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第二十四章 機能家族
第516話 秘密の招待状
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ウミヘビを動けるようにする。
知性があり神経もあるのならば、【器】を用意し移植すれば叶うかもしれない。そもそもウミヘビの卵を発見した場所で見た、青い蛇。あれは成体かそれに近しいものかもしれない。
どちらにせよ、生態を深く知らなければ始まらない。
テオと徐福は再び、パラス国にある洞窟まで足を運んだ。しかし奇妙な事に、以前見た泉は影も形もなかった。同じように青い蛇を目撃する事もなく、その正体は謎のまま。
潮の満ち引きのように、泉ができる時とできない時があるのかと、時間帯や季節を変えて赴いても結果は同じ。監視カメラを設置して四六時中様子を窺っても、泉を見付ける事は終ぞなかった。
代わりに、徐福が、洞窟内部を浮遊するクラゲを見付けた。
西暦2285年。テオ13歳。徐福15歳。
後に『アイギス』と呼ばれるようになる、寄生生命体の発見である。
そして同年。
偶然か、必然か。テオ達の暮らすスイスの別荘、そこにあるポストに、送り主の書かれていない手紙が入れられていた。
ただし手紙を手配した相手はわかる。
何せ封筒には、国連の紋章が大きく印刷されていたのだから。
封筒の中には便箋と、カードが一枚ずつ。
カードの出だしは、こうだ。
――ジョセフさまへ。
これは秘密の招待状です。決して口外しないように――
「ジョセフって?」
徐福が手に持つカードを覗き込みながら、テオが言う。
「アタシの架空名義だ。パラケルススでは都合がつかない事があってな、別口で作った」
答えつつ、徐福はカードをテーブルの上に放ると、本題が書かれているだろう便箋を封筒から抜き取る。
「お前も見るか?」
「えっ、いいの?」
そして二つ折りにされていたソレをテーブルの上に広げ、徐福とテオは綴られている文字に目を通した。
内容は、暗号化されていた。端から端まで数字とアルファベットがみっしり書き込まれていて、ざっと見ただけではどんな法則で何が書かれているのか読み取れない。
とは言え、簡素な暗号化だ。人工知能に演算して貰う必要もない程に。
少なくとも、2人にとっては。
「……《ウロボロス》」
導き出されたワードは、ウロボロスという名の国連直轄秘密組織。
「不老不死実現の為の研究所、か……」
そこで徐福は椅子に深く腰掛け、背凭れに体重を預けた。
不老不死など、フィクションの中にしかない代物。荒唐無稽。どれだけ大金と時間と頭脳を注ぎ込もうとも、辿り着ける気がしない。
「どうするの? ジョーさん。断る?」
「……いや、入ろうと思う」
「えーっ!」
その上で、徐福は入所を決めた。
一つは《ウロボロス》に所属することで受けられる、豊富な支援が魅力的だつたから。一つは発見した浮遊型クラゲを追究するのに都合が良さそうだったから。
そして何よりも、徐福は不老不死に――強い関心を抱いていた。
テオの両親含め多くの人間が惨殺された、あのクリスマスの夜。
絢爛豪華な廊下に転がる死体の数々を前に、血を踏まないよう注意深く見ながら歩いた、あの夜。
自分より遥かに大きな身体を持つ大人達が呆気なく命を散らしていく様を目の当たりにして、何も思わずに過ごせるほど、徐福の精神は成熟していなかった。
寧ろ酷く、死を忌避するようになっていた。
不老不死。もしも、もしも本当に手に入れる事ができるのならば――
悲劇も恐怖も別離も、震える手で徐福の手をぎゅっと握って、泣きそうな表情を浮かべていた、テオの苦痛も。
もう二度と、感じさせないで、済むのではないか? と、徐福の中にぼんやりと、飴細工よりも脆そうな空想が思い浮かんでしまって。
「アタシが見付けた未確認生物は、アタシが徹底的に調べたいからね。お前は邪魔するんじゃないよ、テオ」
「むぅ~。オレもクラゲ調べてみたかったのに~」
「お前にはウミヘビという研究対象がいるだろうに。あ、それとこの機にアタシこの家から出るよう」
「え? ……えっ!?」
秘密の招待状が来たこと以上の衝撃に、テオは思わずバンッと力強くテーブルを叩いてしまう。
「なっ、何で何で!?」
「国連が一方的に手紙を送ってきたんだ。別荘にいると、監視されているようで気味が悪いね。それにアタシももう15歳。自立を考えていた頃よ」
「ジョーさんまだ成人してないじゃん! 出て行っちゃやだ~っ!」
「我が儘言うんじゃないよ」
どの道、《ウロボロス》へ入所するには住み込みが基本らしく、テオの反対は丸っと無視し、徐福は家を出て行ってしまった。
《ウロボロス》の研究員は外部との連絡を禁止されており、休日の行動も厳しく制限されている。全ては徹底的に情報を機密にする為だ。
自然と、徐福はテオと疎遠に……ならなかった。
休日のプライベートを過ごす用に借りたアパートを、テオはどうやってか突き詰め、徐福がいようがいまいが関係なく手紙を送り続けてきたからだ。内容は日記に近く、やれ今日はウミヘビとサンドイッチを食べただとか、やれミシェルと志望校が被っただとか、毒にも薬にもならない報告ばかり。
だが手紙の端っこには、「返事くれなきゃウロボロスにも手紙送る」などという脅し文句が何の気なしに書かれていて、テオは徐福の所属先を把握している事を突き付けてきた。
よって鬱陶しいと思いながらも、徐福は時たま返事を返す羽目になってしまった。
とは言え手紙に書けるような話題など持っていない徐福は、浮遊型クラゲ……『アイギス』の研究経過を中心に、ウロボロスの日々を断片的に綴った。
それが良かったのか、悪かったのか。
◇
西暦2287年。テオ15歳。徐福17歳。
「ジョーさん! 来たよっ!!」
「意味がわからないが?」
テオは徐福の所属するウロボロス研究所へ、正面からやって来た。
彼の右手には、例のカード。
――パラケルススさまへ。
これは秘密の招待状です。決して口外しないように――
国連から送られてくる、招待状。
名義自体は偽名なものの、それは正規ルートで入って来た証だ。追い返す権限など徐福にはなく、ただただ呆れ返るしかなかった。
「いつの間にか、オレの方が背ぇ追い越しちゃったしね~」
「うるさいよ」
暫く会わない間に、テオは徐福の背丈を超えていた。声変わりも終え、顔付きも随分と大人びた。
白人は成長が早いなとぼやきながら、徐福は腕を組んでテオに言う。
「テオお前、ここがどんな施設か知っているだろうに」
「うん。知っているよ」
テオは薄暗い研究室を見回して、一つ頷く。
研究室には部屋の端から端まで、等間隔に並ぶ無数の培養槽がある。中には生きた人間が入れられていて、投薬実験は勿論、電気刺激実験や、身体の部位を動物の部位と入れ替えたり、化学薬品に塗れた人工人体を移植したりと、ありとあらゆる人体実験が施されていた。
人間としての原型を留めていない者も、多くいる。
徐福自身、入所早々アイギスを寄生させ、自分自身を実験体にしている最中だ。
聡いテオならば、手紙のやり取りで研究所の実態は伝わっていたはず。
にも関わらずここに来たと言う事は、犠牲を厭わない意思で来たと言う事になる。
「正直に言うとね、ジョーさん。オレ、研究に行き詰まっていたんだ。博士号取ってみたり、医師免許を取ってみたりしたんだけど、駄目だった。でもここなら……。不老不死っていう、頑丈な【器】を探究しているここなら、ウミヘビの身体を造れるかもしれない」
全ては家族の為に。
「オレ頑張るよ、ジョーさん」
「……勝手にしろ」
知性があり神経もあるのならば、【器】を用意し移植すれば叶うかもしれない。そもそもウミヘビの卵を発見した場所で見た、青い蛇。あれは成体かそれに近しいものかもしれない。
どちらにせよ、生態を深く知らなければ始まらない。
テオと徐福は再び、パラス国にある洞窟まで足を運んだ。しかし奇妙な事に、以前見た泉は影も形もなかった。同じように青い蛇を目撃する事もなく、その正体は謎のまま。
潮の満ち引きのように、泉ができる時とできない時があるのかと、時間帯や季節を変えて赴いても結果は同じ。監視カメラを設置して四六時中様子を窺っても、泉を見付ける事は終ぞなかった。
代わりに、徐福が、洞窟内部を浮遊するクラゲを見付けた。
西暦2285年。テオ13歳。徐福15歳。
後に『アイギス』と呼ばれるようになる、寄生生命体の発見である。
そして同年。
偶然か、必然か。テオ達の暮らすスイスの別荘、そこにあるポストに、送り主の書かれていない手紙が入れられていた。
ただし手紙を手配した相手はわかる。
何せ封筒には、国連の紋章が大きく印刷されていたのだから。
封筒の中には便箋と、カードが一枚ずつ。
カードの出だしは、こうだ。
――ジョセフさまへ。
これは秘密の招待状です。決して口外しないように――
「ジョセフって?」
徐福が手に持つカードを覗き込みながら、テオが言う。
「アタシの架空名義だ。パラケルススでは都合がつかない事があってな、別口で作った」
答えつつ、徐福はカードをテーブルの上に放ると、本題が書かれているだろう便箋を封筒から抜き取る。
「お前も見るか?」
「えっ、いいの?」
そして二つ折りにされていたソレをテーブルの上に広げ、徐福とテオは綴られている文字に目を通した。
内容は、暗号化されていた。端から端まで数字とアルファベットがみっしり書き込まれていて、ざっと見ただけではどんな法則で何が書かれているのか読み取れない。
とは言え、簡素な暗号化だ。人工知能に演算して貰う必要もない程に。
少なくとも、2人にとっては。
「……《ウロボロス》」
導き出されたワードは、ウロボロスという名の国連直轄秘密組織。
「不老不死実現の為の研究所、か……」
そこで徐福は椅子に深く腰掛け、背凭れに体重を預けた。
不老不死など、フィクションの中にしかない代物。荒唐無稽。どれだけ大金と時間と頭脳を注ぎ込もうとも、辿り着ける気がしない。
「どうするの? ジョーさん。断る?」
「……いや、入ろうと思う」
「えーっ!」
その上で、徐福は入所を決めた。
一つは《ウロボロス》に所属することで受けられる、豊富な支援が魅力的だつたから。一つは発見した浮遊型クラゲを追究するのに都合が良さそうだったから。
そして何よりも、徐福は不老不死に――強い関心を抱いていた。
テオの両親含め多くの人間が惨殺された、あのクリスマスの夜。
絢爛豪華な廊下に転がる死体の数々を前に、血を踏まないよう注意深く見ながら歩いた、あの夜。
自分より遥かに大きな身体を持つ大人達が呆気なく命を散らしていく様を目の当たりにして、何も思わずに過ごせるほど、徐福の精神は成熟していなかった。
寧ろ酷く、死を忌避するようになっていた。
不老不死。もしも、もしも本当に手に入れる事ができるのならば――
悲劇も恐怖も別離も、震える手で徐福の手をぎゅっと握って、泣きそうな表情を浮かべていた、テオの苦痛も。
もう二度と、感じさせないで、済むのではないか? と、徐福の中にぼんやりと、飴細工よりも脆そうな空想が思い浮かんでしまって。
「アタシが見付けた未確認生物は、アタシが徹底的に調べたいからね。お前は邪魔するんじゃないよ、テオ」
「むぅ~。オレもクラゲ調べてみたかったのに~」
「お前にはウミヘビという研究対象がいるだろうに。あ、それとこの機にアタシこの家から出るよう」
「え? ……えっ!?」
秘密の招待状が来たこと以上の衝撃に、テオは思わずバンッと力強くテーブルを叩いてしまう。
「なっ、何で何で!?」
「国連が一方的に手紙を送ってきたんだ。別荘にいると、監視されているようで気味が悪いね。それにアタシももう15歳。自立を考えていた頃よ」
「ジョーさんまだ成人してないじゃん! 出て行っちゃやだ~っ!」
「我が儘言うんじゃないよ」
どの道、《ウロボロス》へ入所するには住み込みが基本らしく、テオの反対は丸っと無視し、徐福は家を出て行ってしまった。
《ウロボロス》の研究員は外部との連絡を禁止されており、休日の行動も厳しく制限されている。全ては徹底的に情報を機密にする為だ。
自然と、徐福はテオと疎遠に……ならなかった。
休日のプライベートを過ごす用に借りたアパートを、テオはどうやってか突き詰め、徐福がいようがいまいが関係なく手紙を送り続けてきたからだ。内容は日記に近く、やれ今日はウミヘビとサンドイッチを食べただとか、やれミシェルと志望校が被っただとか、毒にも薬にもならない報告ばかり。
だが手紙の端っこには、「返事くれなきゃウロボロスにも手紙送る」などという脅し文句が何の気なしに書かれていて、テオは徐福の所属先を把握している事を突き付けてきた。
よって鬱陶しいと思いながらも、徐福は時たま返事を返す羽目になってしまった。
とは言え手紙に書けるような話題など持っていない徐福は、浮遊型クラゲ……『アイギス』の研究経過を中心に、ウロボロスの日々を断片的に綴った。
それが良かったのか、悪かったのか。
◇
西暦2287年。テオ15歳。徐福17歳。
「ジョーさん! 来たよっ!!」
「意味がわからないが?」
テオは徐福の所属するウロボロス研究所へ、正面からやって来た。
彼の右手には、例のカード。
――パラケルススさまへ。
これは秘密の招待状です。決して口外しないように――
国連から送られてくる、招待状。
名義自体は偽名なものの、それは正規ルートで入って来た証だ。追い返す権限など徐福にはなく、ただただ呆れ返るしかなかった。
「いつの間にか、オレの方が背ぇ追い越しちゃったしね~」
「うるさいよ」
暫く会わない間に、テオは徐福の背丈を超えていた。声変わりも終え、顔付きも随分と大人びた。
白人は成長が早いなとぼやきながら、徐福は腕を組んでテオに言う。
「テオお前、ここがどんな施設か知っているだろうに」
「うん。知っているよ」
テオは薄暗い研究室を見回して、一つ頷く。
研究室には部屋の端から端まで、等間隔に並ぶ無数の培養槽がある。中には生きた人間が入れられていて、投薬実験は勿論、電気刺激実験や、身体の部位を動物の部位と入れ替えたり、化学薬品に塗れた人工人体を移植したりと、ありとあらゆる人体実験が施されていた。
人間としての原型を留めていない者も、多くいる。
徐福自身、入所早々アイギスを寄生させ、自分自身を実験体にしている最中だ。
聡いテオならば、手紙のやり取りで研究所の実態は伝わっていたはず。
にも関わらずここに来たと言う事は、犠牲を厭わない意思で来たと言う事になる。
「正直に言うとね、ジョーさん。オレ、研究に行き詰まっていたんだ。博士号取ってみたり、医師免許を取ってみたりしたんだけど、駄目だった。でもここなら……。不老不死っていう、頑丈な【器】を探究しているここなら、ウミヘビの身体を造れるかもしれない」
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