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第二十四章 機能家族
第505話 ホームステイ
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◆
「ジョーさん! 来たよっ!!」
「意味がわからないガ?」
中国のとある農村。
普段は地主と言った富裕層が空陸両用車の離着陸に使う空き地に、プライベートジェット機が停まっている。
白銀のそれをバックに、腰に手を当ててえへんと胸を張っているのは、ダークブロンドの髪を跳ねさせた幼い子供、『テオ』であった。
彼は農村へ降り立つと同時に拡声器を握り、「ジョーさん! ここにいるよね、ジョーさん! オレだよ、テオだよ! 会いに来たよ!!」と延々と叫び続け、騒音問題を巻き起こした。
このままでは警察沙汰になり、テオが呼ぶ自分も巻き込まれると判断したジョーさんこと徐福は、渋々といったていでテオの前まで来たのだった。
「ジョーさん! リアルだとオレよりちょっとお兄ちゃんなんだね、何歳っ!?」
「7つだガ……。お前はオンラインの姿そのままなんだナ? いや、そんな事はどうでもいいヨ。お前、どうやってここに来たヨ。何しに来たヨ」
「何って、ジョーさんとまた遊びたくて来たんだ!」
テオは興奮した様子で、自分よりも頭半分ほど高い徐福の手を握る。
「ジョーさんが教えてくれた情報で住んでるところの目星をつけてね~、飛んできちゃった! 中国語も勉強したんだよ! 【你好、ジョーさん! 今日はいい天気だね! オレ、テニスとかしたいなぁ!】」
「嫌味なぐらい流暢だナ……」
頬を引き攣らせ、半歩後ずさる徐福。テオは気付いてないが、完全に引いている。
「アタシは仕事があル。遊びは諦めてさっさと帰るんだナ」
「7歳で働いちゃ駄目だよ!? 児童労働違反~っ!」
「農家には関係ないヨ」
握られていた手を振り払い、徐福はテオに背を向けた。
その素っ気無い態度に、テオは頬を風船のように膨らませ不機嫌になる。
「やだやだ! オレはジョーさんと遊ぶの!」
「そう言う所は子供だナ……」
「ねぇねぇ、ジョーさんは何で英語話せるの? 海外に興味あるのっ!?」
「……たまに来る観光客を相手にして金をせびる為ヨ。村を出る為とかじゃなイ」
貧しさから自動人形に頼らない昔ながらの暮らしが残る、牧歌的な景色を目当てに農村を訪れる外国人観光客はそこそこの数存在する。
徐福はそんな人達を相手に通訳や写真撮影を買って出て、小遣い稼ぎをしているのだ。その為に独学で英語を学び、カタコトながら喋る事ができる。
「水やりに雑草取リ。やる事は山ほどあル。お前の相手をしている暇ハ……」
「海外に興味あるなら、オレの家にホームステイしないっ!?」
畑の畦道を歩く徐福に付き纏い、周囲をぴょんぴょんと兎のように跳ね回り、誘いを続けるテオ。
しつこいうえに頑固である。徐福はげんなりと肩を落とした。
「ホームステイ! ホームステイしよう、ジョーさん! 移動費もオレが生活費も全部援助するからっ! あっ、いっそオレの家庭教師やらない? お金払うよっ!」
「お前、何でそんな必死なんダ……」
「ジョーさんと友達になりたいからっ!」
テオが必死に徐福との縁を繋げようとしているのは、ただ純粋に友達になりたいからに他ならない。
テオにはいないのだ。気の置けない友達が。こどもパークでひとりぼっちになっていたように、思うがまま行動すると皆んな離れていってしまう。
誰もテオの知性について行けないからだ。テオから合わせる事はできる。しかしそれは酷く神経を使ううえに、遊んでいると言うよりも子守りをしているような心境に陥ってしまう。
対等な友達として、時間を忘れて遊べたのは、徐福しかいないのだ。
「……ホームステイが駄目なら、オレから会いに行くからね! お土産持って何度だって! 時間がある時に遊んで……。ううん、せめてお喋りしたいっ! ねぇジョーさん、いいでしょっ!?」
「……」
徐福は横目でテオの身なりを見やる。
汚れ一つない、新品のシャツにズボン。布地も上質で艶がある。きっとブランド品だろう。履いているスニーカーも真っ白で、靴底の赤が眩しく、高く足を持ち上げた際に靴裏のロゴが覗く。
売ればきっと、徐福の食事が一ヶ月分賄える額になると予想できる代物。
反対に徐福の服は洗ってもなお落ちない汚れがついていて、アイロンなどない為にシワだらけだ。そうでなくともサイズが合っていない。親戚のお古だから当たり前なのだが。肩がずれ落ちている、ズボンは腰紐で固定し、余っている裾は折り曲げて縫い止めている。履いている靴に至っては靴底がすり減り、穴が空く直前。水場を歩けば染み込んでくる。
身なり一つ見ても、住む世界が違う。
徐福は大きく溜め息を吐いた。
「慈善活動は余所でしナ。あからさまに富裕層ってわかる奴は有り金全部、毟り取られるヨ」
「ジョーさん、心配してくれるの?」
「違ウ。そんな奴と知り合いだとバレたら、アタシの仕事が増えル。やれ、ゆすってこいやら、何癖つけてせびってこいやらナ。そうやって集金してもどうせ没収されるヨ。それが嫌なん、」
「徐福!」
背後から大人の声が投げかけられ、徐福はびくりと肩を揺らした。
振り返ってみると、畑の向こう側で。唾を吐きながら早口で母国語を捲し立てる土に塗れた男性がいる。
徐福の父だ。彼の斜め後ろには、農具を持った母もいる。2人とも険しい顔をしていた。畑仕事をサボって雑談をしている事に怒っているのか、付け入れられそうなボンボンを無碍にしているのに苛立っているのか。
どちらにしろ、良い感情は抱いていないだろう。
「チッ、もう目をつけて来たカ……」
「ねぇ、ジョーさん」
きゅっと、テオは徐福のよれた服の裾を掴み、顔を覗き込む。
「あの人達、ジョーさんのお父さんとお母さんだよね。オレ、友達だって話すよ、ちゃんと。ねぇ、いいでしょ? ジョーさん」
「そんな事したラ、アタシの仕事ガ……」
「ジョーさんに迷惑かけないようにするからっ! オレちょっと行ってくるっ!」
「あっ、オイ!」
徐福の制止など聞かず、テオは徐福の両親の元へ駆け出した。手を大きく振り、満面の笑みを浮かべ、「你好!」などと全力で愛想を振り撒いている。
そのまま両親の元まで駆け寄ったテオは、何やら身振り手振りを交えて話し込んだ後――
「ジョーさ~んっ! ホームステイしていいってさ~っ!」
徐福の方に顔を向け、大きな声で突拍子のない事を言ったのだった。
「ジョーさん! 来たよっ!!」
「意味がわからないガ?」
中国のとある農村。
普段は地主と言った富裕層が空陸両用車の離着陸に使う空き地に、プライベートジェット機が停まっている。
白銀のそれをバックに、腰に手を当ててえへんと胸を張っているのは、ダークブロンドの髪を跳ねさせた幼い子供、『テオ』であった。
彼は農村へ降り立つと同時に拡声器を握り、「ジョーさん! ここにいるよね、ジョーさん! オレだよ、テオだよ! 会いに来たよ!!」と延々と叫び続け、騒音問題を巻き起こした。
このままでは警察沙汰になり、テオが呼ぶ自分も巻き込まれると判断したジョーさんこと徐福は、渋々といったていでテオの前まで来たのだった。
「ジョーさん! リアルだとオレよりちょっとお兄ちゃんなんだね、何歳っ!?」
「7つだガ……。お前はオンラインの姿そのままなんだナ? いや、そんな事はどうでもいいヨ。お前、どうやってここに来たヨ。何しに来たヨ」
「何って、ジョーさんとまた遊びたくて来たんだ!」
テオは興奮した様子で、自分よりも頭半分ほど高い徐福の手を握る。
「ジョーさんが教えてくれた情報で住んでるところの目星をつけてね~、飛んできちゃった! 中国語も勉強したんだよ! 【你好、ジョーさん! 今日はいい天気だね! オレ、テニスとかしたいなぁ!】」
「嫌味なぐらい流暢だナ……」
頬を引き攣らせ、半歩後ずさる徐福。テオは気付いてないが、完全に引いている。
「アタシは仕事があル。遊びは諦めてさっさと帰るんだナ」
「7歳で働いちゃ駄目だよ!? 児童労働違反~っ!」
「農家には関係ないヨ」
握られていた手を振り払い、徐福はテオに背を向けた。
その素っ気無い態度に、テオは頬を風船のように膨らませ不機嫌になる。
「やだやだ! オレはジョーさんと遊ぶの!」
「そう言う所は子供だナ……」
「ねぇねぇ、ジョーさんは何で英語話せるの? 海外に興味あるのっ!?」
「……たまに来る観光客を相手にして金をせびる為ヨ。村を出る為とかじゃなイ」
貧しさから自動人形に頼らない昔ながらの暮らしが残る、牧歌的な景色を目当てに農村を訪れる外国人観光客はそこそこの数存在する。
徐福はそんな人達を相手に通訳や写真撮影を買って出て、小遣い稼ぎをしているのだ。その為に独学で英語を学び、カタコトながら喋る事ができる。
「水やりに雑草取リ。やる事は山ほどあル。お前の相手をしている暇ハ……」
「海外に興味あるなら、オレの家にホームステイしないっ!?」
畑の畦道を歩く徐福に付き纏い、周囲をぴょんぴょんと兎のように跳ね回り、誘いを続けるテオ。
しつこいうえに頑固である。徐福はげんなりと肩を落とした。
「ホームステイ! ホームステイしよう、ジョーさん! 移動費もオレが生活費も全部援助するからっ! あっ、いっそオレの家庭教師やらない? お金払うよっ!」
「お前、何でそんな必死なんダ……」
「ジョーさんと友達になりたいからっ!」
テオが必死に徐福との縁を繋げようとしているのは、ただ純粋に友達になりたいからに他ならない。
テオにはいないのだ。気の置けない友達が。こどもパークでひとりぼっちになっていたように、思うがまま行動すると皆んな離れていってしまう。
誰もテオの知性について行けないからだ。テオから合わせる事はできる。しかしそれは酷く神経を使ううえに、遊んでいると言うよりも子守りをしているような心境に陥ってしまう。
対等な友達として、時間を忘れて遊べたのは、徐福しかいないのだ。
「……ホームステイが駄目なら、オレから会いに行くからね! お土産持って何度だって! 時間がある時に遊んで……。ううん、せめてお喋りしたいっ! ねぇジョーさん、いいでしょっ!?」
「……」
徐福は横目でテオの身なりを見やる。
汚れ一つない、新品のシャツにズボン。布地も上質で艶がある。きっとブランド品だろう。履いているスニーカーも真っ白で、靴底の赤が眩しく、高く足を持ち上げた際に靴裏のロゴが覗く。
売ればきっと、徐福の食事が一ヶ月分賄える額になると予想できる代物。
反対に徐福の服は洗ってもなお落ちない汚れがついていて、アイロンなどない為にシワだらけだ。そうでなくともサイズが合っていない。親戚のお古だから当たり前なのだが。肩がずれ落ちている、ズボンは腰紐で固定し、余っている裾は折り曲げて縫い止めている。履いている靴に至っては靴底がすり減り、穴が空く直前。水場を歩けば染み込んでくる。
身なり一つ見ても、住む世界が違う。
徐福は大きく溜め息を吐いた。
「慈善活動は余所でしナ。あからさまに富裕層ってわかる奴は有り金全部、毟り取られるヨ」
「ジョーさん、心配してくれるの?」
「違ウ。そんな奴と知り合いだとバレたら、アタシの仕事が増えル。やれ、ゆすってこいやら、何癖つけてせびってこいやらナ。そうやって集金してもどうせ没収されるヨ。それが嫌なん、」
「徐福!」
背後から大人の声が投げかけられ、徐福はびくりと肩を揺らした。
振り返ってみると、畑の向こう側で。唾を吐きながら早口で母国語を捲し立てる土に塗れた男性がいる。
徐福の父だ。彼の斜め後ろには、農具を持った母もいる。2人とも険しい顔をしていた。畑仕事をサボって雑談をしている事に怒っているのか、付け入れられそうなボンボンを無碍にしているのに苛立っているのか。
どちらにしろ、良い感情は抱いていないだろう。
「チッ、もう目をつけて来たカ……」
「ねぇ、ジョーさん」
きゅっと、テオは徐福のよれた服の裾を掴み、顔を覗き込む。
「あの人達、ジョーさんのお父さんとお母さんだよね。オレ、友達だって話すよ、ちゃんと。ねぇ、いいでしょ? ジョーさん」
「そんな事したラ、アタシの仕事ガ……」
「ジョーさんに迷惑かけないようにするからっ! オレちょっと行ってくるっ!」
「あっ、オイ!」
徐福の制止など聞かず、テオは徐福の両親の元へ駆け出した。手を大きく振り、満面の笑みを浮かべ、「你好!」などと全力で愛想を振り撒いている。
そのまま両親の元まで駆け寄ったテオは、何やら身振り手振りを交えて話し込んだ後――
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