転生駅で、乗っていた人が全て降りて行ってしまった。
あなたは降りないのかという視線が少しだけ痛い。
地獄に行くの⁉みたいな顔で見ないでほしかったな。
ま、あの人たちとはもう会うこともないだろうし、いっか。

窓の外に見える景色が暗くなってきて、地獄に来たという実感が湧いてくる。

「終点の地獄駅でございます。お乗りになっているお客様は必ずこちらでお降りください。さもなくば一生この黄泉の世界でさまよい続けることとなってしまいますので。」

脅しのようなアナウンスに急かされるようにして地獄の地に降り立った。
見えた駅は地獄とは思えぬほどの明るさ。

『ようこそ地獄へ』

駅名標の色は赤でこそあるが、クリスマスのような電飾が施されていて変にキラキラしており、フォントはまさかのポップ体。
何とも言えぬミスマッチさに地獄という場所の印象がだいぶ変わってしまった。

改札らしきところを抜けると、人が待っていた。

「新人さんね!待ってた。」

どうやらこの人が地獄職員の方。
勝手なイメージ、地獄職員は鬼だと思っていたのにまさかの見た目普通の人。
物腰の柔らかそうな女の人だった。

「新人さんは三人目ね。今回はこれ以上増えないんじゃないかって思ってたからうれしい!」

すたすたと歩いていくその後ろをついていく。

「そうだ。私の名前は栗花落つゆりね。明華さんと同じ部署に入れば直属の先輩ってことになるわ。よろしく。」

栗花落と名乗ったその女性はさらりと私の名前を呼んだ。

「なんで名前を…」

「そっか。驚くよね。新人さんが来るって聞いて、導き人に聞いちゃった。」

「そういうことでしたか。よろしくお願いします。」

「あそこに見える大きなビルが地獄職員全員を管理する事務所。今からそこに行って、明華さんの配属先を決めなきゃね。」

ほほう。あそこが事務所か。
東京にあるような、割と普通の高層のビル。
地獄というくらいなのだから日本家屋のような渋い建物なのかと思っていた。

「意外でしょう。周りの雰囲気に合わない近代的な建物だもんね。」

「そう、ですね。」

「働いてた会社に似てる?」

「はい。こんな感じのビルでした。」

「私も。ここに来る前。人間界でいう二年前、こんな感じのビルで働いてた。あんまり楽しかった記憶はないな。いつも何かに追われている感じして。でもここは違う。しっかり休めるし、仕事も人間界のころとは比べ物にならないくらい楽しい。いい職場よ。」

そう、なんだ。
栗花落さんが話している最中、それまでニコニコとして崩さなかった表情が曇っていた。
ここに来る前、人間界にいた頃勤務していたところで何かあったのだろう。

「二年前…最近ですね。」

「そうね。人間界の時間でいえば最近。でも地獄界でいう人間界の2年は100年になるわ。人間界よりも流れてる時間が大幅にずれてるのよ。慣れてしまえばそんなことないのだけどね。」

今、栗花落さんから聞き捨てならない単語が聞こえた。
100年だって⁉
単純に考えて一年は50年ということになる。
ってことは、250年の勤務が義務なのか、それとも5年でいいのか…

「老けるスピードは人間界と同じ。50年で一歳と死をとる感じ?うーん。複雑よね。あまり時間については考えないことをお勧めするわ。」

「もう、理解が追い付かないです。」

「私もここに来たばっかりの時は考えたなー。ってことは、ここでの一日は人間界の何分なのか…とか計算してみたり。」

まさに今、それをやろうとしていた。

「計算して、答えは出たんだけどね。意味なかった。そんなこと気にする必要ないくらいこっちの生活が快適で、楽しかったから。」

楽しいのか。ここでの生活は。
新手の詐欺かなんかだと思ってしまっていた。
右も左も分かっていない今は栗花落さんの言葉を信じるしかない。

いつの間にか、遠いと思っていたビルの前まで来ていた。

「はい、ようこそ!地獄カンパニーへ!!」

「地獄カンパニー…」

ビルの中には鬼っぽい角が生えた人たちが書類片手にスーツ姿で歩いていたり、私と同じような見た目の男の人がマグカップ片手に歩いていたり…
栗花落さんに連れられた私のことを見たとたん、「ようこそ!」と歓迎された。
ここ、地獄であってますかと思わずツッコミを入れたくなるような和やかな雰囲気。
薄暗くて赤い雲に埋め尽くされていた外とは比べ物にならないくらい普通の会社。駅同様、地獄という場所の雰囲気をぶち壊しにかかっている。

「ネーミングに言いたいことはわかる。私も100年前に同じこと思ったもの。」

はぁ。

「早速だけど、人事部に行きましょうか!」

笑顔の栗花落さんに引っ張られるようにして、人事部という部署に連れていかれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...