毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第二十六章 交差する思惑

第543話 潜伏ミッション

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「そう、ですね。全て伝えてしまう事が、正しいとは限りませんね……」

 モーズは声を落とす。
 絶望を叩き付けた所で、苦しみを与えてしまうだけ。皆が皆、立ち向かえる訳ではない。《珊瑚サマ》を公表すればぽっきりと心が折れ、自ら『珊瑚』へ取り込まれに走る――人間としての自死を選ぶ者も、現れてしまう事だろう。

「そう気負わなくていいよ、モーズ。《珊瑚サマ》の対処はオレやジョーさんが色々と考えているからさ。モーズに話したのは、君が教団に捕まって欲しくないからだ。絶対に」

 この場にいるセレンとテトラミックスにも、話を聞かせたのもその為。
 モーズを慕う彼らならば、《珊瑚サマ》への危機感を強く持ってくれる。

「だから状況が落ち着いた後……またこっちから連絡するまで、モーズには潜伏をお願いするよ。できるかな?」
「ずっと此処に居ろ、ということですか?」
「うーん。……ひと処でこそこそしていても目立つかもだ。人口の多い場所に身を隠すのもアリだね。ただ、フランスからは出ない事。国境付近は監視がキツいからね。それと電波の傍受を避ける為にも、電子機器は使わない事。どう? 出来そう?」
「……わかりました。潜伏、やってみます」

 自信はないが、やり切るしかない。
 モーズは白衣の裾を握り締め、テオフラストゥスに決意を伝えた。

「それじゃ、オレは行ってくるよ」

 返事を聞いたテオフラストゥスは一匹のアイギスの傘へ乗ると、天井の穴から外へと出、早急に教会跡地から去って行ってしまう。
 一切、振り向かず突き進んだ所から、相当急いでいる事が見て取れた。

「潜伏って話だけどさー。ご飯ももうないし……どうするの、モーズ先生? 一旦、街に行くー?」

 テオフラストゥスの姿が見えなくなった後。
 モーズの今後を気にしてくれたのはテトラミックスだった。

「そうだな。食事の確保や身体の清潔さを保つ為にも、街へは行かなくてはならないな」

 ここ教会跡地や、隣接する孤児院跡地では何日も過ごせない。
 フランチェスコを真似て、井戸の水や蓄電器を利用するとしても、この場には4人いる。幾らウミヘビの必要摂取エネルギー量が少なくとも、彼と同じように暮らし続けるのは現実的ではない。

「かといって、何度も街と此処を往復するのも……。非効率的かつ怪しまれる……」
「街へ去ると言うのならば勝手にしろ。俺はフランチェスコ先生の元に残る」

 ブロムがぶっきらぼうに言った。フランチェスコから離れるのが嫌なのだろう。
 モーズとしてもフランチェスコの側から離れるのは本意ではない。昨日、日の出ている時間は全てフランチェスコの検診に使ったが、まだまだ足りない。機材も時間もないのだ、最低限の事しかわからなかった。寄生虫についても腰を据えて調べたい。
 しかしあまりにも場所が悪い。フランチェスコはこの悪条件の中で研究をしていたのだから、感服してしまう。

「場所……。フランチェスコの居場所を変えれば、ブロムも着いてきてくれるか?」
「えっ。この人、連れて行く気ですかモーズ先生」

 セレンが露骨に嫌そうな顔をした。昨日ブロムと戦闘したからか、警戒心が強くなってしまっている。

「フランチェスコ先生を動かすと? やれるものならやればいい。俺は、先生の側に居続けるだけだ」
「セレンとテトラミックスの手ならば可能の筈だ。芽胞を破壊できるのだから」

 実際、セレンは前回のパラスの学会で芽胞を形成した植物型『珊瑚』を、抽射器であっさりと破壊している。そして彼以上に毒素が強いテトラミックスも、同等の事ができるだろう。
 それで菌床に繋がった菌糸を切り取ってしまえば、フランチェスコを連れ出せる。

「芽胞が解除されるかが問題になるが、あの寄生虫がいる限りは平気……だと仮定する。もし不都合が起きたら、また別の手を考える」
「行き当たりばったりだな」
「何せ初めての試みだからな」

 ブロムの鋭い突っ込みに苦笑で返すモーズ。
 しかし成功率は高いと見ていた。芽胞を形成した『珊瑚』は、養分を得るか、脅威が去るまでそのままの状態で休眠する。その脅威こと寄生虫が排除できていない状態で変化するとは、考え難かった。

「次に移動先を考えなければな。ウミヘビを受け入れられる場所。私含め4人が過ごせる場所。フランチェスコ……ステージ5を迎えられる場所。研究を腰を据えて行える場所……」
「ラボ以外にそんな所あるんですか?」
「国連の施設とかー?」
「国連は怪しいって所長が言っていたじゃないですか、テトラミックスさん。除外ですよ、除外」
「加えてフランス国内に限定する、とあの子供は言っていたな。そんな欲を詰めた場所が存在すると?」
「ブロム、所長は子供ではなく……まぁいいか」

 見目だけならばテオフラストゥスは子供に違いない。いちいち訂正をしても仕方がないと結論したモーズは言葉を止め、思考に注力する。
 此処はフランス。モーズの故郷。他国よりも地の利がある。知識を絞り出せばあるいは、と考え続けた結果――

「あぁ、そうだ」

 ポン。とモーズは手の平に拳を置いて顔を上げた。
 思い出したのだ、フランス国内に頼れる人間がいる事を。

「私には縁を繋げてくれた人がいるのだった」

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