毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

文字の大きさ
375 / 600
第十七章 迷子の子供達編

第364話 狂咲

しおりを挟む
 ひゅん。
 モーズの首筋から伸びたアイギスの触手が、モーズの頬に触れていたフルグライトの指を弾く。

「相変わらず、邪魔だなァ」

 夢の覗き見を中断されてしまった上に、モーズの体内に居座り続けるアイギスを前に、上げていた口角を下げるフルグライト。

「アイギス、アレキサンドライトの中から出て行ってくれるかな?」

 アイギスの触手はフルグライトの望みを拒否するかのように、しゅるりとモーズの体内へ戻っていってしまい、出てくる気配がない。

「出て行かないというのならば、仕方がない。足を切り落とそう」

 フルグライトは淡々と喋りながら、足元から部屋全体に菌床を展開させた。血管のように張り巡った菌糸の内、一部が蔦状となって床から飛び出しモーズの右足へ絡まる。
 そのままみしりと、骨が軋む音がした。

「アイギスは血を対価に宿主を守るのだろう? ならば小さく削って、血の生成量を減らせば君にとっての魅力が減る筈だ」

 アイギスは直ぐにモーズの首筋から飛び出て、菌糸に触手を刺し毒素を注ぎ死滅させるものの、蔦状菌糸は次から次へと伸びてきて埒があかない。
 とてもアイギス一匹では対処しきれない。

「いっそ腕もカッティングしようか。どうせ【誕生日】を迎えたら治るのだから、要らない部分インクルージョンはここで磨き落とそうね、アレキサンドライト」

 蔦状菌糸の先端が、ナイフの如く鋭く変形する。
 脅しでも何でもなく、フルグライトはモーズを切り刻む気なのだ。

「首だけにしてしまうと【誕生日】を迎えられなくなるから避けたい所だが、インクルージョンが残るよりはマシだね。その選択肢も残しておこう。さぁ、アイギス。君は宿主を細切れにして欲しいかい? それとも、出ていくかい?」
「おい、お前。を置け」

 フルグライトがアイギスに選択を迫ったその時、フルグライトの後ろ、隔離部屋の出入り口からフリードリヒが現れる。
 再び現れた邪魔者に、フルグライトはその場から立ち上がると渋々といった様子でフリードリヒへ向き合った。

「それ、とは何かな? フリードリヒ」
「そこで寝ている餓鬼だ、餓鬼。それ以外に何がある」
「……。君はアレキサンドライトに興味がないのだろう? ならば私が貰っても、いいだろうに」
「アレキサンドライト? 何の話だ。ともかくその餓鬼は、セレンの頼みで連れ帰らなくてはならん。置いていけ」
「なら大丈夫だ。セレンは私にアレキサンドライトを贈ってくれたのだから」
「は?」

 嘘ではない。フルグライトは『トール』としてセレンに会う事を条件に、モーズを連れて来て貰う契約を交わしたのだから。
 そのセレンとは既に対話を済ませ、にも付き合った後。条件は達成済みで、残るはモーズを貰い受けるのみだ。

「セレンは親孝行者だね。んっふふふ、父の日のプレゼントという奴かな?」
「お前はセレンの父親でも何でもないだろうが」

 上機嫌にクツクツと喉を鳴らすフルグライトを見たフリードリヒは両腕を組み、心底呆れた様子で言い放つ。

「それどころか暴行を働いた。実際、お前はセレンに憎悪を向けられている。死刑を下すに、十分だ」

 直後、フリードリヒの頭上が揺らぐ。暗がりの中にいるのもあって視認性が悪いが、彼のアイギスが蠢いているのだ。
 雨を凌ぐ傘と同じように頭上で蠢いていた薄桃色のそれは、不意にぐんと大きく浮上したかと思うとフルグライトの真上まで弧を描いて飛び――落ちてきた。

「……!」

 フルグライトはアイギスへ落下地点を変えるよう、電気信号を介して命令を下す。が、フリードリヒのアイギスは全く従わずそのまま落ちて来た。
 仕方なくフルグライトは引き下がり、立ち位置を変える。それによってモーズとの距離が離れてしまった事に、少しばかり表情を歪めた。

「宿主から離れたアイギスは、電気信号に惑わされるものなのだが……。君はアイギスと強固な信頼関係を築いているという事かな? 少し、厄介だね」
「電気信号? 信頼関係? ただ落下するのに意思も何もないだろうが」
「うん?」
「重力に従うなどアッフェでもできる」
「重力……?」

 フリードリヒの言葉の意味を直ぐには汲み取れなかったフルグライトだっだが、床に落下したまま蠢くアイギスを見てはたと気付く。
 フリードリヒはアイギスに命令という命令を下していない。彼はただ、投げ落としたのだ。フルグライトを下がらせる為だけに。そしてフルグライトの発信する電気信号に惑わされず、それどころか一切の反応をしないのは――元々、誰の指示も受けないからだと推測できる。
 宿主と協力関係を築いていないアイギス。事前情報にない異色の存在だが、意思のないアイギスなど脅威にならない。よってフルグライトはさっさとフリードリヒを片し、へ戻る事と決めた。
 カチリ。
 その時、監視部屋に小気味のいい音が響く。
 フリードリヒが、フェイスマスクの留め具を自ら外したのだ。そして露わになる、とても堅気には見えない強面の、20

「――咲け。アイギス」

 次いで両頬の皮膚がぺりぺりと剥がれ、花弁が落ちるように手の平サイズの小さなアイギスが現れる。
 だがフリードリヒから分離した途端、アイギスは瞬く間に肥大化し、巨大な花の代表格ラフレシアと同等のサイズへと変化をした。
 フリードリヒのアイギスを花に例えたくなるのは、見目が華やかだからだ。

 ハナガサクラゲ。
 縞模様のある傘の下に無数の触手を持つだけでなく、傘の上部にも触手を生やす、とても派手で美しいと評判のクラゲ。その手の者には非常に高い人気を持つ、ハナガサクラゲのタイプのアイギスを、フリードリヒはあろう事か傘を鷲掴んでは投げた。
 アイギスはされるがまま投げられ、べしゃりと床に落ちる。すると落ちた場所にあった菌糸は黒ずみ死滅し、菌床に穴を作る事態を引き起こした。
 アイギスそのものを毒弾として、フリードリヒは菌床を壊しにかかってきている。

「これはこれは……。今すぐ始末しなければ、いけなくなってしまったね。フリードリヒ」

 笑みを浮かべていたフルグライトから、表情が、消えた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

ネクスト・ステージ~チートなニートが迷宮探索。スキル【ドロップ★5】は、武器防具が装備不可!?

武蔵野純平
ファンタジー
現代ファンタジー(ローファンタジー)です。ニート主人公のスキルは【ドロップ★5】――ドロップ確率が大幅上昇し、ドロップアイテムの品質も大幅上昇するチートスキルだった。だが、剣や盾などの装備品が装備出来ない欠陥があり、攻撃力、防御力に問題を残す。 ダンジョン探索をする為に冒険者となりパーティーメンバーを募集するが、なぜか【ワケあり】女性ばかり集まってくる。

初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁
青春
【第五部開始】  高校一年生の春休み直前、クラスメートの紅野アザミに告白し、華々しい玉砕を遂げた黒田竜司は、憂鬱な気持ちのまま、新学期を迎えていた。そんな竜司のクラスに、SNSなどでカリスマ的人気を誇る白草四葉が転入してきた。  眉目秀麗、容姿端麗、美の化身を具現化したような四葉は、性格も明るく、休み時間のたびに、竜司と親友の壮馬に気さくに話しかけてくるのだが――――――。  転入早々、竜司に絡みだす、彼女の真の目的とは!?  ◯ンスタグラム、ユ◯チューブ、◯イッターなどを駆使して繰り広げられる、SNS世代の新感覚復讐系ラブコメディ、ここに開幕!  第二部からは、さらに登場人物たちも増え、コメディ要素が多めとなります(予定)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

処理中です...