毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十二章 日本旅行編

第242話 夏祭り

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「何故お前達は湯立っているんだ?」
「朝風呂頂いたよっ!」
「ふろ……?」

 たっぷり20分間の入浴を体験してしまった後。
 着替えを済ませたモーズ達が個室に戻ると、その頃にはパラチオンが目覚めていた。

「湯船っていいねぇ。ネグラにも作られないかなぁ」
「サウナはあるんだ。クスシに掛け合えば作ってくれるかもしれねぇぞ、アセト」
「バスタブならばウミヘビ個人での購入が可能ですよ。わたくしの部屋にもあります」
「へぇ~。見てみたいなぁ。帰ったらアトロピンの部屋にお邪魔してもい~い?」
「えぇ、いいですよ」

 ウミヘビ達が和気藹々と話している横で、モーズは待たせてしまっていた青洲に頭を下げる。

「すみません、思ったより長く浸かってしまいました……」
「パラチオンも、先程起きたばかりだ。丁度、よくはあった……。では、出るとしよう……。だが、その前に……」

 そこで青洲は座布団の上に座る自身の側に置いていた竹製の蓋を開ける。
 中には青洲が着ている物と同じ衣服、日本の民族衣装着物――『浴衣』が仕舞われていた。

「……先程、潔と佐八郎、だったか。彼らが部屋に来て、貸してくれた。是非、楽しんで欲しいと……」
「し、しかし私は着方がわからないのですが」
「着付けは、小生とアトロピンが行おう……。あぁ、靴は、普段の物でいい……。履き慣れない物は、危ないからな……」
「え、ええと」
「着付けですね、青洲先生。お任せください。さぁ、モーズ殿こちらへ」

 モーズが断る間もなく、今度はアトロピンの手により脱衣所の時と同じようにひん剥かれ、浴衣の着付けを受けさせられた。アトロピンの動きは非常にスムーズで、モーズがその場で突っ立っているだけでものの5分で和装へと着替えさせてくれる。紺色の落ち着いた色合いで、裾の近くに小さな龍がアクセントとしてデザインされた浴衣を。
 アトロピンはそのままパラチオン、ニコチン、アセトアルデヒド、燐と他のウミヘビの着付けに着手し、青洲の補助も受けつつ全員の着替えを完了させた。

「ニコ似合う~っ!」
「そうか?」

 赤と黒のツートンカラーの浴衣を着たニコチンに、柿色の浴衣を着たアセトアルデヒドは嬉しそうに手を叩いている。

「ねぇねぇ新人さん、写真撮って写真っ」
「りょ、了解した」
「アセトこそ沢山撮って貰いな。後で振り返れるようによ」
「こっからは記録ログ撮ってくれるからいいんじゃない~?」
記録ログと記念は違うだろが。おいモーズ」
「わかっている」

 そしてカメラ係の指名を受けてしまったモーズは、携帯端末で2人の浴衣姿を電子写真に収める。ウミヘビ達は白衣姿が主なので確かに新鮮だ。

「新米っ! 新米っ! アッシも男前に映るよう頼むよぅっ!」

 燐は黒地に花火の柄がデザインされた浴衣に大興奮していて、モーズに撮影をせがんでくる。
 反対にパラチオンはアクセントとして白い竹が前後で1本ずつ、一筋の光のようにデザインされた深緑色の浴衣に具合がよくなさそうな顔をしていた。帯だけで浴衣を留め、裾の歩幅が限られ、たもとまで付いた着慣れない衣服だ、単純に動き難いのだろう。

「何だこの珍妙な服は。戦闘には非効率ではないか」
「戦う為の衣服ではありませんから。お洒落着、というものです。身体の大きな貴方には少し窮屈かもしれませんが、いずれ慣れる事でしょう。モーズ殿、彼の写真もお願いします」
「あ、あぁ」

 アトロピン自身もダチュラの花がデザインされた白い浴衣を着て、パラチオンの姿を撮影するようモーズへ頼んできた。

「写し絵を撮る意味もわからない。有益な記録ログになり得ぬ物を撮ったとして、何がいいのやら」
「いつかわかりますよ、パラチオン」

 撮影が一通り終わった後。モーズが携帯端末を帯に付けて貰った巾着に仕舞っている最中。

「それから、モーズ。これを……」
「……? マスク、ですか?」

 不意に青洲がモーズにフェイスマスクを渡してきた。雲の間を縫って優雅に空を飛ぶ、1匹の『白龍』が描かれたフェイスマスクを。

「お前の蛇のマスクは……英雄の物として、知れ渡っているからな……。悪目立ちしないよう、意匠を変えねば……」
「……え。あの世界ニュースは医療業界以外にも、それも極東の地でも知れ渡っているのですか……!?」
「皆が皆では、ないだろうが……祭りには、不特定多数が集まる。把握している者も、それなりにいる事だろう……」
「な、なんと……」

 ウミヘビよりも身なりに気を付けなければいけないのは、実はモーズだったらしい。
 その事に地味にショックを受けつつも、モーズは普段付けている蛇のマスクを外し、浴衣のデザインに揃えて用意してくれたらしい白龍のマスクへと付け替える。
 これで出掛ける準備が整った。

 ◇

「人間が沢山いてすごぉい。活気に満ちているねぇ」

 レンタルした空陸両用車で移動すること1時間。
 辿り着いた祭りの会場は昼間から多くの人々が押し寄せていて、川沿いの土手に設けられた屋台の前に列をなして並んでいる。

「ねぇニコ、射的だってぇ。やってみよぉ?」
「俺は遠慮するわ。いつも訓練場でやってるからな」
「そう~?」

 アセトアルデヒドが興味を持ったのは射的の屋台で、早速並ぶと店主から玩具のコルク銃を受け取り、雛壇に並ぶ景品に向けて発砲をする。
 しかし銃から発射されたコルクは狙った景品から大きくそれて、雛壇の上に転がるだけで終わってしまった。

「あううっ。僕、下手だねぇ」
「初めてにしちゃ上々だろ」
(評価が非常に甘い……)

 その様子を後ろから見ていたモーズは、アセトアルデヒドに対するニコチンの評価の甘さっぷりに密かに驚いていた。
 かつて初めてシューティングゲームに挑戦したモーズに向かって一言、「下手くそ」と言ってきた人物と同じ人物と思えない程の甘さだ。

「ふん。止まっている的になぜ当てられない?」
「おっ、やる気かいパラチオン? そいじゃいっちょ勝負と洒落込もうじゃあないか。おやっさん! アッシらにもやらせてくだせぇ!」

 浮遊型自動人形オートマタの翻訳を介しつつ、パラチオンと燐も続いて射的に挑戦をする。
 戦闘センスの高いパラチオンと、第一課の戦闘員に所属しているという燐の射的の腕前は一流で、コルク銃という性能と威力の低い玩具だろうと全弾、見事に景品に命中。倒す事ができていた。

「どうでい! アッシの腕もなかなかのもんだろぃっ!」
「簡単すぎて勝負にもならんな」
「ちょ、ちょっと外国の兄ちゃん達! 鍛えているみてぇだし、もしかして軍人かアスリートかい? プロに参加されちゃ商売上がったりだ、勘弁してくれぇっ!」
「何だと?」
「おっとすまなかったねぇおやっさん! 景品はいらねぇからさ! 記念にやってみたかったのよ!」
「お、おう。記念に、ならいいが」
「ほんじゃ行くよパラチオン!」

 パラチオンが店主に喧嘩腰になりそうになった所で、燐がさっと間に入りパラチオンを屋台から引き離す。燐もなかなか揉め事を避けるのに慣れているようだ。
 しかしただでさえ見目麗しい外国人の集団、というだけで目立つところ、景品にコルクを全弾命中させてしまったので更に衆目を集めてしまい、周囲の人々に数歩離れた位置からひそひそと小声で喋りつつ見詰められている。釘付けにさせてしまっている。
 この状況はまずいのではと、モーズは青洲に声をかけた。

「あの、早速注目を集めているのですが……」
「だが、遠巻きに見ているだけだ……。寧ろ歩きやすくて……助かるな」
「そうですね、青洲先生」
「ええぇ……」

 がしかし、青洲は注目を集めている事よりも歩きやすい方が重要らしく、幾ら視線が向けられようとも気にしていないようだった。
 アトロピン曰く、今回はウミヘビの為にと祭りに来たが、本来、青洲は人混みが嫌いらしい。これでも大分譲歩しているのだと言う。

(面倒事が起きなければいいが……)

 人間は集団からはみ出たモノを見ると攻撃的になるものだ。
 モーズは目立つ事による騒動が起きない事を願うばかりであった。
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