毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第五章 恋する乙女大作戦編

第98話 国連警察の使者帰還!

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 国連警察が襲撃してきた翌朝。
 モーズとフリーデンは国連警察の2人が起きる前にとテトラミックスの手を借り、港のアメリカ車まで運んで貰った。一緒に連れて来られたクリスもまた、2人に続き車へと乗り込む。と言うより乗り込めさせられる。
 そして間もなく目覚めたマイクに向け、フリーデンはこう言った。

「ユストゥスさんから伝言でーす。『危機管理できない輩は二度と来るな』。以上」
「何だと!? あれはウミヘビが俺を貶めたのであってな!」
「ウミヘビが? 被害報告があるなら具体的にどうぞ~」

 納得いっていないマイクに対して、へらへら笑いながらしっしっと手で払うジェスチャーをするフリーデン。
 ちなみにアバトン内での録音撮影等の記録行為は全て禁止なので、彼らが寝込んでいる間にボディチェックをし、持ち込んできていた端末や小型カメラは没収。全てのデータを消去した後に返却をした。なおクリスが身に付けていた録音機能付き集音イヤホンと眼鏡型小型カメラもあっさり看破され、昨日の記録は消されている。
 それによって昨日の記憶が途中からろくに残っていないマイクは、何も言えなくなってしまった。

「この……っ! まぁ、いい。次は思い通りにいくと思うなよと、伝えておいてくれ」
「うぃ~っす」
「事前に通達して頂ければ、こちらも対応するのだが」
「黙れ! そもそも街中で迂闊にメディアに乗ったお前が発端なんだぞ! 付け入る隙が出来たと思ったのに、全く隙を見せないとは使えない奴だな!」
「……えっ。私が発端……?」
「あ~。パラスの英雄の件か~」

 今更、騒動の原因だと知ったモーズは、ガンと頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けていた。そんなモーズの肩をぽんぽんと叩いて宥めるフリーデン。
 一方アメリカ車の車内では、クリスがアバトンであった事を同じく目覚めたネフェリンに報告をしていて、あまりいい成果とはいえない情報に彼女は眉間にシワを寄せていた。

「貴女、ウミヘビと直接話せたのにそんな情報しか引き出せなかったの?」
「ご、ごめんなさい」
「それにバングルを貰っただなんて」

 早速、クリスの右手首に付けられたバングルを指摘され、クリスは思わずさっと左手で覆うように隠してしまう。

「あっ! これは! 変な物ではないですよ! 私も確認しましたが仕掛けはありません! ただの銀製の腕輪です! その、中に水銀が含まれているみたいですけど……」
「はぁ? 大丈夫なのそれ」
「ウミヘビから渡された物ですから、支部でも検査はいたします! でも今後また、ラボに限らず災害現在とかで、ウミヘビと接触する際に親交の証といいますか、お相手を油断させる為といいますか、その為にも私が身に付けたままにしたいのですが……!」

 クリスは必死にバングルを手放さない屁理屈を並べている。昨日一日で彼女は随分とウミヘビに入れ込んでしまったようだ。
 そんな彼女の様子を見たネフェリンは一つ溜め息を吐く。

「私達にはわからない罠が仕掛けてあって、それで命を落とす可能性もあるのよ?」
「ご心配いただき、ありがとうございます。……その時は、ラボを責める口実が出来たとでも、お思いください」

 クリスの決意は固い。これで命を落としてもいいと本気で思っている。
 ここまで意固地になっている彼女からただの腕輪を取り上げる事もないだろうと、ネフェリンはバングルの所持を認める事とした。

「そこまで覚悟があるなら、いいわ。バングルは貴女が付けたままで」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ。寧ろ肌身離さず身に付けていなさい?」
「は、はいっ!」

 ネフェリンから正式に許可を得てぱっと明るくなるクリス。
 そして車が離陸する直前、彼女は窓から顔を出してモーズとフリーデンへ向け別れの挨拶を交わした。

「それではクリスさん、お気を付けて」
「お世話になりました!」
「じゃ~な~。元気でな~」

 こうして嵐のように突如現れた国連警察は、静かにアバトンを去ったのだった。

 ◇

「戻りました~」

 無事に国連警察の車を見送ったモーズとフリーデンは、ラボの共同研究所室へと戻りユストゥスとフリッツに報告をする。

「やっと帰ったか」
「結局、昨日はろくに研究が出来なかったねぇ」

 丸椅子に座って試薬の製薬をしているユストゥスはまだ苛ついているようで、手の甲に血管が浮き出ている。
 反対にフリッツはのほほんと、人工人間の部位を使った珊瑚症感染の経過を観察していた。

「あ、ユストゥスさん。マイクって人が『次は思い通りにいくと思うなよ』って言ってましたよ」
「やはりあの男、大西洋の底に沈めるべきだったか」
「どうどう、ユストゥス」

 殺意に目覚めるユストゥスとそんな彼を宥めるフリッツを横目に、モーズは実験台の上に腰を下ろし、上機嫌そうに読書をしていた水銀の元へと歩み寄る。

「水銀さん。バングルをなぜ彼女に渡したのか、訊いてもよいだろうか?」
「あら、昨日も話したでしょう? 《恋する乙女大作戦》の為よ」
「すまない。全くわからない」

 すると水銀はパタンと読んでいた本を閉じ、ずいとモーズに顔を寄せた。

「何よ。元々はアンタの為よ」
「私の為?」
「あとフリッツのね」
「え、僕かい?」

 突然、名を呼ばれたフリッツが困惑気味に水銀の方へ顔を向ける。

「あのバングルが効果を発揮する日が来るのか、確実な事は言えないけれど、国連警察なら可能性はあると思って渡したのよ」
「僕もモーズくんからバングルの中に君の水銀を入れた、と言う話は聞いているけど……。ウミヘビは目の届かない、または手が届かない範囲の毒素は操れないだろう? 彼女の所属する支部はアメリカ。非常に遠い場所で一体、何ができるんだい?」
「毒素は操るだけの物じゃないわよ? ほらアンタ達、感染者が人なのか『珊瑚』なのか気にしていたじゃない。その判別の指針になるかもしれない、って考えたのよ。偉いでしょう?」

 水銀は勝気な笑みを浮かべ、得意気に胸を張った。

「作戦が成功した暁には所長に報告なさい、盛大に」

 そして手元でホログラムキーボードを操作すると、自身の背後に大きなホログラム画面を出現させる。
 画面には《恋する乙女大作戦》とポップなフォントの文字が並んでいた。その下には作戦の大まかな項目が書かれた目次があり、どうやら水銀はパワーポイントで作戦の概要を伝えるつもりらしい。

「モーズくん、一緒に詳しく聞こうか」
「あ、あぁ」

 ひとまずモーズとフリッツは画面の前で椅子に座って、水銀の作戦の内容をじっくりと、一から十まで教わった。
 そして得意気に笑う水銀とは反対に、マスクの下でサッと青ざめたのだった。

「その、作戦は……」
「うーん、あー……。僕としてはこの作戦が決行される日が来ない事を、願いたいね」
「同感、だな」
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