毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第二十四章 機能家族

第519話 青い血痕

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「国連は『珊瑚』による生物災害バイオハザード鎮圧する為、ウミヘビに目を付けた、と聞き及んでいます」
「そうそう。研究員が隠し持っていた卵がまだあって、それを元に卵を増殖して、新しいウミヘビを造るようになったんだ。それで片端から災害現場に投下していた。オレ怒り狂っちゃってさ、ジョーさんに『お前は魔王か何かか?』とか言われちゃった」

 そう言って乾いた笑い声をあげるテオフラストゥスだが、マスクの下の目はきっと笑っていない事だろう。

「オレの保護していたウミヘビまで駆り出そうとちょっかい出してきたし、もー大喧嘩。国連本部のセキュリティ乗っ取ったりにサイバーテロ起こしたりで反抗していたな~」
「そこまでしておいてよく殺されませんでしたねぇ、所長」

 ウロボロス解体を断行した事も含め、国賊と言っていいレベルの暴挙に出ているテオフラストゥス。
 身柄拘束どころか暗殺対象になりそうだと、セレンは暗に言った。

「ウミヘビのレシピを完璧に把握しているの、この世でオレだけだからね。情報を引き出すまでは、って生かされていたんだと思う。けど感染症と災害で混乱し切っていた世の中だ、消耗し合うよりも、『珊瑚』の撲滅を優先する方がお互い有意義。だから協定を結んだんだよ」

 淡々と語るテオフラストゥスの声は冷たい。
 未だ冷めぬ憤りが、声音から滲んでいるのがわかる。

「聞いていた通り、オレはウロボロスで人体実験をした事もあったし、国連に面と向かって反抗をした。法に基けば投獄されるべき、エゴに塗れた人間だ。だから『珊瑚』を撲滅に貢献する代わりに、それを見逃して貰うのと、ウミヘビへの不可侵を条件に出した。国連はオレに、『珊瑚』を撲滅できた暁には条件を飲むと約束してくれたよ。……撲滅できたら」

 しかし20年経った今でも、出来てはいない。
 故に国連はウミヘビの所有権を今なお狙っている。テオフラストゥスの手中に落ちる前に、不条理な契約まで結ばせて。

「……昔話に付き合ってくれて有り難う、モーズ。ここからはオレも同行するから、『珊瑚』とかペガサス教団とか国連とか、気にしないでいいよ。捜索にだけ集中してくれ」
「えっ。同行してくれるのですか?」
「あぁ。フランチェスコを見付ける事ができたとして、君達じゃウミヘビの保護は難しいだろうから」
「それはどういう意味でしょうか? 私が力不足とでも?」

 テオフラストゥスの発言を聞いたセレンが、むっと口をへの字に曲げる。
 セレンは曲がりなりにも第一課所属で、ここ一ヶ月以上は鍛錬に励み、戦闘力を磨いてきた。大抵のウミヘビならば捕える事ができる。その自認は間違っていないはずだ、と。

「いいや。君はとても強いよ、セレン。ただ何事にも、相性と言うものがある」
「相性? 件のウミヘビの毒素は、私の解毒剤になり得るものという事でしょうか?」
「いいや。でもね、セレン。例えば水銀を前にして、君は捕えられると思うかい?」

 水銀。ウミヘビ最強の一角の名を出されてしまえば、セレンは押し黙る他ない。
 以前、シミュレーターで試合を交えた際は、髪の毛一本切る事も出来ずに終わってしまった。

「ウロボロスの記録ログは読めたからね、ウミヘビの情報は掴んでいる。勿論、産まれてから何十年も生きている水銀と同じ強さを持っているとは思わないけれど……。敵対すれば油断できないと、オレは踏んでいるよ」
「……敵対、ですか」

 それはつまり、そのウミヘビを連れているフランチェスコと、争うという事。
 想像したくない憶測に、モーズの胃がずしりと重くなる。

「話し合いで済むのが理想だけど、何事も予想外っていうのは起きるものだ。備えておいて損はないよ、モーズ」
「……。はい」

 フランチェスコは5年前から今まで、ずっと身を隠している。連絡の一つも寄越さない。
 表立って活動したくない理由があるのだとすれば、彼を見つけ出そうとするモーズを障害と捉えても何らおかしくない。
 しかしそれでも、例え伸ばした手を、振り払われたとしても。

「ご協力、お願いします。所長」

 モーズは深々と頭を下げ、テオフラストゥスの手を借りてでも、フランチェスコを見付け出す事を選んだ。

「こちらこそ」

 明るい声で快諾するテオフラストゥス。
 ひと段落した所で彼はくるりとその場で一回転し、青い血の痕跡が残る周囲を見回した。

「で、肝心のフランチェスコの居場所はわかりそうかい? まぁそもそも、ここにヒントがあるかどうかもオレの勘でしかないんだけどさ。せめて取っ掛かりはあって欲しいな~」
「まずは見てみない事には……。少しお時間頂いても?」
「それは幾らでも! 壁にもあるんだ、血痕。案内するよ」

 テオフラストゥスのすぐ後ろにある円柱に付けられた、三筋の青い血痕。
 その他にも、壁、床、天井と、どう付けたのかわからない位置にまで青い筋が付着していて、テオフラストゥスの言う通り何かしら意図を感じる。

(とはいえ、文字が綴られている訳ではない。ただでさえ私は言葉の裏を察する事が苦手なのだし、フランチェスコがメッセージを込めていたとして、正しく読み取れるかどうか……)

 しかし青い血痕を見れば見るほど、モーズは何処となく、懐かしさを覚えた。
 より正確に言うと、既視感を覚える。特に天井に青い血は、蛇に見えた。
 シスターに夜更かしが見付からないよう、ベッドの下に潜り込んで、懐中電灯の灯りを頼りに、画用紙にクレヨンで描いていた蛇。
 夢中に描くうちにクレヨンは画用紙からはみ出て、フローリングの床にまで尻尾が伸びていってしまったのを、覚えている。

「……フランスの、南部。プロヴァンス」

 シスターには内緒にしようと、2人だけの秘密として、バレるまで隠してしまおうと、スリルを求めた結果、その細やかな悪戯は何年も残る事になって。
 トカゲの尻尾のように、根本がぶつ切りになっていて、尾の先はくるりと孤を描いて。
 その特徴的な尾は、孤児院を出る時に、大きくなったら身体をベッドの下に潜り込ませて消した。長らく放置していたから、雑巾で摩擦しただけでは消えなくて、洗剤を持ってきたりとあれこれ手間暇かかってしまっていた。
 だからか、記憶に残っている。

「私達が育った教会がある、故郷……」

 勘違いかもしれない。的外れかもしれない。
 教会は3年前に閉鎖され、付属する孤児院も残っていない。
 しかしフランチェスコが手掛かりを残してくれたのが、真実ならば。

「足を運んでみる価値は、あるかもしれません」

 モーズは里帰りを、決めた。



  ▼△▼

 次章より『里帰り(仮題)』、開幕。

 ここまでお読みいただき誠にありがとうございます。
 『機能家族』、これにて完結です。

 はい、所長が登場するまで500話かかりました。長すぎる……!
 しかしこれでようやくクスシが全員揃いましたね。めでたやめでたや。
 後はフランチェスコが正式に登場すれば人間側の登場人物は揃い踏みする、はずです(モブとかゲストキャラは除く)。
 その辺も次章で着地する、はず。多分。……お楽しみに!

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