毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
22 / 600
第二章 初遠征、菌床処分

第22話 自己防衛機能《アイギス》

しおりを挟む
「おはよう、モーズくん。昨日はよく眠れたかな?」

 翌朝。共同研究室でユストゥスと共にモーズとフリーデンを待っていてくれたフリッツは、朗らかに朝の挨拶をしてくれた。

「さて、早速せっかちな君に《アイギス》を渡そう。これなしでウミヘビの居住区に入ってはいけないよ」
「うっ、すまない」
「いやぁ、元々は禁止事項を伝え忘れていた僕が悪いんだけどね」
「フリッツは悪くないぞ! 有毒人種の巣窟に丸腰で向かう阿呆がいるなんて、想定外もいい所だ!」

 筒抜けだったらしい昨日の事を叱られて(実際危ない所だった)落ち込むモーズに、隣に立つフリーデンが「前にも居たらしいし、気にするな」とこっそり教えてくれる。
 話に聞くところ好奇心の塊と称されるクスシは人工島アバトンに到着早々、ラボに向かうよりも先に居住区へ突っ込んで行ったんだとか。それを聞いてモーズは少し気が楽になった。

「今後も暫くはアイギスのコントロールに難儀するだろうから、居住区に行く時は僕を連れた方がいい。いつでもお供しよう」
「フリッツ!? そんなに献身的になる必要があるか!?」
「僕は指導役なんだ、ユストゥス。それくらいするとも」
「俺もいつでも付き合うぞ~、モーズ」

 優しい上司に恵まれた環境に心が温かくなりつつ、モーズはフリッツに連れられて共同研究室からアイギスが居るという上の階へと移動を始めた。

「それじゃ移動しながら聞いて欲しいんだけど、君にアイギスを渡すにあたって一つ懸念点があるんだ」
「何だろうか?」
「今まで『珊瑚』の感染者に渡した事がないから、どんな反応が起こるか未知数なんだよねぇ」

 さらっと告げられた看過できない懸念点に一気に不安にかられるモーズ。しかしモーズよりも激しく反応したのは一緒に着いてきたユストゥスの方であった。
 ちなみにフリーデンも着いて来ている。自分の研究を放っておいていいのだろうか。

「モーズは感染者だったのか!? 自己管理がなっていないではないか! 何故、所長はこのようなズボラな人間を招き入れたんだ!?」
「ユストゥス、後輩のプロフィールぐらい目を通そう?」

 後輩の関心が薄いユストゥスにフリッツは苦笑している。

「そのアイギスとやらは『珊瑚』とは相容れないのだろうか?」
「ぜーんぜん、わからない。どちらも寄生生命体ではあるんだけど、生態が全く違うから干渉し合わないかもしれない。逆に拒絶反応するかもしれない」
「アイギスは副所長が発見して所長が品種改良した空中浮遊クラゲでさ、宿主に合わせて細胞を変異させるんだ。特徴的なのが宿主の神経を読み取って望むように動いてくれる所。宿主の意識を奪って乗っ取る『珊瑚』とは真逆なんだよな~」

 アイギスについてフリーデンが補足をしてくれる。

「モーズくんの中の『珊瑚』は薬で休眠状態だろうし大丈夫だとは思うけど、何かあったら拘束するかもしれない。許して欲しいな」
「それは全く構わないが。私も人を傷付けたくない」
「そっか。なら安心だね」

 そして辿り着いた三階。その階にある扉は二階と同じく一つだけで、掲げられたプレートには『飼育室』と書かれていた。

「さぁて、モーズくんに合うアイギスは誰かな?」

 そうして入室した『飼育室』は天井の高い部屋で、筒状のガラスケースが柱のように何本も建っていた。中には様々な姿形をしたクラゲが泳いでいる。まるで水族館の展示室のようだ。
 ただし筒状ガラスケースの中に水は入れられておらず、クラゲのサイズも海中に生息する本来のクラゲよりもずっと大きい。人の頭を容易に飲み込んでしまえるサイズの傘を、各々が持っている。
 そのクラゲ、いやアイギスの数の多さとそれらが織りなす幻想的な光景に、モーズは息を呑んだ。

「これら全て、同じ種のクラゲなのか……!?」
「これだけ姿形が違くても同種なんだ。すごーく、面白いよね」

 フリッツは話しながらすたすたと慣れた様子で飼育室内を歩き、ガラスケースの中で最も大きなケースの扉を開けるとモーズを手招きする。

「それじゃモーズくん、入ってみて」
「だ、大丈夫なのだろうか? 毒がありそうなものもいるが」
「養殖アイギスは無毒だし、宿主になる可能性のある人に危害を加えないよ。じっくり見て回って、気に入った子にアプローチをしてみるといい」

 促されるまま、モーズはガラスケースの中に入ってみる。水槽を模したケースだがやはり水がないので普通に歩き回れる。
 アイギスの群れはモーズが入って来ても、特に反応を示す事なく延々と浮遊し空中を漂うように泳いでいた。

(選ぶといってもこの数の多さ、どう決めればよいのやら)

 姿形の違いによって特徴も違うのだろうか。そう思ったが特に説明はなかったので、どのアイギスを選んでも支障はないと予想できる。ならば極論、見た目の好みで決めてしまっていいのだろうが、選択肢が多過ぎて迷走してしまう。
 そもそもモーズはフェイスマスクといい、デザイン面におけるセンスがない。壊滅的だ。だから深く考える事はせず、ひとまず近場に浮遊しているアイギスに手を伸ばしてみる。発光しているから目に付いたのだ。

(『珊瑚』と拒絶反応を起こさなければよいのだが)

 なんて考えながら伸ばした手が発光アイギスに触れそうになった時、

「うおっ!?」

 背後から忍び寄ってきた他のアイギスの触手に首筋を触れられ、モーズは盛大に肩を揺らしてしまう。
 しかしアイギスは構わず触手を這わせ、首筋の皮膚をぷつりと刺したかと思えば体内へと侵入してきた。異物が入ってくる違和感にモーズは背筋を震わせる。

「落ち着いてくれ、モーズくん。下手に動揺して暴れると血を抜かれて死んでしまうから」
「更に動揺する情報をよこさないでくれないか!?」
「ごめん冗談。でも貧血にはなるかもだから落ち着いていてね」
「このぐらいで平常心を乱すなど、先が思いやられる」
「深呼吸だモーズ、深呼吸~っ!」

 フリーデンに言われた通り必死に深呼吸をし、バクバクと早鐘を打つ心臓をどうにか落ち着けるモーズ。呼吸を整え平常心を保とうと尽力している間にもアイギスの触手は無遠慮に体内に侵入してきて、やがて身体の全てがすっぽりと皮膚の下に収まってしまった。
 服の袖を捲りチラリと様子を伺ってみれば、一匹の小さなクラゲが腕の皮膚を盛り上がらせて泳ぐように這い回っている。心なしか上機嫌そうに。

「おおっ。モーズくんはハブクラゲ型と相性が良かったみたいだね。後でバイタルチェックするけど、今のところ『珊瑚』との拒絶反応もなさそうだし、よかったよかった」
「フリッツ、大事な情報は事前に知らせて欲しい。心構えが出来ない」
「そこは本当ごめん」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その書物を纏めた書類です。  この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。 私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...