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「人事部とうちゃーく!鬼籠さーん、新人の明華さん連れてきましたー!」
「はいはい、今日も元気ねー、栗花落ちゃんは。」
鬼籠さん、と呼ばれて奥から出てきた人は、鬼だった。
「あなたが明華さんね。待ってたわ。私は鬼籠。ここで立ち話をするような内容じゃないし、とりあえずあっちのお部屋に行きましょうか。」
にこりと笑う顔と、その頭に生えている角の存在を確認して、そのビジュアルに震える。
優しそうとはわかっているものの、思わず体が硬くなった。
ここに来るまでの道と、さっき入り口のところで鬼のことはさんざん見たはずなのに、いざこうやって目の前で話しかけられると怖い。
「あらー、100年前の栗花落ちゃんとおんなじ反応してるわ。大丈夫よ。取って食ったりしないから。」
いやいや、その「取って食う」とかいう単語が怖いのよ。
「は、はい、。よ、よろしくおねがいします。」
「じゃ、栗花落ちゃんはお仕事に戻ってねー。」
「はーい。明華さん、頑張ってね!」
ぶんぶん手を振って、栗花落さんは奥へ消えていく。
人事部の入口に残ったのは鬼籠さんという鬼と私の二人きり。
え?栗花落さん一緒に来てくれるんじゃなかったの⁉
こちらへ。
と通された部屋はごくごく普通の、小さめの会議室。
人間界にいた頃に企画会議で使っていたようなとても見覚えのある場所だった。
「はい。好きなところに座ってねー。緊張しなくて大丈夫。改めまして。地獄職員人事部部長、鬼籠です。明華さんの地獄生活をちゃんとサポートするから、安心してね。」
怖いけど、平常心平常心。
「紗々谷明華と申します。地獄について右も左もわからない不束者ですが、よろしくお願いします。」
「まず、どこで働くかーなんだけど、確認しておかなきゃいけないことがあって。現場とかって大丈夫な人?」
え?現場ってまさか…
「苦手、だと思います。」
話しいてなぜ地獄職員の道を選んだのか、我ながら謎だ。
使い物にならないと、送り返されてしまうかもしれないな。
「あら。その様子だと相当苦手なのね。そういうことなら、現場は駄目。事務とかになってしまうけど…」
「事務がいいです。前、えっと、死ぬ前?は雑誌の編集部にいました。」
「雑誌?あら。文章力はピカイチじゃないの。人と関わったりするのは得意?」
思い出したのは先輩に連れて行ってもらったインタビューの現場。
確か、その当時人気に火が付き始めたモデルさんの取材だった。
この業界にいなければ確実にお話することのなかった存在。今やスーパーモデル。
とても楽しかった思い出がある。
学生の時も、友達や、先生、教授と話すのが楽しかった。きっと私は人と話すのが好きなのだろう。
「好きです。得意かどうかははっきり言えませんが…」
「いいじゃないの。自信のある顔してる。」
じゃあ、、と言いながら手元のファイルからたくさんの資料を出して広げる。
一瞬文字が読めるか心配したが、しっかり日本語で書かれていたから安心。
「人事は今人が足りてるのよ。総務もだし、広報、経理、企画も足りてるわね。足りてないのは現場調査。あとは職員たちの相談室かしら。」
現場調査、は、嫌だ。嫌な予感しかしない。
「そんなに青ざめなくても大丈夫。仮に現場調査だとしても商店の商売状況管理の方に行ってもらうから。もっとも、現場調査には行かせるつもりはないわ。」
「よかった…」
「あ。相談室の人手が足りてないわね。今年度、といってもあと二日しかないけれど、退職してしまう子がいるのよ。移動願いも一件来てるし。あー、この移動願いの存在忘れてた。ねえ、明華さん、」
身を乗り出し、ググっと距離が近くなる。
「相談室配属なんて、どう?必要な能力はコミュニケーション能力のみ。相談してくる職員に優しく寄り添う、そんな部署よ。」
相談室。
向いているのか。しっかり寄り添えるのか不安が大きい。
でも、興味はある。
「やって、みたいです。」
「決まり!もしも合わないとか、問題があったらいつでも部署変更はできるからね。何かあったら人事部に来て頂戴。」
「はい。」
「ということで配属先は決まったとして。ここの人事って人間界でいう役所も兼ねているの。人間界のころの名前を引き継ぐこともできるし、変えることもできる。私や栗花落みたいに、苗字がなくてもいい。ちなみに栗花落は人間界のころと名前を変えたわね。新しい人生絵をスタートするんだー!って息巻いてたっけ。どうする?」
名前を変えられる。
紗々谷明華という名前を、変える。
イマイチぴんとこなかった。
「そんな名前にはしないと思うけど、閻魔様と同じ名前はダメ。」
「名前はそのままでお願いします。この名前、好きなので。」
「かわいい名前だものね。わかったわ。」
そのあと住む場所もサクッと決まり、「地獄での生活の注意事項」と書かれた紙の束やらなんやら大量の書類を渡されて、このまま鬼籠さんと一緒に地獄の街に出かけることになった。
「はいはい、今日も元気ねー、栗花落ちゃんは。」
鬼籠さん、と呼ばれて奥から出てきた人は、鬼だった。
「あなたが明華さんね。待ってたわ。私は鬼籠。ここで立ち話をするような内容じゃないし、とりあえずあっちのお部屋に行きましょうか。」
にこりと笑う顔と、その頭に生えている角の存在を確認して、そのビジュアルに震える。
優しそうとはわかっているものの、思わず体が硬くなった。
ここに来るまでの道と、さっき入り口のところで鬼のことはさんざん見たはずなのに、いざこうやって目の前で話しかけられると怖い。
「あらー、100年前の栗花落ちゃんとおんなじ反応してるわ。大丈夫よ。取って食ったりしないから。」
いやいや、その「取って食う」とかいう単語が怖いのよ。
「は、はい、。よ、よろしくおねがいします。」
「じゃ、栗花落ちゃんはお仕事に戻ってねー。」
「はーい。明華さん、頑張ってね!」
ぶんぶん手を振って、栗花落さんは奥へ消えていく。
人事部の入口に残ったのは鬼籠さんという鬼と私の二人きり。
え?栗花落さん一緒に来てくれるんじゃなかったの⁉
こちらへ。
と通された部屋はごくごく普通の、小さめの会議室。
人間界にいた頃に企画会議で使っていたようなとても見覚えのある場所だった。
「はい。好きなところに座ってねー。緊張しなくて大丈夫。改めまして。地獄職員人事部部長、鬼籠です。明華さんの地獄生活をちゃんとサポートするから、安心してね。」
怖いけど、平常心平常心。
「紗々谷明華と申します。地獄について右も左もわからない不束者ですが、よろしくお願いします。」
「まず、どこで働くかーなんだけど、確認しておかなきゃいけないことがあって。現場とかって大丈夫な人?」
え?現場ってまさか…
「苦手、だと思います。」
話しいてなぜ地獄職員の道を選んだのか、我ながら謎だ。
使い物にならないと、送り返されてしまうかもしれないな。
「あら。その様子だと相当苦手なのね。そういうことなら、現場は駄目。事務とかになってしまうけど…」
「事務がいいです。前、えっと、死ぬ前?は雑誌の編集部にいました。」
「雑誌?あら。文章力はピカイチじゃないの。人と関わったりするのは得意?」
思い出したのは先輩に連れて行ってもらったインタビューの現場。
確か、その当時人気に火が付き始めたモデルさんの取材だった。
この業界にいなければ確実にお話することのなかった存在。今やスーパーモデル。
とても楽しかった思い出がある。
学生の時も、友達や、先生、教授と話すのが楽しかった。きっと私は人と話すのが好きなのだろう。
「好きです。得意かどうかははっきり言えませんが…」
「いいじゃないの。自信のある顔してる。」
じゃあ、、と言いながら手元のファイルからたくさんの資料を出して広げる。
一瞬文字が読めるか心配したが、しっかり日本語で書かれていたから安心。
「人事は今人が足りてるのよ。総務もだし、広報、経理、企画も足りてるわね。足りてないのは現場調査。あとは職員たちの相談室かしら。」
現場調査、は、嫌だ。嫌な予感しかしない。
「そんなに青ざめなくても大丈夫。仮に現場調査だとしても商店の商売状況管理の方に行ってもらうから。もっとも、現場調査には行かせるつもりはないわ。」
「よかった…」
「あ。相談室の人手が足りてないわね。今年度、といってもあと二日しかないけれど、退職してしまう子がいるのよ。移動願いも一件来てるし。あー、この移動願いの存在忘れてた。ねえ、明華さん、」
身を乗り出し、ググっと距離が近くなる。
「相談室配属なんて、どう?必要な能力はコミュニケーション能力のみ。相談してくる職員に優しく寄り添う、そんな部署よ。」
相談室。
向いているのか。しっかり寄り添えるのか不安が大きい。
でも、興味はある。
「やって、みたいです。」
「決まり!もしも合わないとか、問題があったらいつでも部署変更はできるからね。何かあったら人事部に来て頂戴。」
「はい。」
「ということで配属先は決まったとして。ここの人事って人間界でいう役所も兼ねているの。人間界のころの名前を引き継ぐこともできるし、変えることもできる。私や栗花落みたいに、苗字がなくてもいい。ちなみに栗花落は人間界のころと名前を変えたわね。新しい人生絵をスタートするんだー!って息巻いてたっけ。どうする?」
名前を変えられる。
紗々谷明華という名前を、変える。
イマイチぴんとこなかった。
「そんな名前にはしないと思うけど、閻魔様と同じ名前はダメ。」
「名前はそのままでお願いします。この名前、好きなので。」
「かわいい名前だものね。わかったわ。」
そのあと住む場所もサクッと決まり、「地獄での生活の注意事項」と書かれた紙の束やらなんやら大量の書類を渡されて、このまま鬼籠さんと一緒に地獄の街に出かけることになった。
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