毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十三章 朝顔の種編

第253話 奇襲

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「青洲さんの周りには、防壁か何かが張られているのか?」

 事件について記録するついでに青洲達の様子が見れるようにと、青洲の側に浮かぶ球体型自動人形オートマタから車内に送られてくる映像を見て、モーズは唖然としていた。
 投影されたホログラム映像の中の青洲は、庭の置き石を踏みながらただ真っ直ぐ屋敷の玄関へ向かっている。
 その間、庭で待ち構えていた10人近いペガサス教団の信徒達がひたすら青洲を銃撃しているのだが、その悉くが外れている。と言うよりも、
 何なら手を袖の中に入れて腕組みをしているという、無防備といっていい姿勢なのに、庭には青洲の歩いた道筋がわかるように弾丸が転がるばかりで、青洲自身は無傷のまま。
 その事に驚愕する間にも信徒達は燐とパラチオンの手刀によって気絶させられ、10分もしないうちに庭の制圧は終わってしまった。

「防壁っつぅかアイギスだろ」
「ア、アイギス……!?」

 ぶっきらぼうながら口を開いてくれたニコチンの答えに、モーズは驚嘆してしまう。
 何故ならば映像には、アイギスの姿が影も形も映っていないからだ。

「何でかい声出してンだ。青洲もクスシだ、アイギス使うなんざ当たり前だろうが」
「いやしかし、一切姿が見えないのだが……!?」
「青洲先生は、意図的にアイギスの視認性を下げる事ができるのですよ」

 モーズの疑問に対して、アトロピンが解説をしてくれる。

「透明になれるアイギスもいると?」
「正確には透明になっている訳ではないのですが、光の屈折率を調整し、人間の目に映り難くなるのです。光が少ない夜ならば尚のこと、見えない」
「なんと……」
「尤も屈折率の調整は他のアイギスも持っている能力になります。ここまで透明化できるのは今の所、青洲先生のアイギスのみですが」

 そう話すアトロピンは心なしか得意げな顔をしている。慕っている青洲の長所を話せて嬉しいのだろう。

「透明化も凄いが、弾丸を弾き落としているのもアイギスなのだろう? 純粋な反射速度と腕力も超越しているな……」
「何今更なこと言ってんだ。人間の一人や二人持ち上げられる時点でイカれてんだろが」
「そ、それはそうなのだが、銃火器を防ぐ様を見せつけられると、菌床処分の時とは違う感覚が湧き上がるというか……」

 アイギスの触手の矛先を民間人に向けた場合の脅威。
 防御としてしか使用していない今でも、人間では手も足もでない生命体であると突き付けられ、モーズは自身に寄生するアイギスの使役を間違えないようにしなければ、と気を引き締める。
 ホログラム映像に映る青洲は、玄関の戸を開け中に入る所であった。その堂々とした佇まいは、屋敷の家主かと見紛う程だ。
 ……土足で踏み込んでいる事を除けば。
 また初めて訪れる場所にも関わらず、青洲の歩みは迷いを微塵も感じさせない。屋内でも武装した信徒達が襲いかかってきてあるというのに、刃物を向けられようが銃弾を浴びようが全て床に叩き落とし、寝かせるのは燐とパラチオンに任せ、ただただ足を進める。
 そしてアセトアルデヒドがいるのだろう、畳が敷き詰められた大広間に最短距離で辿り着いた。

『下か……』

 大広間の中央で、青洲は真下へ顔を向ける。次いで辺りを軽く見回した後、後ろに控えていた燐へ声をかけた。

『燐、その辺の者を叩き起こせ……。隠し通路を、聞き出す……』
『あいよっ!』

 ここまで負傷者も出ておらず、非常に順調に進んでいる。後はアセトアルデヒドがいる場所に続く道さえわかれば、無事に連れ帰る事ができる筈だ。
 どうか何事もなく終わりますように、と固唾を飲んで見守っていたモーズだったが、ふと妙な機械音が聴こえる事に気が付いた。ピッ、ピッ、ピッ、ピッと時計の針のように規則的に鳴る機械音。ホログラム映像から出ている音ではない。
 車内でも聞こえるという事は、非常に近い位置で鳴っているということ。一体どこから、とモーズがホログラム映像から顔をそらしたその時、
 ドカンッ!
 車の真後ろから、大きな爆発音が車内に響き渡った。

「うわっ!?」

 爆発音と共に巻き起こった爆風によって、車体が大きく揺れる。恐らく時限式爆弾を仕掛けられた。しかも爆発の影響でタイヤが燃え、火の手があがっている。
 炎はやがて車内のバッテリーを熱していき、爆発を引き起こす事だろう。このまま車内に留まっていては危険だ。

「チッ! 信徒の連中が、舐めやがって……!」
「どうか気を鎮めてください、ニコチン。今はモーズ殿を安全な場所に誘導する事が最優先でございます」
「町中ってのを鑑みずに攻撃してきたんだぞ! 安全地帯なんてあるのかよ!?」
「と、ともかく一旦外に出よう! 今後の事はそれから決める!」

 気配に敏感なニコチンが、悪意を持って接近してきた人間に気付かない筈がない。相当、心が波立っている。
 だが落ち着かせる時間的余裕はない。モーズはどうにかニコチンを宥めつつ、アトロピンも連れ車の外へ避難をした。
 直後、目の前が真っ白になる。足元に転がされた煙玉によって、白煙が周囲を包み込んだのだ。

「また目眩しか! 二度も通用すると思うなよ……!!」
「モーズ殿、此方へ。決してわたくしの手を離さないように」
「あ、あぁ」

 視界が悪くなっている中でもアトロピンは冷静にモーズの手を握り、はぐれないよう、連れ去られないよう対策をしてくれた。
 その間、ニコチンは音だけで迫って来た人間の居場所を突き止めたらしく、打撃音が暫し聞こえてくる。
 白煙は夜風によって5分もせずに霧散。視界がクリアになった道端には、黒服の信徒達が15人ほど転がっていた。ニコチンの手によって気絶させられたのだ。

「おい。こんだけ明確に敵意を向けてきたんだ、俺も屋敷に乗り込んでいいだろ……?」
「いけません、ニコチン。青洲先生が戻るまで、わたくし達は待機をしなくてはなりません」
「そ、そうだ。君も青洲さんの動向は見ていただろう? アセトアルデヒドは間もなく帰ってくる。君まで危険を冒す必要はない」
「手段を選ばねぇ連中だぞ!? こうしている間にもあいつに何かあったら俺は……っ! ……っ!?」

 そこでニコチンは勢いよく振り返りモーズへ視線を向け――口を半端に開けた状態で固まった。

「……? ニコチン、どうした?」

 隣に立つアトロピンも呆気に取られた表情を浮かべ、モーズを見詰めている。

「気付いていないようですね」
「嘘だろお前ぇ……」
「ど、どうしたんだ? 私のマスクに何かついているのか?」

 モーズのマスクに変化が起きている訳ではない。彼の首の後ろには変化が起きているが。
 具体的に言うと、モーズの頸辺りから伸びたアイギスの触手が、背後から迫って来ていたのだろう悪漢3人の首に巻き付き、絞め上げ、宙に浮かした状態で気絶させていた。
 しかもモーズは自分の背後がそんな状態になっている事に、全く気付いていない。そんな想定外の光景を目の当たりにしたニコチンは、思わず脱力してしまった。

「……何か、一気に力が抜けたわ……」
「毒気が抜けたようで何よりです」
「???」

 ちなみにアイギスによって気絶させられた悪漢達は、最終的に路上へ投げ捨てられたのだった。
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