34 / 35
第四章 王城が大変なことになっているんだが?
第三十四話 オーウェンの禁術
しおりを挟む
「つまり」
オーウェンの話を一通り聞いたヴィクトールは、自分から目を逸らし冷や汗をかいている彼を冷ややかな目で見下ろす。
「貴殿は古代魔法を元にして作った『傀儡化』の禁術を大臣に盗用され? 製造者本人である貴殿の魂がペンダントに封じられたと?」
「さ、左様で……」
ドンッ!
ステッキが絨毯越しに床に叩き付けられる。
「愚か者! 精神操作が禁術に指定されているのだ、魂を操る魔法も禁忌と容易にわかるだろう!?」
「た、た、正しく古代魔法を読み解けたかっ! 証明をしたくなりまして……っ!」
「証明したいからと着手をするでないっ! これだから研究者肌の人間は……っ!」
「禁術になってしまうのは自覚しておりました! なので完成を見届けた後、わたくしは使用した魔法資料を自ら焚書し、痕跡を残すことはしませんでした!」
「痕跡を残していないのならば、なぜ大臣が貴殿を封じ込めることができたのだ!?」
オーウェンはその問いに言葉を詰まらせ、目を泳がせながらも答える。
「おっ、恐らくわたくしの研究室に忍び込み、資料を目にしたのかと……。大臣は魔塔のスペアキーを所持しておりますので……」
オーウェンの私室は王城の一室に用意されているのだが、彼は大臣からの出動命令が来ない間は魔塔に入り浸り、魔塔の所長室を自室とし帰ることがないのだという。
魔塔は関係者以外、何人たりとも入ることができない規則がある。魔法研究の漏洩に厳しく、機密性を高くする為だ。しかしオーウェンの直属の上司の立場である大臣は関係者として入ることができる。魔法資料を閲覧することも可能。
つまりオーウェンは魔塔自体の機密性に胡座をかき、杜撰な管理をしていたことになる。
「貴様それでも魔塔の主か……?」
「ごめんなさい! 昔がら片付けるのは苦手で……っ!」
鋭い目で見下ろしてくる、ヴィクトールの圧倒的な威圧に押し潰されそうになり、オーウェンは思わず訛りを出しながら更に深く頭を垂れた。
「あ、あの~。オーウェン殿?」
助け舟という訳ではないが、今にも雷を落としそうなヴィクトールがクールダウンをする時間を作る為、レオナルトがおずおずといった様子で話に入る。
「そのオーウェン殿の魂を込めることに成功した、という大事なペンダントが、どうして闇市の雑貨店に……?」
レオナルトがロケットペンダントをオーウェンに触れさせたら、オーウェンは正気に戻った。
そのことから、魂を本人に接触させるのが魔法を解くトリガーなのだとわかる。ならばロケットペンダントを触れさせないよう、金庫にでも仕舞えばレオナルトの手に渡ることもなく、大臣のクーデターは成功していたかもしれない。しかし大臣はそうしなかった。レオナルトはそれが引っかかっていたのだ。
「あ、あぁ。それは魂……今回はペンダントですね。それが体の近くにあると、触れることがなくともその内、戻ってしまうのですよ。また、ペンダントを壊した場合も、魔法陣に傷がつくので魂が解放され戻ってきます」
大臣の住居がある貴族街や王城周辺にロケットペンダントを置けば、そのうちオーウェンの魂が戻る。だからと大臣はその立場から、王都から気軽に出ることはできない。精々、視察という体で貧困街へ出かける程度だ。
そこで雑貨店に目を付け、クーデターが終わるまで保管させようと、まどろっこしい手を打った。間違っても貴族街に流れないよう、非売品の装飾とするよう頼んだのだが……物見遊山でやってきたレオナルトに目を付けられてしまったのが、大臣の運の尽きと言えよう。
「ペンダントが玉座の間に持ってこられた時は、大いに焦ったでしょうね。なので更に遠ざけようと、アスタロス島までペンダントごとレオナルト王子を転送したのです」
「マジでペンダントで追放されたのか……」
話を聞いていたグレンがぼそりと呟く。
「やっと信じてくれたかグレンっ!」
「あぁ。王子ってのはまだ飲み込めてねぇけどな」
「んえっ!? それこそペンダント以上に信じて欲しいのだが!?」
ともあれ、オーウェンという最凶の魔法使いを手にした大臣は、今まで空想に留めていたクーデターを実行へ移し、今日の騒動が起きたという訳である。
ヴィクトールは両腕を組み、深いため息を吐いた。
「王城の被害を確認した後は、魔塔の精査をせねばならぬな……。オーウェンの処罰はその後、考える」
「あ、兄上。オーウェン殿は被害者ですし、どうかご温情を……」
「レオナルトよ、そもそもこやつが禁術に着手したのが原因だぞ? お前がアスタロス島へ転送されてしまったのも……」
「そっ、それでも! 彼の研究心が王国にもたらした貢献は大きいのですからっ!」
必死に訴えるレオナルトの目には、熱意がこもっていた。
魔法を愛し、魔塔入所を夢として掲げるレオナルトにとって、オーウェンは憧れの対象。禁術を作れてしまうのも、卓越した才能があってこそ。
「たった一度の誤りで失脚させてしまうのは、王国の損失ではないでしょうか!?」
「一度……」
レオナルトのその言葉を聞いたヴィクトールは、ちらりとオーウェンへ視線を向けた。
するとオーウェンがサッと顔を逸らす。この反応からして、禁術に着手したのは一度や二度でないことが察せられた。
「……彼がどれほど有用な存在であっても、処罰は免れん」
「兄上っ!」
「だが、だ。処罰をどうするかは父上……国王陛下が決めることだ。オーウェンは古代魔法の効果を知る研究をした。その研究を大臣に盗用された、という旨は、私から伝えておこう」
嘘ではない。禁術にまで昇華した、と言っていないだけで。
これだけで大分、処罰が軽減される。レオナルトはパァッと明るい表情を浮かべると、
「ありがとうございます、兄上!」
頭を下げ、感謝の意を示した。
オーウェンの話を一通り聞いたヴィクトールは、自分から目を逸らし冷や汗をかいている彼を冷ややかな目で見下ろす。
「貴殿は古代魔法を元にして作った『傀儡化』の禁術を大臣に盗用され? 製造者本人である貴殿の魂がペンダントに封じられたと?」
「さ、左様で……」
ドンッ!
ステッキが絨毯越しに床に叩き付けられる。
「愚か者! 精神操作が禁術に指定されているのだ、魂を操る魔法も禁忌と容易にわかるだろう!?」
「た、た、正しく古代魔法を読み解けたかっ! 証明をしたくなりまして……っ!」
「証明したいからと着手をするでないっ! これだから研究者肌の人間は……っ!」
「禁術になってしまうのは自覚しておりました! なので完成を見届けた後、わたくしは使用した魔法資料を自ら焚書し、痕跡を残すことはしませんでした!」
「痕跡を残していないのならば、なぜ大臣が貴殿を封じ込めることができたのだ!?」
オーウェンはその問いに言葉を詰まらせ、目を泳がせながらも答える。
「おっ、恐らくわたくしの研究室に忍び込み、資料を目にしたのかと……。大臣は魔塔のスペアキーを所持しておりますので……」
オーウェンの私室は王城の一室に用意されているのだが、彼は大臣からの出動命令が来ない間は魔塔に入り浸り、魔塔の所長室を自室とし帰ることがないのだという。
魔塔は関係者以外、何人たりとも入ることができない規則がある。魔法研究の漏洩に厳しく、機密性を高くする為だ。しかしオーウェンの直属の上司の立場である大臣は関係者として入ることができる。魔法資料を閲覧することも可能。
つまりオーウェンは魔塔自体の機密性に胡座をかき、杜撰な管理をしていたことになる。
「貴様それでも魔塔の主か……?」
「ごめんなさい! 昔がら片付けるのは苦手で……っ!」
鋭い目で見下ろしてくる、ヴィクトールの圧倒的な威圧に押し潰されそうになり、オーウェンは思わず訛りを出しながら更に深く頭を垂れた。
「あ、あの~。オーウェン殿?」
助け舟という訳ではないが、今にも雷を落としそうなヴィクトールがクールダウンをする時間を作る為、レオナルトがおずおずといった様子で話に入る。
「そのオーウェン殿の魂を込めることに成功した、という大事なペンダントが、どうして闇市の雑貨店に……?」
レオナルトがロケットペンダントをオーウェンに触れさせたら、オーウェンは正気に戻った。
そのことから、魂を本人に接触させるのが魔法を解くトリガーなのだとわかる。ならばロケットペンダントを触れさせないよう、金庫にでも仕舞えばレオナルトの手に渡ることもなく、大臣のクーデターは成功していたかもしれない。しかし大臣はそうしなかった。レオナルトはそれが引っかかっていたのだ。
「あ、あぁ。それは魂……今回はペンダントですね。それが体の近くにあると、触れることがなくともその内、戻ってしまうのですよ。また、ペンダントを壊した場合も、魔法陣に傷がつくので魂が解放され戻ってきます」
大臣の住居がある貴族街や王城周辺にロケットペンダントを置けば、そのうちオーウェンの魂が戻る。だからと大臣はその立場から、王都から気軽に出ることはできない。精々、視察という体で貧困街へ出かける程度だ。
そこで雑貨店に目を付け、クーデターが終わるまで保管させようと、まどろっこしい手を打った。間違っても貴族街に流れないよう、非売品の装飾とするよう頼んだのだが……物見遊山でやってきたレオナルトに目を付けられてしまったのが、大臣の運の尽きと言えよう。
「ペンダントが玉座の間に持ってこられた時は、大いに焦ったでしょうね。なので更に遠ざけようと、アスタロス島までペンダントごとレオナルト王子を転送したのです」
「マジでペンダントで追放されたのか……」
話を聞いていたグレンがぼそりと呟く。
「やっと信じてくれたかグレンっ!」
「あぁ。王子ってのはまだ飲み込めてねぇけどな」
「んえっ!? それこそペンダント以上に信じて欲しいのだが!?」
ともあれ、オーウェンという最凶の魔法使いを手にした大臣は、今まで空想に留めていたクーデターを実行へ移し、今日の騒動が起きたという訳である。
ヴィクトールは両腕を組み、深いため息を吐いた。
「王城の被害を確認した後は、魔塔の精査をせねばならぬな……。オーウェンの処罰はその後、考える」
「あ、兄上。オーウェン殿は被害者ですし、どうかご温情を……」
「レオナルトよ、そもそもこやつが禁術に着手したのが原因だぞ? お前がアスタロス島へ転送されてしまったのも……」
「そっ、それでも! 彼の研究心が王国にもたらした貢献は大きいのですからっ!」
必死に訴えるレオナルトの目には、熱意がこもっていた。
魔法を愛し、魔塔入所を夢として掲げるレオナルトにとって、オーウェンは憧れの対象。禁術を作れてしまうのも、卓越した才能があってこそ。
「たった一度の誤りで失脚させてしまうのは、王国の損失ではないでしょうか!?」
「一度……」
レオナルトのその言葉を聞いたヴィクトールは、ちらりとオーウェンへ視線を向けた。
するとオーウェンがサッと顔を逸らす。この反応からして、禁術に着手したのは一度や二度でないことが察せられた。
「……彼がどれほど有用な存在であっても、処罰は免れん」
「兄上っ!」
「だが、だ。処罰をどうするかは父上……国王陛下が決めることだ。オーウェンは古代魔法の効果を知る研究をした。その研究を大臣に盗用された、という旨は、私から伝えておこう」
嘘ではない。禁術にまで昇華した、と言っていないだけで。
これだけで大分、処罰が軽減される。レオナルトはパァッと明るい表情を浮かべると、
「ありがとうございます、兄上!」
頭を下げ、感謝の意を示した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~
あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。
彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。
剣も魔法も得意ではない主人公は、
最強のメイドたちに守られながら生きている。
だが彼自身は、
「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。
自分にできることは何か。
この世界で、どう生きていくべきか。
最強の力を持つ者たちと、
何者でもない一人の青年。
その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。
本作は、
圧倒的な安心感のある日常パートと、
必要なときには本格的に描かれる戦い、
そして「守られる側の成長」を軸にした
完結済み長編ファンタジーです。
シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。
最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる