毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
138 / 600
第八章 特殊学会編

第136話 山積みの問題点

しおりを挟む
「ステージ6について発表とか、そんなの絶対無理でしょ」

 研究テーマが纏まりかけた時、水をさすように発言したのは、共同研究室の隅っこの丸椅子に座りふんぞり返っていたパウルであった。

「今まで遭遇したそれっぽいのが3人で? その内、実際に遺体が残っているのが1人だけ? そんなんじゃ情報が足りなさ過ぎるだろう。統計学として有意水準の400まではいかなくとも、せめて100人分のサンプルがなきゃさ」

 パウルは座っていた椅子から立ち上がり、そのままズンズンとモーズの隣まで距離を詰める。

「それにステージ6、ステージ6、って進行度を決め付けているけど、それだって他人の話を元にした憶測じゃないか。進行に関係ない《変異体》の可能性だって充分あるし、災害現場にいた毒が効きにくい、かつ大怪我しても動けた子供とかも、他の要因によるものって説も捨てきれない。そもそも誰も感染者がステージ6に進行する瞬間を誰も見たことがない。エビデンスに欠けてて全部ふわふわしすぎ」

 そしてモーズに接近したパウルは、捲し立てるように喋りながらモーズの眼前に人差し指を突き付ける。

「あと発表したところでどうするの? 健常者と全く同じ見た目をしている、って見解なんだろう? 見分け方がわからなきゃ、混乱を招くだけになる」
「それは……」
「あのさ、僕の指摘に押し黙っているようじゃ駄目だよ。審査役がルイなんだ。僕なんて目じゃないぐらいのダメ出しが来る」

 そこで手を下ろしたパウルは両腕を組み、天道虫が描かれたフェイスマスクで覆われた顔を、共同研究室の奥へ向けた。

「何せユストゥスが発表した論文を、完全に論破した事のある人なんだから」

 正確には研究室の奥に立つユストゥスへ、視線を向けた。
 視線を向けられたユストゥスは、パウルの発言を否定しない。

「それは、本当だろうか?」
「……昔の話だ。だが私の検証は足りていなかった。未熟だった。それは、事実だ」

 恐る恐るモーズが確認をすれば、ユストゥスは苦々しげに肯定をした。
 普段は感情的なものの、こと研究については理路整然と冷静に話すユストゥス。そんな彼の研究を纏めた数々の論文には、隙など一切見当たらない。彼の論文はいつ何時も、妥協を許さない徹底した検証とそれに伴う深い理解を元に綴られるからだ。
 圧倒的な知見による説得力の塊。それを、『ルイ』という男は崩してきたのだ。ユストゥスを上回る、知見を持って。
 生半可な研究発表では一蹴されてしまうのが目に見えて、モーズはごくりと生唾を飲み込んだ。

「ふんっ! まぁ予算が減るのは僕も嫌だし、僕は僕の研究発表の準備をしておくよ。君が醜態を晒した後のフォロー、としてね!」
「パウルくん、そこまで言うならモーズくんと共同発表をするというのは……」
「そいつの事なんて知らないっ! 公衆の面前で赤っ恥をかけばいいんだ! それじゃ僕は個別研究室に行くけど、誰も入ってくるなよ!?」

 パウルは好き放題騒いだ後、荒い足取りで共同研究室から退室して乱暴に扉を閉めた。
 バタン! と大きな音が共同研究室に響く。
 異様なまでにモーズを拒絶するパウルの姿に、普段の彼を知るフリッツは困惑した。

「パウルくんは一体どうしたんだい? 普段はあんな意地悪な事を言う子じゃないのに」
「その、昨晩の出来事で徹底的に嫌われてしまって……」
「モーズがロベルト院長のスカウト受けているわ、そのスカウトを実質蹴ってラボにいるわ、更に退社時に院長に散々迷惑かけたのが悉く地雷だったみたいですよ」
「う~ん、あ~……。それは、嫌われてしまうかもしれないね……」

 フリーデンから大まかな説明を受けたフリッツは、フェイスマスク越しに額に手を当てて悩ましげな声をあげる。
 ロベルト院長といえばパウルの恩師であり家族。その事はクスシは全員把握していて、ロベルト院長に関する不祥事を起こすとパウルが烈火の如く怒るのも周知の事実。
 故に「これはまともに話を聞いて貰えないな」と判断したフリッツは、さっさと頭を切り替えてモーズへ顔を向けた。

「パウルくんはああ言っていたけれど、やっぱり僕はこの発表を遅らせるべきではないと考えている。モーズくんが発表できる形になるよう、僕もできる限り手を尽くすよ」
「俺も手伝うよ、モーズ。ラボの命運めっちゃかかっているしな」
「新人に課す重荷が半端ないな……」

 しかしフリッツとフリーデンの手を借りられるのは心強い。それにどうせ、このまま落ち込んでいても逃れられる課題ではないのだ。
 何よりもステージ6の発表によって、回避できる悲劇があるかもしれない。街中で突如として発生する生物災害バイオハザードが今後も起きる可能性があると、その原因の一端がステージ6だと、正しく伝えられたのならば。
 ――が、大幅に変わる。
 モーズは腹を括って、ステージ6の『珊瑚』を培養したシャーレを手に持った。

「だが私もフリッツと同じく、ステージ6の発表を遅らせたくない。必ずや世間に広め、その危険性を認知して貰わなくては」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

処理中です...