追放王子の流刑地脱出劇!〜背に腹はかえられないので罪人をパーティに入れようと思います!〜

天海二色

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第四章 王城が大変なことになっているんだが?

第二十七話 再戦の時

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「作戦は、こうだ」

 日が昇り切った朝。
 遺跡型ダンジョン《ラマニア》を背にして、レオナルトが鋭い眼差しで仲間たちを見渡し、静かに口を開いて言う。

「まずはドラゴンの口を塞ぐ。これはリックの腕にかかっている。心してかかってくれ」
「は、はいぃいいっ!」

 リックは肩を震わせながらも必死に頷いた。
 彼の手にはジズ捕獲の際にも使われた、地獄蜘蛛ヘルスパイダーの糸を原料とした縄が握られている。
 ドラゴンの吐く灼熱の炎を封じるには、それを口に巻きつけるのが最も効果的であるからだ。ただし成功するか否かは、彼の動き次第だった。

「次に。ドラゴンの翼を封じたい。翼には鱗がなく比較的柔らかいが、それでも至近距離で攻めなくてはダメージは通らないだろう。……非常に危険だが、グレン、頼めるか?」
「ここに危険じゃない場所なんてあるかよ。何だってやってやるよ、坊ちゃん」
「……ありがとう、グレン」

 勝気に笑うグレンにレオナルトは短く礼を言うと、少し表情を和らげる。

「飛行不能にしたら、ドラゴンを。これは私が請け負う」

 レオナルト自身の役目は、暴れるドラゴンを巧みに操り、弱点を曝けさせること。
 
「そして最後に。……逆鱗を射ってくれ。ルゥ」
「うん。任されたよ」

 ルゥは弓を片手に頷く。
 レオナルトはもう一度仲間たちへ視線を向け、覚悟を決めた彼らの顔をしかと目に焼き付けると、背筋を伸ばし胸を張り、号令をかける。

「では! これよりドラゴン退治に入る! 皆、気を引き締めてくれ!!」

 ◇

 《ラマニア》の【最奥の間】を寝床とするドラゴンは、ダンジョン・コアの放つ魔力に不審な動きがあれば、どこを飛んでいようとも高速で舞い戻ってくる。
 逆に言えば、好きなタイミングで呼び戻せるということだ。
 例えば月の見えない土砂降りの夜。月の光が届かない暗闇の中で、レオナルトが【最奥の間】でダンジョン・コアの魔力を利用しようとすれば、ドラゴンは《ラマニア》へ急行する。
 天窓に仕掛けられた輪っか罠スネアトラップに、気付きもせずに。

 ビシ……ッ!

 《ラマニア》の天窓へ頭から入っていったドラゴンの体に、地獄蜘蛛ヘルスパイダーが編み込まれた縄が絡み付く。
 月明かりさえない暗がりで視界が悪い中、ドラゴンは困惑から声をあげようとしたものの、それはできなかった。
 口に縄の輪がかかり、降下の勢いによって固く結ばれていたからだ。
 それでもドラゴンは構わず【最奥の間】へ向かう。
 ドラゴンには爪も翼も尾も、その巨体もある。のしかかって押し潰すだけでも、大抵の相手は死ぬ。
 よって縄を解くよりもダンジョン・コアへ触れている不届き者の排除を優先した。

 辿り着いた【最奥の間】では、部屋の中央に金髪金眼の青年、レオナルトが立っている。
 彼の周囲には赤い火球が複数浮かび、灯り代わりとしている。
 とても目立つ的ことレオナルトへ向け、ドラゴンは翼を羽ばたかせ、巻き起こした突風で壁に叩き付けようとした――!

「よっ、と!」

 が、突風が放たれる前に、翼の片方の動きが悪くなる。遅れてやってくる微かな痛み。
 不思議に思ったドラゴンが顔を後ろに向けて見ると、片翼に穴が一つ空いている。背後から投げられた槍が翼を貫いたのだ。
 しかも翼に刺さった槍にはが付いていて、簡単には抜けない仕様となっている。
 邪魔くさいトゲが刺さったような不快感。ドラゴンは一度、足を床に付け、レオナルトを屠るよりも先に不快感の排除に取り掛かろうとした。

「背中借りるぞ、トカゲ野郎」

 その隙を狙って、グレンがドラゴンの尾を伝い体を駆け上がっていく。
 それに気付いたドラゴンが尾を振り回し振り落とそうとしたものの、グレンはその脚力を持ってして一気に翼の付け根まで飛び上がり、右手に持っていた槍を、あらん限りの力で振り回した。

「うぉおおおおりゃああっ!!」

 それによってドラゴンの翼の幕は大きく裂け、風を起こすことも風に乗ることもできなくなってしまう。
 そこに畳み掛けるように、レオナルトの魔法が炸裂した。

「大地を揺るがす鼓動よ! 我が息吹に応え、障壁となりて隆起せよ! グランドブレイク!!」

 ダンジョン・コアの上で詠唱を唱えたことにより、常よりも強力な効果を発揮し、ドラゴンの足元の床が一瞬の間に盛り上がり、その下の巨大な岩を露出させる。
 翼を回復させる前に繰り出された、地盤そのものを変動させる魔法により、ドラゴンはバランスを崩し体を大きく揺らす。
 その間にグレンは背中から飛び降り、ドラゴンの転倒に巻き込まれないよう備えた。
 尤もドラゴンは転倒はせず、少し体を仰け反らせたに留まった。

「蒼天から降り注ぐ聖なる光よ! 我が決意に応え、障害を退く槍となれ!」

 その瞬間を狙っていたレオナルトが、叫ぶような声で詠唱を唱え光魔法を発動する。

「ホーリーランス!!」

 ドラゴンの体に……ではなく、
 強力な光を眼前に発動されたドラゴンの動きが、仰け反った状態のまま、完全に停止する。

 ――ヒュッ

 雨の音に紛れ、一本の矢が空を切った。
 それは石柱の上に立っていたルゥが放った矢。
 矢は真っ直ぐ飛び、まるで吸い込まれるように狙いすましたドラゴンの首、喉元の一点――逆鱗へと迫る。

 ――ズッ!

 鋭い音とともに、矢は逆鱗に突き刺さった。
 刹那、ドラゴンの全身がビクリと震え、怒りと痛みにのたうち回り、その巨体が周囲の岩壁を砕きながら暴れ出す。
 封じられた口から漏れ出す熱気が、雨に蒸気を生み、辺りを白く霞ませた。

「全員! 私の後ろにっ!!」

 レオナルトの叫びに、仲間たちは一斉に身を翻し、彼の元へ集う。

「災いを払う聖なる光よ! 我が思いに応え、迫る災厄から守る盾となれ! シールド!!」

 そして光の壁がレオナルトの前方に形成される。
 直後、自身も巻き込まれるのも構わず、ドラゴンの口の僅かな隙間から灼熱の炎が放たれ、【最奥の間】を火の海へと変えた。

「あっつ! 熱いですぅっ!」
「おいこれ、蒸し焼きにならねぇか!?」
「すまない! 私は炎を防ぐだけで精一杯だ……!」

 炎は届かなくとも炎の持つ熱は届く。
 リックとグレンは顔に不安を滲ませ、レオナルトは険しい表情でともかくシールドを保つ。
 急所を突いたというのに、ドラゴンはまだ倒れそうにない。このままでは全滅してしまう――

「ねぇ、レオくん。この魔法の壁、こちら側からは通ることができるんだっけ?」

 レオナルトが絶望しかけたその時、ルゥの穏やかな声が響いた。

「あっ、あぁ」
「なら、いけるよ」

 レオナルトの確認を取ったルゥは、弓を構え矢を狙い済ます。

 ――ルゥ! ルゥはドラゴンと戦ったことはあるか?

 その時ふと脳裏に浮かぶのは、流刑地に送られる前の記憶。
 若さまの問いかけに対し、ルゥは「ありませんよ」と、苦笑しながら返したのを覚えている。

 ――ルゥならきっと倒せるぞ! だってルゥは御伽話の英雄のように、強くてかっこいいのだから!

 曇りのない目で見詰められ、純粋な心から伝えられた言葉。

(若さま、僕は……。いいえ、は今日、貴方の憧れる……御伽話の英雄となりましょう)

 ルゥの手が開く。矢が放たれる。業火の間を縫って、前へ前へ突き進む。迷うことも、ぶれることもなく。
 目指す先は、ドラゴンの顔面。口にキツく巻き付ている縄。
 それはドラゴンの剛力や口の隙間から溢れ出る炎を持ってしても切れないが、特定の方向からの斬撃には弱い。
 その特定の方向を、ルゥは矢をもって切り裂いた。

 直後、拘束から解放されたドラゴンが雄叫びをあげる。
 

「グォオォオオォッ!!」

 《ラマニア》の天窓から、灼熱の炎が噴き上がり空を焦がす。
 その様はまるで火山の噴火のようだったと、後の目撃者は語る。

 この雄叫びを断末魔とし、ドラゴンが息絶えたのは、間もなくのことであった。
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