追放王子の流刑地脱出劇!〜背に腹はかえられないので罪人をパーティに入れようと思います!〜

天海二色

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第四章 王城が大変なことになっているんだが?

第二十八話 英雄譚の作り方

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「『最期の時、ドラゴンは天に向かって吼える』……。昔読んだ御伽話に書いてあったことなのだけれど、それになぞった動きをしてくれて、助かったよ」
「あれ賭けだったってことかよ!?」

 巨体を横たわらせる赤いドラゴンの前で、呑気に話すルゥにグレンが思い切り突っ込む。

「どっちにしろ、あのままじゃ僕たちは熱で焼け死んでいたことだし、試してみる価値はあっただろう?」
「そ、れはそうかもしれねぇけど! もう少し確実性のある動きをだな……っ!」

 腕を振り上げ、納得できないと言わんばかりに息巻くグレン。
 それをレオナルトが笑いながら制した。

「とにもかくにも倒せたのだ! それでよかろう!」

 レオナルトに勝利の事実を強く肯定され、グレンは「うぐ……」と口ごもる。
 これ以上何か言おうにも、討伐を果たした今となっては、怒る理由も薄れてしまう。
 そんな三人の様子を眺めていたリックが、ぽつりと呟いた。

「えへへ。本当に倒せたんですねぇ、僕ら。あっ、いえ、僕は活躍しませんでしたけどぉ」
「何言ってんだ?」
「君の力がなかったら、僕らは初手で消し炭だったんだよ?」
「そうだとも!」

 謙遜するリックに対し意義を唱えるグレンとルゥ。
 レオナルトに至ってはリックの元へ歩み寄り、優しく肩に手を置いた。

「寧ろドラゴン退治に一番貢献してくれたのは君だと言っていい! 誇ってくれ、リック!」

 そして贈られた真っ直ぐな称賛の言葉に、リックの目が大きく見開かれる。
 それから、じわじわと瞳が潤み、目尻から小さな雫が零れ落ちた。

「えへ、えへへ……。ありがとう、ございますぅ……」

 涙を拭う仕草もせず、くしゃくしゃの笑顔を浮かべるリック。
 その姿に、レオナルトたちは思わず笑みをこぼした。

 *
 *
 *

「では、いよいよだな」

 勝利の余韻も束の間。
 グレン、リック、ルゥはレオナルトがダンジョン・コアの周囲に描いた真円の中に集まり、中心に立つレオナルトを静かに見詰める。

「忘れ物はないか? もう戻れないぞ」
「ばーか。ガキじゃあるまいし」
「せ、戦利品としてドラゴンの鱗をちょっと頂きましたし、これで充分かなぁと」
「僕は君たちとの思い出を持って帰れれば、それでいいかな」
「ぶっ! なぁにキザなこと言ってんだお前」

 ルゥの詩的な台詞に思わず吹き出すグレン。
 しかしルゥは本気だったようで、グレンの反応に不思議そうに首を傾げた。

「だって僕たち、サランディア王国だっけ? そこへ辿り着いたらお別れだろう? 短い間だったけれど、君たちと過ごした日を忘れたくないなって、思ったんだよ」
「お別れではないぞ、ルゥ!」

 レオナルトの言葉に、ルゥが目を瞬かせる。

「お別れではない……?」

 その疑問に、レオナルトは咳払いをしてから、少し気恥ずかしそうに言葉を続けた。

「あ、いや勿論、貴殿がよければの話になるが……」

 もごもごと口籠りながらも、レオナルトの視線はルゥを真っ直ぐに見据えている。

「行く宛がないのならば、我が故郷たる王都で暮らさないか? 仕事も住居も私が保証する。何せ私はサランディア王国の第六王子なのだから! コネならばいくらでもあるぞっ!」
「王子……。あぁ、そういえばそうだったね」

 ルゥは口元に手を当て、くすくすと小さく笑う。

「むっ! その顔は信じていない顔だな!?」
「突拍子もねぇ設定だものなぁ」
「ちっがーう! 設定ではないっ! くそぅ、帰ったら必ずやぎゃふんと言わせてやるぞグレンっ!!」
「あはは。レオ様は貴族様にしてはとても気さくですし、僕ら平民にもお優しいですから、実感が湧かないのですよ~」
「うっ、リックの優しさが心に沁みる……」

 両手で顔を覆い、さめざめと泣き真似をした後。
 レオナルトは気持ちを切り替え、転送魔法に取り掛かった。

「では、いくぞ」

 彼の魔力の流れに反応し、ダンジョン・コアがその赤い輝きを強くする。
 それを合図に、レオナルトは詠唱を唱えた。

「我、突き進む者。時と空の流れに逆らい、己が道を進撃せし者」

 レオナルトが言葉を紡ぐ間、三人は固唾を飲んで見守る。

「ここより彼方へ向かう時。ここより其方へ向かう時。円の外、円の中、そのどちらも同じと知る時。我は理の表を目撃し、我は混沌の裏を目撃し、森羅万象を「クェーッ!」ることとなり、「クェーッ!」を掌握せん! い、いざっ! 天地をまくる裂け目をここに!」

 最後に少し吃りながらも何とか詠唱を唱え終え、ダンジョン・コアが前が見えない程の輝きを放ち、

「なぁ、何かジズの鳴き声聞こえなかったか?」
「羽音も聞こえましたねぇ」
「何なら羽根も落ちてきたよ」
「アストラル・フロー・リープッ!!」

 転送魔法が発動した――!

 ◇

「一体何の真似だ、大臣っ!!」

 サランディア王国。王都の王城、その地下に作られた牢獄の中。
 両腕両足を魔法封じの鎖によって拘束され、冷たい石畳の上に転がされたヴィクトールは、目の前で涼しい顔をして立っている大臣を睨み付けていた。彼の斜め後ろには、未だ濡れている黒髪を無造作に垂らし、ぼんやりと虚空を見詰めているオーウェンが控えている。
 まるで魂が抜けたかのような姿。だがそのような状態になっているのは、今やオーウェンだけではない。
 城中にいる近衛騎士全員が虚ろな顔をして、大臣の言いなりになっているのだから。

「見てわからないか? クーデターだよ」

 大臣はそう言って、牢獄の外に待機する、操り人形と化した騎士団へ一瞥を送る。
 ギリと、ヴィクトールは奥歯を噛み締めた。

(間違いない、あれは精神操作魔法……! 『禁術』だ!)

 精神操作魔法。
 文字通り、他者の精神に干渉する魔法だ。使いようによっては隷属させるのも、廃人とさせるのも可能な、恐ろしい禁術。
 しかし、効果は魔法使いの力量に左右される。他者を意のままに操れる魔法使いなど、歴史上でも数えるほどしかいない。

(それを大臣が使えるはずがない! 使えるとすれば……!)

 大臣の後ろに控え虚空を見詰めている、宮廷魔法師オーウェン。
 稀代の魔法使いである彼ならば、精神へ深く干渉することも可能だ。

(大臣の直属の部下とはいえ、王国に仕える身である彼が禁術を使うとは……! いや、しかし彼は二週間前から既に様子がおかしかった。加えて彼自身、禁術をかけられるように見える。一体どうやって……!)

 そこでヴィクトールはハッと目を見開く。

(……レオナルトが持っていたというロケットペンダント、その蓋の内側に書かれていた魔法陣は、もしや)
「ふむ、さすが王子殿下。理解が早い」

 大臣は足音を響かせながらヴィクトールに近づき、しゃがみ込むと、その金髪を掴んで強引に上を向かせた。

「しかし打つ手はない。そうだろう? 国王殿下は異国にいる。他の王族も城を離れている。騎士団は使えない。そして城を任されている君は、ご覧の有り様ときた」

 大臣が満足そうに口元を吊り上げる。
 彼は王城が手薄になる今日を、虎視眈々と待っていたのだ。

「ずっと勿体無いと考えていたんだ。騎士団や魔塔といった手堅い国力があるというのに、消極的な国政を続ける王族に」

 サランディア王国は平和な国だ。
 特に王都では労働者階級たる平民も王立学園で学を身に付けることができ、道を外れ焼印を付けられた罪人でさえ流れてくることを受け入れる、懐の深さを持つ。
 力に自信があるものは騎士団へ、魔法に造詣が深い者は魔塔へ。他にも多様な職や暮らしがあり、幅広い精鋭を排出している。
 にも関わらず、王族は民を国力増強のために活かそうとしない。

「この国はもっと繁栄できるはずなのに。私がいくら訴えても、国王殿下は聞く耳を持たなかった」

 大臣は長年、進言してきた。
 騎士団を強化し、周辺諸国へ進軍することで領土を広げるべきだと。魔塔の研究を軍事転用し、新たな戦術を生み出すべきだと。
 しかし国王陛下は平和を保つことを理由に、現状維持を選び続けた。
 大臣の不満はどんどん膨れ上がっていき、そしてとうとう、破裂した。

「サランディア王国は大陸一の強国になれる。それを私が、これから証明してみせよう」
「王城を力で制圧したとして、民は従わぬ! 無駄なことだ!!」
「そう、大事な民に慕って貰わなくては。その為には……英雄になるのが手っ取り早い」

 そこで大臣はヴィクトールの金髪から手を離し、石畳に頬を付けた彼の顎を靴先で押し上げる。

「例えば王権独占を目論んだ王子が、王族を惨殺。更には即位を認めない民をも斬り捨てる、殺人鬼に成り果てる。そこを討取れば、素晴らしい英雄譚ができると思わないか?」
「……貴様! 戦争を考えているだけでなく、民をも手にかける気か!! そのような利己的な人間に、王が務まると思うな!!」

 怒りを露わにするヴィクトールを大臣は鼻で笑い、彼の喉を蹴り付けた。
 牢獄に、苦しげに咳き込む声が響く。

「時間稼ぎとはいえ、痛め付けられるのはいい気分ではなかったなぁ。……ヴィクトール、お前には悪役ヴィランになって貰おうか」

 大臣が背後に控えたオーウェンへ視線を向けた。
 それを合図に、オーウェンが無言のまま杖を掲げる。精神操作魔法を使う気である。
 反射的にヴィクトールは鎖を引きちぎろうとするが、鎖はびくともしない。その間にも、オーウェンの杖先に集まる魔力はどんどん濃くなっていく。
 ヴィクトールが焦燥に駆られたその瞬間――

 突如として、王城全体が激しく揺れた。

「……何だ?」

 不意の揺れに、大臣が眉をひそめる。ヴィクトールも驚きながら顔を上げた。
 するとヴィクトールの見上げた先、牢獄の天井に細かい亀裂が走る。
 次いで轟音とともに、牢獄の天井が、崩れた。



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