毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十一章 キノコの国のアリス編

第223話 自立

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「彼、寝てしまったの? 手間のかかる殿方だこと。仕方ないからボクが……」
「水銀、水銀! ここはわしに任せておくのじゃ!」

 意識のないジョンを運ぼうと歩み寄ってくれた水銀の前に、砒素が通せん坊をするかのように躍り出て、ジョンを軽々と横向きに抱き抱える。

「ほれ! わしも力持ちじゃろ? じゃろ?」
「す、凄い。ガトリングを背負った上にジョン院長、いやジョンさんまで抱えられるとは……。珊瑚症で体重が増えているのに……」
「いひひひっ! 見たか弟子よっ! これがわしの実力じゃあっ!」

 砒素の白衣の下、ポーチの形態をした転移装置で呼び出したガトリングを背負った状態でジョンを抱える。その総重量は200キロは超えているのではないかと想定されるのに、砒素は苦もなく運び、軽やかな足取りで水銀と共に外へ向かい始めた。
 そしてモーズらから少し離れた所で、小声で水銀に話しかける。

「顔色が優れておらぬぞ、水銀。さては中毒にでもなったか」
「……バレたかしら?」

 軽い中毒ならば解毒を施さなくとも時間経過で症状は治まる為、今の水銀は目の充血などない。
 にも関わらず砒素は水銀が中毒に陥ったと、見抜いていた。

「伊達に付き合い長くないからのぅ。しかしまさかお主がそこまで追い詰められるとは」
「違うわ。ボクはかすり傷1つ負っていないし、危ない目になんて合わなかった。ただ『ゴーレム』の加減を間違えた、ってだけ」
「本当かのぅ? どちらにせよ、この事をに話したら発狂するじゃろな。見物じゃのぅっ」
「よしなさいな。にバレたら向こう1ヶ月は世話を焼いてきそうで面倒だわ、とっても」
「いひひっ! あり得そうじゃのぅっ!」
「だから黙ってなさいな。今度、試合にでも付き合ってあげるから」
「約束じゃぞ~?」

 そんな会話を交わしながら先を歩く水銀達に続き自分達も移動する為、モーズは手早く地面に並べられていた薬剤をメディカルバッグへしまうと、砒素に運ばれるジョンをただぼうっと眺めているエドワードへ手を差し伸べ、立つように促した。

「エドワードさん、行きましょう」
「……、はい」

 促された通りエドワードはモーズの手を取って、立ち上がって、自分の足で、歩き始めたのだった。

 ◇

「いや~! よかったよかった! ジョン院長も見付かって怪我人も出ないで一件落着~! って、なれば万々歳だったんだ、け、どっ⭐︎」

 ぼとり
 通話が終わり、画面が真っ黒になった携帯端末を持つ手から力が抜け、右腕が地面へ落ちる。

「あー……。しんど」

 地面の上に四肢を投げ出し、仰向けに転がるカールは疲れ切った声を出す。
 ――彼の右脇腹には穴が空き、そこからドクドクと絶え間なく血が流れていた。
 アイギスの触手が患部に巻き付く事により簡易的な止血は施しているものの、腹部側から背中側まで貫通した穴の流血を防ぎきるのは難しい。

「いや治るよ? 治るけどさ~、痛いもんは痛いもんね~。そっくりちゃんの最後っ屁エグすぎね~?」

 これは交戦したショールが操っていた、角状菌糸によって空けられた穴だ。
 背中を短剣で刺されたショールはありとあらゆる罵詈雑言をカールへ投げ付けつつ、大量の菌糸を地面から生やし捨て身で攻撃をしかけてきた。無秩序に生やしてきたものだから、ショール自身も傷を負っていた。それでもカールが捌き切れない、避けきれない程の物量を優先。
 その捨て身の策は功をなし、脇腹に穴が空きカールが身を引いた隙にショールは繭にこもり、姿を消してしまった。
 それによって菌糸の動きが沈黙したのを確認したカールはアイギスを体内に戻し、治癒能力による治療を頼んだ。これだけの大怪我だろうと、内臓の損傷も避けたのもあり、時間さえかければアイギスの力で治せるので問題はない。
 ただ痛いものは痛いので、全身から汗を滝のように流すハメになっているが。

 ちなみに治癒を施すに至って出血もしているカールの血液ではエネルギーが足りず、補給が必要な為、アイギスはカールの背中から触手だけ出し、、伸ばした先で見付けた感染者を片端から捉えて吸血。時にはカールの側まで引きずり寄せて捕食、不足分を補った。
 このお陰でエドワードは感染者に遭遇する事なくジョンの元に辿り着けていたのだが、その事実は双方、知る由もなかった。

「こういう時に黒衣って、汚れ目立たなくて便利ぃ」

 アイギスは傷は治せるが汚れは消せない。
 そしてカールのアイギスは巨大で強力だが、燃費が悪い。なので極力、分離をしなくてもいいように、触手を身体から生やすだけで対処できるよう独自の訓練を積んでいる。自身の肉体強化もその過程で身に付けた。
 よって他のクスシよりカール自身が前に出る機会が非常に多く、その分、負傷もする。なので彼は白衣ではなく黒衣を着るようになったのだ。

「それにしても、俺ちゃん特製ナイフでも致命傷には至らずか~。ダメージは与えられたみたいだけど、一度刺したら壊れちゃったし、耐久性も難! あり! ま、データは取れたし有意義ではあったか!」

 ショールを刺した短剣はそれだけで折れてしまい、今は柄だけが残っている。前線に立つ事が多いカールが防衛手段を増やす為に特殊軍刀を模倣し、毒殺力に注力した【試作品】。
 毒耐性が強いと推測されるステージ6に対しても一定の効果は見られたものの、耐久性の低さから乱用はできない結果となった。

「戦利品もげっちゅできたしね~! やった~っ!」

 どさくさに紛れてショールから奪い取った板絵を左手で掲げ、カールははしゃぐ。

「ただここでそっくりちゃんが出てくるとか想定外もいい所というか『珊瑚』は死体も利用できる可能性が出てきたのが頭が痛いっていうか首から上を【収穫】って言ってたけどあれ絶対俺ちゃんの脳味噌欲しがってたよね何の為にだよホラーかよまぁ憶測を立てるとしたらユストゥスがいつだか話していた寄生菌に人間の完全再現はできないって説を採用することになるかな多分その通りなんだろね同じ真核生物として猿真似はできてもどーしても真似できないのが恐らく人間の脳で『珊瑚』は脳を集めてより優れた生命体になる予定なのかなそんで行き着く先は……いや仮説を立てるには材料が足りな過ぎる~っ!」

 思考を整理しながらもむぎーっと足をばたつかせ、子供のように振る舞うカール。
 しかし切り替えの早い彼は次の瞬間には落ち着きを取り戻し、ショールの顔を思い浮かべる。

「で、も! ……どんな形であれ《》の連中がペガサス教団ないし『珊瑚』に関わっているとか、こりゃ引き篭もっている場合じゃな~いかもよ、『フリードリヒ』」

 次いで口から出たのは、所長と副所長に続き、3人目のクスシとなった……個別研究室からろくすっぽ出てこない、〈先輩〉の名前であった。
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