『悪役令嬢は終末を愁う〜婚約破棄=世界滅亡!?逆行した公爵令嬢は悪辣聖女を断罪する』

宇田川リュウ

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【1】終わりの光景

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わたくしが憶えている最期の記憶は、凄惨な終末おわりの風景だった。


「エレノア=ノクス=ベルネット!
私は君との婚約を解消する!」

最愛とは呼べなかったけれど。
親同士の決めた政略結婚だったけど。
それでも幼き頃から、この人と生涯を共にするのだと決めた人からの決別は、胸にこたえた。

「残念だ、エレノア。
キミが彼女に、シャーロットにした所業の数々。
その罪は到底許されるものではない」

形式上でも、1度は将来を誓い合った仲とは思えないほどに酷薄な目で。
私を見下ろす殿下は、どこまでも冷たく告げる。

「せめて私の元婚約者として、誇り高く死んでほしい」

侮蔑を隠そうともせずに、かたわらに抱いた少女の髪を撫でながら。
捕らえられ、無数の騎士に床に押さえつけられる私を見下して、彼はそう吐き捨てた。

「ごめんね、エレノアさま」

彼に体をすり寄せる少女の顔が、とても愉快そうに歪んでいた。

「あなたが大切にしているもの、ぜんぶ。わたしがもらうね?」


(そう、これは始まりの日ーー殿下に別れを告げられた日)


断片的な映像を誰かが取り替えているように、次々と自動的に場面が切り替わっていく。

暗く冷たい地下牢の温度。
日に日に痩せ細る自分の手足。
投げつけられる食事。
通りすがりに浴びせられる侮蔑の言葉。
縛られた腕の痛さ。
外の澄んだ空気。
踏みつけられた背中がきしむ音。
最期に見上げた空の青さ。

そして、好奇の目で私を見る群衆。

断頭台の刃が落ちる寸前。
大きなおおきな影が、地面を黒く染めあげたのを見た。
世界を切り裂くような咆哮が聴こえた。


再び場面が切り替わる。
これは私が“いなくなった“あと。

きっと世界が覚えている最期の記憶。



ありとあらゆるものが破壊され、あちらこちらから人々の悲鳴がきこえる。

毎朝登校時に通っていた大通りには、焼けただれて炭と化した、かつて人だった“モノ“が転がり。

お気に入りのカフェもジュエリーショップも今はただの瓦礫ガレキの山となった。

誰かのすすり泣く声をBGMに、私は通いなれた学園を目指す。

(“終わり“が、近づいている)

あそこで死んだ私には、
もう炎の熱さも、誰かの悲しみも全てがどうでもよく感じられた。


たどり着いた聖エーデルシュタイン学園。
白を基調とした洗練されたデザイン。

中心に据えられた、この学園の象徴ともいえる背のたかい時計塔は半分に折れ、真っ白であった建物はススと埃にまみれて、かつての威容は見る影もない。

「どうしてよ……」

地の底を這うような、怒りに震えた声。
つ、と視線を向けると、今にも崩れ落ちそうな校舎の前で、純白のドレスに身を包んだ少女が、かたわらに横たわる少年をかき抱いて涙を流していた。

「どうしてっ!わたしの力がっ!効かないのよ!!」

少女の咆哮と共に、あまい桃色の光が一瞬だけ少年を包んでーーすぐに霧散した。

少女がことあるごとに披露していた、聖女の力。

その力は他者の傷を癒し、心を慰め、その慈愛に包まれたものは、たとえどんな悪人でも、これまでの自らの所業に涙を流し、心をあらためるという。

だがその力は、大きな傷を負い、今にも命の灯火が消えてしまいそうな少年の傷を癒さない。

「ああ……、アル。
わたしの大好きなアル。
おねがいだから死んだりしないで」

芝居がかった調子で、少女は胸に抱く少年ーーアルベルト殿下の頬に額をよせる。
それは“世界の終わり“に瀕したこのトキにおいて、いちばんの見せ場ハイライトだったのかもしれない。


「それもこれもっ!あの女のせい!」

憎悪の眼差しを天にむけて、少女は叫ぶ。

「あの女がいなければっ!こんな地獄のような終わりはやってこなかったのに!!」

血を吐くような絶叫だった。
この世の恨みという恨みをまとめあげて、ひとつに丸めて凝縮したような。
そんな、痛ましい叫び。

「どこまでわたしの邪魔をすれば気がすむの!!」

それを聞いている私の心は、何ひとつ痛まなかったけれど。


(だって、この結末のきっかけを作ったのは)

「エレノア=ノクス=ベルネット!!わたしは、あなたを絶対にゆるさない!!」

、シャーロット)

その時大きなおおきな影が、
太陽を背にして空を飛ぶのを見た。

それを見上げた瞬間。
ぷつん、と。回想はここで終わりだというように、私の視界はあっけなく暗転した。
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