毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
115 / 600
第六章 恋⬛︎⬛︎乙女荵ウ縺ョ謌螟ァ――改め、アメリカ遠征編

第114話 超長距離射撃

しおりを挟む
 事の始まりはほんの10分前。
 超高層ビル上層階から見下ろせば豆粒に見える、小さな土産屋の中。菌床が広がり菌糸が蔓延り、無人となった店内の、ガラスショーケースの上。
 そこに腰を下ろした澄んだ海に似た水色の瞳をした男、ラリマーは、眉間に深々とシワを寄せて苦虫を噛んだかのような顔をしていた。

「〈根〉の女は使命に抵抗した上に自決、ネフェリンは【核】1つ残さず死滅。目論見通りやってきたウミヘビに、2人も来てしまったクスシ、そのどちらも始末できないまま……。やはり我らの神ではなく、俺個人が仕立てた《御使い》では力不足か」

 わざわざアメリカに足を運び、ネフェリンに『珊瑚』を分け与え【誕生日】を迎えさせ、超規模菌床を展開させたのに、散々な結果となってしまった。
 ラリマーは溜め息を吐くと黒服のフードを被り、割れたショーウィンドウから土産屋の外へと出る。
 そうして街道の端を足を引き摺るようにして歩けば、そのうち周囲を巡回していたアメリカ軍に声をかけられ、逃げ遅れた観光客として避難所まで案内を受けた。

「感染者から生き延び、よく頑張ったな」
「怪我は? 胞子は吸い込んでいないか?」
「後で陽性検査をしなければな」
「今はともかく医務室へ」

 軍人達のうざったい掛け声を聞き逃しつつ、ラリマーは菌床の外に作られた仮設の避難所、ハイスクールの校庭へと足を踏み入れる。
 ここまで来れば大勢の人間に紛れて姿を消せる。さっさとずらかろうとラリマーが手洗いに行く体で軍人達から離れようとした時、

「そこの方、フードを取ってみてくれないか?」

 1人の軍人に背後から声をかけられた。
 彼を前にした他の軍人は「お疲れ様です! マイク指揮官!」とすかさず敬礼をしている。どうも上の立場の人間らしい。

「私の事はいい。そこの黒服の人、ともかく顔を見せてくれないか? 街中ではガラス片が飛び散ったりしていたんだ、頭を怪我しているかもしれない。それとも英語がわからないか? こうだ、頭の物を、外す」
「……」

 わざわざ自分が着けていたヘルメットを外す実践をした上で、マイクという男はフードを取るよう催促をしてくる。
 ここでゴネて拘束されても面倒だと判断したラリマーは、さっさとフードを外して素顔を見せた。
 だがその直後、ラリマーはマイクに銃口を向けられ、手を上げるよう命令される。

「何だ、いきなり」
「お前、警戒対象感染者だな?」
「警戒対象?」
「スペインの菌床で何をしていたのか、署でじっくりと聞かせて貰おうか」

 顔が、割れている。
 人間の前でみだりに信仰を布教した事は一度もないのに。《御使い》として動く時も、監視カメラなどの映像機器に残るヘマは一度も犯した事はないのに。

(さては、ウミヘビか)

 顔が割れた原因を察したラリマーは、澄んだ海に似た水色の瞳を細めると、片足をあげダンと思い切り校庭の土を踏み付けた。
 その直後、ラリマーを中心に地面へ広がる真っ赤な血管、いや菌床。そして珊瑚状に生え彼を鬱蒼と覆う菌糸。

「何だ!?」
「わぁあああ! 菌床が!」
「嫌だ! 助けて!」

 それを目の当たりにした避難者達は当然、パニックに陥りハイスクールの外へと逃げ出そうとする。避難者を管理していた軍人達が落ち着かせようとしても、人数に圧倒的な差があるので統率し切れない。

(この混乱に乗じて……)
「動くな!」

 だがマイクの銃口は依然とラリマーに向けられていて、視線も一切逸らさず隙を見せてくれない。

「私を誰だと思っている。指揮官である前に、秘密警察だ。……バイオテロリストは1人残らず、捕える」
「ほう。随分と使命感の強い男だ、なぁっ!」

 ラリマーが叫ぶと同時に、地面から角状の菌糸が続々と生えてきてマイクに迫ってくる。
 マイクはその菌糸を機関銃マシンガンで撃ち抜きつつ、それでも一歩も引かず、それどころか負傷も厭わず逆に前進を始めた。

「マイク指揮官! 危険です! ここは待避を!」
の事はいい! A班は避難誘導、B班は包囲を! 絶対に逃すな!!」

 ◇

 超高層ビルの展望台、そこに設置されてある望遠鏡をフリッツが覗いてみれば、菌床の外側にある校舎から硝煙が上がっているのが確認出来る。
 だがここは地上から遥か遠く、200メートルは離れている50階層。そこから菌床の外側、肉眼では豆粒にしか見えない場所まで向かうには、例え車やヘリを駆使しようとも時間がかかりすぎる。
 その到着するまでの間、避難者が集う避難所で、恐らくステージ6だろう相手に現状維持ができるとはとても思えない。アメリカ軍の軍事力を疑う訳ではないが、場所が悪過ぎる。

「彼処が連絡のあった現場のようだけれど、遠過ぎる。とても間に合う距離じゃない」
「その交戦中っちゅうマイクいう人、飛行機から降りた時に会った人やっけ?」
「あぁ、そうだよ。僕らが挨拶を交わした人」
「やっぱり! 自分が飴ちゃんあげたお兄さんやな! 何や何や、自分を頼らんなんて水臭い人やなぁ」

 シアンは楽しげにへらへら笑いながら、窓辺の上に立った。

「何があっても自分がみぃんなやっつけたるさかい。何も心配せんでええ言うたのに」

 そしてシアンは白衣の下、腰に下げていた“ガンベルト”から小型の短銃マスケットを取り出すと、窓の外へ銃口を向ける。白い球体が嵌め込まれ、塞がれた銃口を。
 そして引き金にかけた人差し指を引いて、ただ1発、撃った。

 パァンッ!

 発砲音と共に発射された弾丸たる青白い発光体は、窓ガラスをぶち破り、空気抵抗をものともせず小さな銃身からはあり得ない速度で狙いすました標的ターゲットへ向かって直進する。
 そうして発光体はほんの数秒の間に校舎の中、マイクを串刺しにせんとしていた菌糸の束をいとも簡単に貫き、勢いそのままラリマーの左手に、着弾した。

「……なっ!?」

 直後、訳もわからないまま吹き飛ぶラリマーの左手。ばしゃりと、胞子とも血ともつかない紅い飛沫と共が宙を舞う。何が起きたか理解する前に手首の断面が赤黒く変色し、腕へと迫ってくる。
 嫌な予感がしたラリマーはすかさず黒服の下に隠し持っていた剣を持つと、左腕の二の腕を自ら斬り落とした。斬り落とした腕と銃撃によって吹き飛んだ手は、既にどす黒く変色し死滅していっている。
 毒。あまりにも早く、強力なその毒の回りを目の当たりにして、ラリマーの頬に冷や汗が伝った。

『あぁ、アカン。

 菌床を伝って、ラリマーの耳元にウミヘビシアンの声が届く。

『ニコちゃんがここにおらんくてよかった。おったら「下手くそ」言われてしまう所やったわぁ』

 ラリマーは弾かれたように顔をあげ、超高層ビルへ視線を向ける。その最上階で微かに見える、太陽光を反射してキラリと光る銃口。
 ウミヘビシアンは彼処から、撃ってきた。

『すんまへんな、フリッツ先生。もう一度撃つさかい。……今度こそドタマ、ぶち抜くわ』

 超高層ビルの最上階から、2発目の銃撃が、来る。

「あの、人造人間ホムンクルスめが……!」

 ラリマーは奥歯を噛み締めると、直ぐに自身の周囲を地面から生やした菌糸で覆い、繭に似た殻を作りそこに籠る。
 直後シアンからの2発目が直撃し、繭に大穴を空けた。
 だが中には既にラリマーの姿はなく、彼は何処かへ雲隠れしてしまっていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

暁天一縷 To keep calling your name.

真道 乃ベイ
ファンタジー
   命日の夏に、私たちは出会った。  妖魔・怨霊の大災害「災禍」を引き起す日本国。  政府は霊力を生業とする者を集め陰陽寮を設立するが、事態は混沌を極め大戦の時代を迎える。  災禍に傷付き、息絶える者は止まない絶望の最中。  ひとりの陰陽師が、永きに渡る大戦を終結させた。  名を、斉天大聖。  非業の死を成し遂げた聖人として扱われ、日本国は復興の兆しを歩んでいく。  それから、12年の歳月が過ぎ。  人々の平和と妖魔たちの非日常。  互いの世界が干渉しないよう、境界に線を入れる青年がいた。  職業、結界整備師。  名は、桜下。    過去の聖人に関心を持てず、今日も仕事をこなす多忙な日々を送る。  そんな、とある猛暑の日。  斉天大聖の命日である斉天祭で、彼らは巡り会う。  青い目の検非違使と、緋色の髪の舞師。  そして黒瑪瑙の陰陽師。  彼らの運命が交差し、明けない夜空に一縷の光を灯す。 ※毎月16日更新中

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...