毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
148 / 600
第八章 特殊学会編

第146話 タイル・コースター

しおりを挟む
「こんにちは、モーズ先生。それにロベルト院長に、セレンも」

 何の前触れなく中央広場に現れたルチルは、人当たりのいい笑みを浮かべながらモーズらの前へと歩み寄る。
 彼には感染病棟で生物災害バイオハザードを誘発した疑惑があり、仮にそれとは無関係だとしても、モーズ達が利用したホテルで連れを引き連れて発砲をしてきたのは事実。
 なのに公共の場であまりに堂々と振る舞うルチルの姿に、セレンは露骨に軽蔑の目を向けた。

「えっ、何しに来たんですか貴方」
「何って、学会へ参加しにですが?」

 ルチルはさらりと答えながら、自分の後ろ、東に建てられた展示場を指差す。

「と言ってもワタクシが参加するのは、展示場で行われる【ポスター発表】ですけどね。残念ながらワタクシは特殊学会への招待を受けられるような立場も実績もないので、会議場には入れません」

 ポスター発表。
 学会の一種であり、名の通り研究内容を記載したポスターを用いて発表をするイベントである。モーズがこれから行う特殊学会の口頭発表形式とは異なり、複数人の発表者が同じ会場で掲示板スタンドなどに付けたポスターを並べ、見学者に対面で発表をする。
 見学者は会場の移動が自由で、発表者との距離が近く聴取コミュニケーションを取りやすいメリットがある。ただし見学者に自分のポスターの前で足を止めてもらえるよう、工夫をしなくては発表を聞いて貰えないというデメリットもある。
 参加者が厳選される特殊学会にしては白衣姿の人が妙に多い、とモーズは思っていたが、どうやら他の学会も同日開催していたのが理由だったようだ。

「ただ開場時間前に彷徨いていたら先生方にお会いできるかなぁ、と思って外にいたのですが……。いやぁ、予想が当たってよかったです」

 爽やかに笑うルチルに、セレンは警戒をした目を向けつつモーズの側にさっと寄った。モーズにルチルを近寄らせたくないのだ。
 そんなセレンなど気にせず、ルチルはロベルト院長にも挨拶を交わす。

「本日はフェイスマスクを付けているのですね、ロベルト院長。息災でしたか?」
「うん。ルチルくんも、元気にしていたかい?」
「ええ! とても! 慌ただしい転勤をしてしまい、ロベルト院長にはご迷惑をおかけ致しましたね。改めて謝罪をさせてください。あ、これつまらない物ですがお詫びの品です。差し入れも兼ねて、モーズ先生もどうぞ」

 頭を下げて礼儀正しく謝罪をした後に、ルチルは肩にかけていた鞄から手の平サイズの小さな板をロベルト院長とモーズへ配った。
 その板はタイルで作られたコースターで、ペガサス座をモチーフにした絵が描かれている。

「ではお邪魔いたしました。研究発表頑張ってくださいね、モーズ先生」

 コースターを渡し終えたルチルは、満足した様子でその場から颯爽と去っていった。
 ルチルが背中を向けた所で、セレンはモーズの手からコースターをさっと取り上げると無言で目視での検品を始める。しかしただの市販品で、おかしな所はなさそうだ。
 その上で「捨ててきましょうか?」と容赦なく言うセレンに、モーズは「捨てるとしても自分でするから」とひとまず返して貰った。

「……未だにルチルさんが堂々としていても逮捕されない理由って、何でしょうかねぇ?」
「いや、まぁ、非常に怪しい動きはしているものの、証拠は何もないからな……」

 ルチルがもしも治療を放置している感染者ならば、ペガサス教団の信徒か否かに関わらず、国連警察からの拘束または監視がつく可能性はある。
 しかしそれだけだ。
 信仰の自由が掲げられた現在の法律では、ペガサス教団の信徒というだけでは罪に問われない。と言うより、下手に信仰の自由を規制すると、本当に信徒であるか否かに関わらず『異端審問』や『魔女狩り』が横行してしまうのでできない、と言った方が正しい。
 またペガサス教団は実質バイオテロ集団、と目されてはいるものの、教団は国家転覆、犯罪促進、テロ行為といった危険思考を広めている訳ではない。
 教団の教えはあくまで信仰対象である寄生菌『珊瑚』に寄り添い、病の不安から逃れること。心の拠り所としての活動が主で、暴力性はないのだ。
 ――建前上は。
 なので信徒が何らかの問題を起こしても、ペガサス教団が犯罪を犯すよう明確に指示を下した証拠が見付からない限り、それは個人の問題とされ教団全体の責任として問われる事はない。

 ちなみにホテルでの発砲の件も証拠は残っておらず、仮に何らかの証拠が残っていたとして、フリーデンは『ニコチンを流血させてしまった』という管理不届を誤魔化す為、深入りしない姿勢を決め込んでいるそうだ。
 よって現状、モーズ側からルチルを追及する事はできないのだった。

「うひゃあ! ちょっとトイレに行っとった間にロベルト院長がすごか美人に囲まれとる!」

 その時、ルチルと入れ違いに現れた1人の男が、快活な声と共にモーズ達の元へやってきた。
 白虎をモチーフとしたフェイスマスクを顔に付けた、黒髪のアジア人。しかし彼はモーズよりも背が高く、アジア人にしては大柄だ。

「おっ! そけおっとはパウルか! なんだぁ、こん美人達はぬしがナンパしたんか?」
「違うわ! こいつらはラボから連れて来た付き添い! 助手! 関係者!」
「ほぉ~。たいぎゃ目ん保養になる連中と研究しとるんか。羨ましか」
「心にもないこと言うな。
「がっはははは! そらそうだ!」

 そのアジア人は訛りの強い言葉で、パウルと親しげに話している。どうも2人は知り合いらしい。

「ええと、こちらの方は……」
「モーズくんは初対面だったね。ほら、挨拶をしなさい」
「おぉ、こらすみまっせんロベルト院長」

 ロベルト院長に促され、アジア人はモーズと向き合い軽く会釈をし、こう名乗った。

「日本の感染病棟から参った、『柴三郎しばさぶろう』て申します。以後、お見知りおきば」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

 神典日月神示 真実の物語

蔵屋
歴史・時代
 私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。 この方たちのお名前は 大本開祖•出口なお(でぐちなお)、 神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。  この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。  昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。 その書物を纏めた書類です。  この書類は神国日本の未来の預言書なのだ。 私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。  日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。 殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。 本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。 日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。 そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。 なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。 縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。 日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。 この小説は真実の物語です。 「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」 どうぞ、お楽しみ下さい。 『神知りて 人の幸せ 祈るのみ 神の伝えし 愛善の道』

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...