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第四章 王城が大変なことになっているんだが?
第三十三話 ロケットペンダント
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時が止まったかのように、天井の瓦礫や大臣、レオナルト、そしてオーウェンの動きが停止する。
「……っ!?」
床へ叩き付けられる前にと、レオナルト達を受け止めようと身構えていたグレンは驚愕から左目を見開く。
これは、オーウェンの魔法だ。魔塔の主であり、宮廷魔法師でしか成し得ない、奇跡にも似た魔法。
「宮廷魔法師様! 正気に……っ!」
「あーーーっ!!」
レオナルトが目を輝かした刹那。オーウェンが突如、頭を抱えて叫び声をあげた。
場に緊張が走る。だが次に飛び出したのは――
「やっど喋れる! 息へずなぇ!! 大馬鹿者! おだつなってふとこぎ使って! もう、あったまぐ!」
大声でまくしたてるような叫び声。堰を切ったように紡がれる方言。
ぽかんと、レオナルトは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「きゅ、宮廷魔法師様……?」
それでもレオナルトが戸惑いながら声をかけてみると、オーウェンはハッと我に返ったらしく、
「んんっ!」
と、誤魔化すように咳払いをした。
そしてすぐに表情を引き締め、かつての静かな威厳を取り戻す。
「失礼いたしました、レオナルト王子。今降ろします」
その声には、先ほどまでの荒々しい訛りなど微塵も感じられない。気品さえ漂う声音だった。
次いで宙に浮かぶレオナルトたちを丁寧に地面へ降ろすオーウェン。その所作は丁寧かつ慎重で、乱暴に扱う意図など微塵も感じさせない。
「今までの数々のご無礼、面目次第もございません」
無事にレオナルトと自分、あとついでに大臣を降ろし終えたオーウェンは、石畳の上に両手をつけ、深々と頭を下げた。
所謂、土下座である。
あまりの丁寧さにレオナルトの方がたじたじになってしまう。
「い、いいんだ宮廷魔導師様」
「敬称をつけて頂くなど、恐れ多い。わたくしのことはただの『オーウェン』とお呼びください」
「いや、その……。で、では、オーウェン殿」
「はい。いかなる処罰でも受げる所存で、」
思わず訛りが混じりそうになった瞬間、オーウェンは再び咳払いをして言い直す。
「――受ける所存でございます」
その丁寧な声音とは裏腹に、グレンもレオナルトも、先ほど耳にした荒々しい訛りの残像が脳裏から離れなかった。
「しょっ、処罰など! ええと、私は今までの経緯を聞ければそれでいい! 貴殿の処遇は兄上が定めることだろう」
「了解いたしました。ではヴィクトール王子を交え、ことの顛末を語らせて頂きます。……っと、その前に」
ふとオーウェンが顔をあげたその瞬間、
ダンッ!
固い石畳に何かが叩き付けられる音が反響した。
レオナルトとグレンがオーウェンに気を取られている隙に、密かに一人逃亡しようとした大臣を、オーウェンが重力操作の魔法を使って床に押さえつけたのだ。
「おめには落とし前ばつけで貰うまで逃がさねど」
◇
「私は王国の未来の為に!」「このままでは衰退の一途を辿るだけだ!」と大騒ぎをしていた大臣を独房に入れ、意識を取り戻した近衛騎士に厳重な警備を任せた後。
レオナルト達は王城のドローイングルームに場所を移した。(ちなみにリック達と合流した際、ジズの止まり木はリックの頭からレオナルトの頭に移り、以降ずっと乗ったままである)
中央のソファにはヴィクトールを座らせ、レオナルト達は彼の後ろに立つ。そしてオーウェンは皆の前、絨毯の上に膝をつき畏まっていた。
いよいよオーウェンの口から真相が語られる。レオナルトが固唾を飲んだその時、
「へ、へぇ。王子様、ご無事でしたか……」
部屋のカーテンに隠れていた老人が、へこへこと頭を下げながら現れた。王城で騒動が起きている間、部屋を出るに出られず、ずっと身を潜めていたらしい。
その老人の顔を、レオナルトは知っている。
「あっ! 貴殿は雑貨屋の店主の……!?」
「ん? あっ。あの時のお坊ちゃんで……!?」
レオナルトがアスタロス島へ飛ばされた原因、魔法陣をロケットペンダントを購入した雑貨店の店主その人だったからだ。
「王子様、坊ちゃんを見付けられたのですね! よっ、よかったよかった!」
「兄上、なぜ貧困街の者がここに?」
「そなたの行方を探る手掛かりを、と手配書を手配した際、目撃者として名乗り出てくれたのでな。王城に呼び付けた」
「てっ、手配書を!?」
そこまで大事になっていた事に、レオナルトは驚愕した。
「では~……。王子様も坊ちゃんもご無事だった事ですし、あっしはこの辺で退室をぉ~……」
「いや、貴殿もここにいて欲しい」
そろそろと、逃げるように部屋から出ようとした老人を、ヴィクトールは呼び止める。
「ひゃいっ!? どっ、どうしてでございましょうっ! こ、これから大事なお話をするんでしょう? 部外者なあっしがいちゃあ駄目なんじゃ……」
「いいや、貴殿は部外者ではない。寧ろ大事な証言者である。楽にするとよい」
ヴィクトールはステッキの先でソファの一つを指し、座るよう促す。
「いっ、いえいえ! 卑しい身分のあっしが座るなんて……っ!」
「楽にするとよい」
先程と同じように二度命じられた老人は、そわそわと落ち着かない様子でソファに座った。
「では、待たせたな。オーウェンよ、話してくれ」
「はっ、仰せのままに」
ヴィクトールに命じられたオーウェンは一呼吸置き、伏せたままの姿勢で語り始める。
「発端は大臣がクーデターを企てたこと、というのはご存知かと思いますが……」
「そのようだな」
「実行に着手したのは、こちらにも刻まれている『禁術』を目にしたからです」
オーウェンは話しながら、レオナルトが自身の胸元に押し付けてきたロケットペンダントを手に取り、ヴィクトール達へ見せる。
横のソファに座る老人から「あっしが売ったやつ!」という声が小さく上がった。
「やはり禁術か」
「お気付きでしたか」
「貴殿の先程までの様子から、効果についても大方、予想はついておる」
「流石はご聡明なヴィクトール王子。隠しごとはできませんね」
オーウェンは頷き、
「この魔法の効果は一人の人間の魂を封じ込め、抜け殻になった体を操る……『傀儡化』でございます」
ロケットペンダントの蓋の裏に描かれた、魔法陣の効果を告げたのだった。
「……っ!?」
床へ叩き付けられる前にと、レオナルト達を受け止めようと身構えていたグレンは驚愕から左目を見開く。
これは、オーウェンの魔法だ。魔塔の主であり、宮廷魔法師でしか成し得ない、奇跡にも似た魔法。
「宮廷魔法師様! 正気に……っ!」
「あーーーっ!!」
レオナルトが目を輝かした刹那。オーウェンが突如、頭を抱えて叫び声をあげた。
場に緊張が走る。だが次に飛び出したのは――
「やっど喋れる! 息へずなぇ!! 大馬鹿者! おだつなってふとこぎ使って! もう、あったまぐ!」
大声でまくしたてるような叫び声。堰を切ったように紡がれる方言。
ぽかんと、レオナルトは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「きゅ、宮廷魔法師様……?」
それでもレオナルトが戸惑いながら声をかけてみると、オーウェンはハッと我に返ったらしく、
「んんっ!」
と、誤魔化すように咳払いをした。
そしてすぐに表情を引き締め、かつての静かな威厳を取り戻す。
「失礼いたしました、レオナルト王子。今降ろします」
その声には、先ほどまでの荒々しい訛りなど微塵も感じられない。気品さえ漂う声音だった。
次いで宙に浮かぶレオナルトたちを丁寧に地面へ降ろすオーウェン。その所作は丁寧かつ慎重で、乱暴に扱う意図など微塵も感じさせない。
「今までの数々のご無礼、面目次第もございません」
無事にレオナルトと自分、あとついでに大臣を降ろし終えたオーウェンは、石畳の上に両手をつけ、深々と頭を下げた。
所謂、土下座である。
あまりの丁寧さにレオナルトの方がたじたじになってしまう。
「い、いいんだ宮廷魔導師様」
「敬称をつけて頂くなど、恐れ多い。わたくしのことはただの『オーウェン』とお呼びください」
「いや、その……。で、では、オーウェン殿」
「はい。いかなる処罰でも受げる所存で、」
思わず訛りが混じりそうになった瞬間、オーウェンは再び咳払いをして言い直す。
「――受ける所存でございます」
その丁寧な声音とは裏腹に、グレンもレオナルトも、先ほど耳にした荒々しい訛りの残像が脳裏から離れなかった。
「しょっ、処罰など! ええと、私は今までの経緯を聞ければそれでいい! 貴殿の処遇は兄上が定めることだろう」
「了解いたしました。ではヴィクトール王子を交え、ことの顛末を語らせて頂きます。……っと、その前に」
ふとオーウェンが顔をあげたその瞬間、
ダンッ!
固い石畳に何かが叩き付けられる音が反響した。
レオナルトとグレンがオーウェンに気を取られている隙に、密かに一人逃亡しようとした大臣を、オーウェンが重力操作の魔法を使って床に押さえつけたのだ。
「おめには落とし前ばつけで貰うまで逃がさねど」
◇
「私は王国の未来の為に!」「このままでは衰退の一途を辿るだけだ!」と大騒ぎをしていた大臣を独房に入れ、意識を取り戻した近衛騎士に厳重な警備を任せた後。
レオナルト達は王城のドローイングルームに場所を移した。(ちなみにリック達と合流した際、ジズの止まり木はリックの頭からレオナルトの頭に移り、以降ずっと乗ったままである)
中央のソファにはヴィクトールを座らせ、レオナルト達は彼の後ろに立つ。そしてオーウェンは皆の前、絨毯の上に膝をつき畏まっていた。
いよいよオーウェンの口から真相が語られる。レオナルトが固唾を飲んだその時、
「へ、へぇ。王子様、ご無事でしたか……」
部屋のカーテンに隠れていた老人が、へこへこと頭を下げながら現れた。王城で騒動が起きている間、部屋を出るに出られず、ずっと身を潜めていたらしい。
その老人の顔を、レオナルトは知っている。
「あっ! 貴殿は雑貨屋の店主の……!?」
「ん? あっ。あの時のお坊ちゃんで……!?」
レオナルトがアスタロス島へ飛ばされた原因、魔法陣をロケットペンダントを購入した雑貨店の店主その人だったからだ。
「王子様、坊ちゃんを見付けられたのですね! よっ、よかったよかった!」
「兄上、なぜ貧困街の者がここに?」
「そなたの行方を探る手掛かりを、と手配書を手配した際、目撃者として名乗り出てくれたのでな。王城に呼び付けた」
「てっ、手配書を!?」
そこまで大事になっていた事に、レオナルトは驚愕した。
「では~……。王子様も坊ちゃんもご無事だった事ですし、あっしはこの辺で退室をぉ~……」
「いや、貴殿もここにいて欲しい」
そろそろと、逃げるように部屋から出ようとした老人を、ヴィクトールは呼び止める。
「ひゃいっ!? どっ、どうしてでございましょうっ! こ、これから大事なお話をするんでしょう? 部外者なあっしがいちゃあ駄目なんじゃ……」
「いいや、貴殿は部外者ではない。寧ろ大事な証言者である。楽にするとよい」
ヴィクトールはステッキの先でソファの一つを指し、座るよう促す。
「いっ、いえいえ! 卑しい身分のあっしが座るなんて……っ!」
「楽にするとよい」
先程と同じように二度命じられた老人は、そわそわと落ち着かない様子でソファに座った。
「では、待たせたな。オーウェンよ、話してくれ」
「はっ、仰せのままに」
ヴィクトールに命じられたオーウェンは一呼吸置き、伏せたままの姿勢で語り始める。
「発端は大臣がクーデターを企てたこと、というのはご存知かと思いますが……」
「そのようだな」
「実行に着手したのは、こちらにも刻まれている『禁術』を目にしたからです」
オーウェンは話しながら、レオナルトが自身の胸元に押し付けてきたロケットペンダントを手に取り、ヴィクトール達へ見せる。
横のソファに座る老人から「あっしが売ったやつ!」という声が小さく上がった。
「やはり禁術か」
「お気付きでしたか」
「貴殿の先程までの様子から、効果についても大方、予想はついておる」
「流石はご聡明なヴィクトール王子。隠しごとはできませんね」
オーウェンは頷き、
「この魔法の効果は一人の人間の魂を封じ込め、抜け殻になった体を操る……『傀儡化』でございます」
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