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「明華さーん!」
鬼籠さんと会議室から出たとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「栗花落さん!」
「あ、もしかして名前変えた?だったらごめんね。」
「いえ、変えませんでした。私は紗々谷明華のまます。」
「そっか!じゃあ正式に明華ちゃんだ!」
「栗花落ちゃん、仕事は?」
「鬼籠さんと明華ちゃん、絶対出かけると思ったのでついていきたくて。重要なものもなかったですし。」
「年度末のまとめもほぼ終わってしまったものね。新年度の準備もしっかりやるのよ?」
「はーい。ばっちりやっておきます!」
会話が緩い。
上司と部下とは到底思えないほどの緩い会話。
まるで友達のような、そんな雰囲気。
もしかして地獄職員の仕事というものは、超ホワイトな集団なのではないだろうか。
「じゃあ三人で行きましょうか。」
そのままビルを出て、外に出る。
空の色とその薄暗さだけが、かろうじて地獄という真実を突き付けてくる。
鬼籠さんも鬼だから、地獄なのはわかっているけれど。
「この世界はずっとこんな感じの明るさになってるから夜とか昼とかが分かりにくいの。だからあちこちに時計台があるし、私たちかみんな腕時計をしているわ。これは特注品だから、明華ちゃんの分もあとで注文しなくちゃね!」
そういう栗花落さんの腕につく腕時計は赤を基調としたかわいいデザイン。
別に特注じゃなくても良さそうなのにとか思っていると鬼籠さんが補足する。
「社員証も兼ねているのよ。配属先によって色や柄が変わってくるの。」
「人事部は赤色!現場の人は黒、広報は黄色、総務は青、相談室は何色でしたっけ。」
「緑、とかだったかしら…」
あれ。もしかして、相談室って影薄い?
人手不足とか言ってたけど、影薄すぎてそのこと忘れられてたし…
ちゃんとやっていけるだろうか。
「ここが地獄商店街。地獄職員として働いている人たちの息抜きの場になってるわ。経営しているのは私みたいに地獄で生まれ育った鬼と呼ばれる人、そして、妖怪たちね。」
そういって紹介されたのは、きらびやかな商店街。
赤い提灯があちこちに灯ってて、まるでお祭りのよう。にぎやかで、楽しげな雰囲気で溢れている。
また、地獄の地ということを忘れそうになる。
「スイーツもあるし、ショッピングもできるし、図書館もあったり…割と人間界と近い娯楽があるかも。」
「そうね。人間界から来た地獄職員も多いことだし、割と近いものがあるのかもしれないわね。」
「地獄って、忘れてしまいそうですね。」
「人間界から来た人たちはそうかもしれないわね。」
「ですです!雰囲気こそ地獄なんですけど、やってることは人間界の時の息抜きと同じですから!」
「明華さんも、楽しんでね。今日、生活の支援金は出るからね。」
「え、今日からもう支援金とか出るんですか!?」
「お金なくてどうやって暮らすつもりだったのよ。」
「いや、なんとなく、最低限のものだけ用意されてるのかなって。」
「そりゃあ最低限のものは家の方に置いてあるわ。それだけじゃあ息抜きにならないでしょ?環境にも慣れてもらわなきゃいけないし。」
「ね?人間界よりも福利厚生しっかりしてんのよ。私もこっち来た時相当驚いた。」
商店街を抜けると、住宅街。
ちらほら見える提灯は居酒屋のものや、レストラン、カフェのもの。
「あそこが明華さんの家ね。」
鬼籠さんの手の先に見えたのはアパートのような建物。
とはいっても決して古いわけではなく、新しすぎるわけでもなく、この環境に見事にマッチする建物だった。
一人で暮らすには十分そうな見た目だ。
「二階の、角部屋。カギはこれね。」
手渡された鍵、、まさかのカードキー。
せっかく地獄っぽい雰囲気を味わっていたのに、ここで壊されてしまうとは…
「生活必需品は中にそろってるわ。足りないものや欲しいものがあったら商店街でその都度買い足してね。はい。これが支援金。あと今はまだ仮なんだけど、地獄職員の会員カード。仕事始めは三日後の4月1日。1日の朝9時になったら職員のビルに来てね。案内されるはずよ。」
「はい。わかりました。いろいろとありがとうございます。」
「明華さん、この先をまっすぐ行くと暗くなっていって、下に降りるエレベーターがあるけれど、降りて行っちゃだめだからね。あの先はもう現場だから。」
「詳しいことは今日渡した資料を読んでくれると助かるわ。じゃあ、楽しんで頂戴。」
「はい。本当に、何から何までありがとうございます!」
家の中は割とシンプル。でも、すごく広い。
自分ひとりには十分すぎる程の広さ。
服も、仕事用のスーツがあって、もちろんそのほかにもいろいろあって。一体いつ準備されたのか。
キッチン用品から洗濯用品、本当に何から何まで揃っていた。
ベッドではなく布団なのがさすが和の雰囲気漂う地獄。
そこはちゃんと雰囲気大事にするのねと思ってしまった。
ふと時計を見ると夜の10時。
外の明るさは変わらない。
昼と夜が分かりにくいとはそういうことか。
いい時間になってきたことだし、もらった注意事項にだけでも目を通しておこう。
とにかく、現場職員以外はこれ以上地獄の奥に進んではいけないこと。
年度は50年に一度変わること。
休暇はしっかりとること。
いつでも閻魔様敬うこと。
ほかの国へ旅行はできるが、旅行許可を提出し、勝手に輪廻転生しないこと。
とまあ、ざっくりとした主な内容はこんな感じ。
そして、気になる最低勤務期間は…
50年。
あれ?聞いていた話よりも0一つ多くね?
ってことは、栗花落さんは最低勤務時間の倍の期間地獄職員として働いているということか。
それはそれですごいな。
今日一日で感じてはいるけれど、地獄職員の仕事は案外楽しいものなのかもしれない。
鬼籠さんと会議室から出たとき、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「栗花落さん!」
「あ、もしかして名前変えた?だったらごめんね。」
「いえ、変えませんでした。私は紗々谷明華のまます。」
「そっか!じゃあ正式に明華ちゃんだ!」
「栗花落ちゃん、仕事は?」
「鬼籠さんと明華ちゃん、絶対出かけると思ったのでついていきたくて。重要なものもなかったですし。」
「年度末のまとめもほぼ終わってしまったものね。新年度の準備もしっかりやるのよ?」
「はーい。ばっちりやっておきます!」
会話が緩い。
上司と部下とは到底思えないほどの緩い会話。
まるで友達のような、そんな雰囲気。
もしかして地獄職員の仕事というものは、超ホワイトな集団なのではないだろうか。
「じゃあ三人で行きましょうか。」
そのままビルを出て、外に出る。
空の色とその薄暗さだけが、かろうじて地獄という真実を突き付けてくる。
鬼籠さんも鬼だから、地獄なのはわかっているけれど。
「この世界はずっとこんな感じの明るさになってるから夜とか昼とかが分かりにくいの。だからあちこちに時計台があるし、私たちかみんな腕時計をしているわ。これは特注品だから、明華ちゃんの分もあとで注文しなくちゃね!」
そういう栗花落さんの腕につく腕時計は赤を基調としたかわいいデザイン。
別に特注じゃなくても良さそうなのにとか思っていると鬼籠さんが補足する。
「社員証も兼ねているのよ。配属先によって色や柄が変わってくるの。」
「人事部は赤色!現場の人は黒、広報は黄色、総務は青、相談室は何色でしたっけ。」
「緑、とかだったかしら…」
あれ。もしかして、相談室って影薄い?
人手不足とか言ってたけど、影薄すぎてそのこと忘れられてたし…
ちゃんとやっていけるだろうか。
「ここが地獄商店街。地獄職員として働いている人たちの息抜きの場になってるわ。経営しているのは私みたいに地獄で生まれ育った鬼と呼ばれる人、そして、妖怪たちね。」
そういって紹介されたのは、きらびやかな商店街。
赤い提灯があちこちに灯ってて、まるでお祭りのよう。にぎやかで、楽しげな雰囲気で溢れている。
また、地獄の地ということを忘れそうになる。
「スイーツもあるし、ショッピングもできるし、図書館もあったり…割と人間界と近い娯楽があるかも。」
「そうね。人間界から来た地獄職員も多いことだし、割と近いものがあるのかもしれないわね。」
「地獄って、忘れてしまいそうですね。」
「人間界から来た人たちはそうかもしれないわね。」
「ですです!雰囲気こそ地獄なんですけど、やってることは人間界の時の息抜きと同じですから!」
「明華さんも、楽しんでね。今日、生活の支援金は出るからね。」
「え、今日からもう支援金とか出るんですか!?」
「お金なくてどうやって暮らすつもりだったのよ。」
「いや、なんとなく、最低限のものだけ用意されてるのかなって。」
「そりゃあ最低限のものは家の方に置いてあるわ。それだけじゃあ息抜きにならないでしょ?環境にも慣れてもらわなきゃいけないし。」
「ね?人間界よりも福利厚生しっかりしてんのよ。私もこっち来た時相当驚いた。」
商店街を抜けると、住宅街。
ちらほら見える提灯は居酒屋のものや、レストラン、カフェのもの。
「あそこが明華さんの家ね。」
鬼籠さんの手の先に見えたのはアパートのような建物。
とはいっても決して古いわけではなく、新しすぎるわけでもなく、この環境に見事にマッチする建物だった。
一人で暮らすには十分そうな見た目だ。
「二階の、角部屋。カギはこれね。」
手渡された鍵、、まさかのカードキー。
せっかく地獄っぽい雰囲気を味わっていたのに、ここで壊されてしまうとは…
「生活必需品は中にそろってるわ。足りないものや欲しいものがあったら商店街でその都度買い足してね。はい。これが支援金。あと今はまだ仮なんだけど、地獄職員の会員カード。仕事始めは三日後の4月1日。1日の朝9時になったら職員のビルに来てね。案内されるはずよ。」
「はい。わかりました。いろいろとありがとうございます。」
「明華さん、この先をまっすぐ行くと暗くなっていって、下に降りるエレベーターがあるけれど、降りて行っちゃだめだからね。あの先はもう現場だから。」
「詳しいことは今日渡した資料を読んでくれると助かるわ。じゃあ、楽しんで頂戴。」
「はい。本当に、何から何までありがとうございます!」
家の中は割とシンプル。でも、すごく広い。
自分ひとりには十分すぎる程の広さ。
服も、仕事用のスーツがあって、もちろんそのほかにもいろいろあって。一体いつ準備されたのか。
キッチン用品から洗濯用品、本当に何から何まで揃っていた。
ベッドではなく布団なのがさすが和の雰囲気漂う地獄。
そこはちゃんと雰囲気大事にするのねと思ってしまった。
ふと時計を見ると夜の10時。
外の明るさは変わらない。
昼と夜が分かりにくいとはそういうことか。
いい時間になってきたことだし、もらった注意事項にだけでも目を通しておこう。
とにかく、現場職員以外はこれ以上地獄の奥に進んではいけないこと。
年度は50年に一度変わること。
休暇はしっかりとること。
いつでも閻魔様敬うこと。
ほかの国へ旅行はできるが、旅行許可を提出し、勝手に輪廻転生しないこと。
とまあ、ざっくりとした主な内容はこんな感じ。
そして、気になる最低勤務期間は…
50年。
あれ?聞いていた話よりも0一つ多くね?
ってことは、栗花落さんは最低勤務時間の倍の期間地獄職員として働いているということか。
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