地獄で働くことになりました。

露傘

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どうやら地獄での仕事始めである4月1日の前日。3月31日は地獄職員の仕事が全てお休みになる日らしく、商店街や近所の居酒屋は大賑わいだった。
私も前日にあいさつしに行ったばかりのご近所さんに誘われて、地獄生活初の飲み会に参加。地獄の酒を味わった。人間界のお酒よりおいしかったかも。
その他には商店街をぶらぶらして見つけたインテリア雑貨のお店がかわいかったな。
あと、図書館が広すぎて迷路のようだった。

4月1日。
いよいよ地獄職員として仕事を始める日。
朝は6時30分に起きる。
これは人間界にいたときから染みついている習慣。
地獄とはいえ食べ物も人間界とほぼ同じ。少しだけ辛いものが多いかな。
適当に食べてスーツに袖を通すと、驚いたことにサイズはぴったり。

行ってきますとまだ慣れない家にあいさつし、地獄職員の事務所に向かう。
迷うかな。なんて思ってたのがウソのようにスムーズに道を進んでいく。
理由は簡単。ご近所さんが一緒に出勤してくれたから。
夕ご飯のおすそ分けやおすすめのお店、いいリフレッシュスポットなど、何から何までお世話になりまくっている。
ちなみに全員鬼。
薄暗く、雲が赤いこの景色にも、隣に鬼が立っていることも、だんだん慣れてきた。
暮してみてわかったのは、みんないい人(鬼)だということ。
人間界については本でしか知らないらしく、質問が絶えない。
話していると楽しそうに聞いてくれるもんだから、私もどんどん話が進む。
それと同時に、少しだけさみしくなる。

そういえば、私の家ってどうなったんだろ。
残してきた仕事って。どうなったんだろ。
死んだ、んだよね?私。
親は?友達は?どうしてるんだろ。
突然いなくなって、悲しんでたりしないかな。
それは考えすぎか。
考えすぎだと分かっていても、考えずにはいられなくてこれが頭から離れてくれることはなかった。


楽しく話しているうちに事務所について、今は新年度集会をするためのホールにいる。
見渡す限り鬼、鬼、鬼、、
ここで働く8割が鬼という。ここは地獄なんだから、当たり前なのだけど。

「えー、今日から新年度が始まります。今年度は3名の人間の方々が来てくれました。紹介します。」

鬼の新入社員は?なんて思ったけれど、鬼の新入社員は200年に一度しか募集しないらしい。
こっちの世界には細かいルールが多く、わからなくなってしまいそうだ。

「現場管理配属、二名。大石愛斗おおいしあいとさん、平野海ひらのうみさんです。」

同期となった二人の名前がまず呼ばれる。

うおー!

と、ある一角から歓声が聞こえる。
どうやらその声の主は現場管理の職員たちのもの。
二人はこれでもかというほどに配属先から歓迎されていた。

「相談室配属、一名。紗々谷明華さんです。」

っし!

前の二人とは打って変わって、静かな空間。
すごく遠くの方で一瞬喜びの声が聞こえた気がするが、気のせいだと思う。
歓迎、されてないみたい…
二人がすごすぎて、自己肯定感ダダ下がり。
こんなんで50年も勤務できるのだろうか。

「それでは今年度も皆さんで頑張っていきましょう。」


二人とよろしくね程の簡単な会話をしていたら、二人にお迎えが来た。
じゃあ、またねとあいさつを交わし、私は私の迎えを待つ。

「明華、さんであってますか…」

「はい。えっと…」

「相談室の職員です。よろしくお願いします。」

「あ、よろしくお願いします。」

相談室職員と名乗ったその鬼は、少し気の弱そうな鬼だった。

「とにかく、俺らのオフィスに行くぞ。」

もう一人は気が強そう。
すたすた歩きだす二人の鬼に置いて行かれないよう、だだっ広いホールをあとにした。

「ごめんね?あの二人、ちょっと不器用なんだ。新入社員迎えるのが500年ぶりってのもあると思うんだけど。」

重苦しい雰囲気に圧倒されていると、眼鏡をかけた、親しみやすそうな人間の男性が声をかけてくれた。

「いえ、大丈夫です。」

にしても、500年新入社員がいなかったって、どれだけ人気のない部署なのだろう。この人間の男性は一体何年勤務し続けているのだろう。
やっぱり間違えてしまったのかな。

「ああやってるけど、内心めちゃくちゃ嬉しいはずだから。僕も人間の仲間ができてうれしいし。」

そう言って、にこりと笑う。
というかさっきから階段を下っていくばかり。一体どこに連れていかれるのやら。

「ついた。ここが僕たちのオフィスです。明華さんも、明日からはここに出勤してきてください。」

そういう鬼の指さす先は一つの扉。
そこにはかわいくデコレーションされた看板がかかっている。まるで幼稚園のクラス看板みたいな。
ってかここ、明らかに地下だよね?

「地下で驚くよね。鬼たちにとっては地下の方が落ち着くんだって。俺たち人間には少し怖いけれどね。」

「そう、なんですね。」

さあどうぞと開いた部屋の先は、相談室っぽさは微塵も感じられない、どこの会社にもありそうなごくごく普通のオフィスだった。

「明華さんの机はあそこになります。パソコンも二台準備してます。仕事用と、個人用。個人用は自由に使ってください。」

個人用のパソコン!?
もらえたって解釈でいいの?

「鬼野さん、まずは自己紹介でしょ。明華さんとまどってますよ!」

「あ、そうですね。私、相談室の室長です鬼野きのといいます。よろしくお願いします。」

「俺、は、相談室副室長の瑠鬼るきです。よろしくお願いします。」

「はい。僕は相談室平社員、大庭大我おおにわたいがです!よろしくね!」

「えっと、相談室配属になりました紗々谷明華です。不束者ですが、どうぞよろしくお願いします。」

自己紹介を聞いて、なんとなくわかった。
気の弱そうな鬼が鬼野さん。気が強そうに見えながら、ツンデレ感を感じずにはいられない鬼が瑠鬼さん。唯一の人間で、一番親しみやすそうな、優しそうなメガネの人が大我さん。

「我々相談室職員、明華さんを含めてこの4人が全メンバーです。今年度も頑張っていきましょう。」

鬼野さん以外のメンバー二人による緩い返事。
え、まさかと思ったけど、ここの部署私入れて4人しかいないの!?
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