毒素擬人化小説『ウミヘビのスープ』 〜十の賢者と百の猛毒が、寄生菌バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 

天海二色

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第十八章 序曲の不協和音

第380話 決勝戦

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「ふぁ……」

 ドミノ倒しのように倒壊したビル群の真ん中。
 瓦礫をソファ代わりに腰を下ろし足を組み、大きく欠伸をするのは、輝く銀髪を風に靡かせる水銀である。

「やだ。人前であくびだなんて、はしたなかったわね」

 そこで我に返った水銀は欠伸を噛み殺し、怪獣の襲撃にでもあったかのようなビル街を見下ろす。

「それで、満足かしら?」

 正確には、瓦礫の上に力無く転がる、死屍累々といったウミヘビ達を。

「ぐっ……。真っ先に潰されてもうた……銀ちゃん手厳し……」
「ライフル対策完璧とかズルいと思うワケ……」
偽物デコイくらい見抜きなさいな」

 長距離射撃を得意とするシアンとヒドラジンは、液体金庫の射程の外、遥か遠方から水銀を撃ち抜こうとした。
 しかしそれは液体金属で作られた偽物デコイだったのだ。それを撃ってしまったことで逆に居場所を把握され、液体金属をサーフボードとし、垂直の壁さえ高速で移動できる水銀に一気に距離を詰められ、生成されたゴーレムの前に沈められてしまう結果となった。

「悔しいねぇっ! 一発くらい当てたかったもんだが!」
「わかってはいましたが、私はまだまだ精度が足りませんね……」
「足元がお留守なのよ、貴方達は。相手が近付けない、って思い込みはよしなさいな」

 燐とセレンは油断なく(燐は楽しんでもいたが)、水銀本人が目視できる位置から攻撃を仕掛けていたものの、目を逸らさず注視していたことが仇となり、足元の歩道を破壊して現れた液体金属によって串刺しにされてしまった。

「ニコチンはらしくない動きだったわねぇ。いきなりドーピングを使ってくるだなんて」
「ネタが割れた相手に心理戦も何もねぇだろ。搦手使うよか練習台にした方が有意義だろが」
「あぁ。勝ちを取るよりも練度をあげる方を取ったのね、貴方。勉強熱心なんだから」

 ニコチンは水銀との戦闘に入った直後、迷わず自身にドーピングを投与。液体金属の防御を掻い潜り、近接戦闘へ持ち込んだ。
 だが幾ら場数を踏み、身体を強化していたとしても、一瞬でも隙を見せれば手足が液体金属に絡め取られ、形勢が一瞬で逆転する。空にでも放り投げられてしまえば身動きが取れず、無防備となった所を銀糸によって切り刻まれてしまった。

「誰も残らんとは、なんじゃつまらん。水銀が全く消耗しとらんではないか」

 水銀と戦闘をしたウミヘビが一通り死亡判定を受けた後。
 瓦礫の上をひょこひょこ歩いてきたのは、口を尖らせ不満そうな顔をしている砒素である。

「ジジイ、どこ隠れておったんや」

 今更現れた砒素に、寝転んだままのシアンが睨み付ける。

「どこでもいいじゃろ。ほれ、わしがめいんうえぽんを使うと敵味方関係なく更地になるじゃろう? お主らを巻き込まぬ配慮よ、配慮」
「嘘。単に漁夫狙いでしょう」
「いひひひっ! どうかのうっ!」

 水銀の指摘に対し、口角をチェシャ猫のようにつり上げ、不敵に笑う砒素。
 砒素はそのまま右手をかざし、めいんうえぽんたるガドリングをその場に召喚。軽々持ち上げ、銃口を水銀へ向けた。

「誰も残らなかった事じゃし、久々に一対一タイマンを楽しむとしようかの! 水銀!」
「は~……。貴方の相手って凄く疲れるのだけれど、仕方がないわね」

 水銀は瓦礫から立ち上がり、電子で作られた日の光を浴びる銀髪をかき上げる。
 そして指先を挑発的にくいと曲げ、静かに微笑んだ。

「いいわ、来なさい」

 ◇

「銃型の抽射器を前にしても対処できるとは、水銀の最強の称号に偽りなしか……」

 ネグラの食堂の中、長机の一席にて。
 モーズは訓練場で行われている、バトルロワイヤル部屋が映るホログラム“大”画面を、ストローで麦茶を飲みながら観戦をしていた。
 気分は対人アクションゲーム系のeスポーツ大会観客者である。

「攻防一体の不定形操れる、ってだけで無法チートだよね~。めっちゃウケる」
「毒性をあげれば腐食による斬撃も可能。水銀自身は飛び道具を扱わぬが、それは好きな時に好きな間合いに入り込める移動手段を持っているからよ。我らからすれば羨ましい」
「俺は使いこなせる気がしないから遠慮したいけどねぇ。すーぐ中毒になりそう」

 モーズの両隣では、アセトンとクロロメタンがバニラアイスを食べながら一緒に観戦をしていた。
 彼らに限らず『第一課が集まってバトルロワイヤルをしている』という非常に珍しい状況が映る大画面を、食事がてら見物するウミヘビは数多くいる。

「このバトルロワイヤル? の主催はセレンと聞いたのだが、開催することで何かしらのメリットがあるのだろうか?」
「バトルロワイヤルは、複数人でドンぱちしたい! ポイント荒稼ぎしたい! って奴が仲間内で開催する方が多いねぇ。ただ今回はセレンが再教育の最中でしょ? 対ウミヘビ100本ノックをさっさと終わらせるには、大人数を相手にするのが早いからねぇ」
「然り。よって配当ポイントの高い第一課を数人集め部屋を設定。ポイント目当てで集ったウミヘビを片端から狩る戦略であっただろうが……いつの間にやら、第一課のみ残っているな」

 そもそも第一課がバトルロワイヤルに参加すること自体が珍しいので、シアンと砒素が便乗、水銀までも巻き込み、第二課のウミヘビが参戦する隙がなくなってしまった。という訳である。
 とは言え、第一課同士の戦闘経験が積める機会は貴重。セレンは水銀と砒素が激しい戦闘を繰り広げる横で、ニコチンらに再戦を求めている。試合はまだまだ終わりそうにない。

「フレッシュマン~! 今日も食堂にいるとか、もう常連じゃん~!」
「うるせぇよ。大声出すな」

 主催のセレンの操作によって、バトルロワイヤル部屋のフィールドが仕切り直しされていく様を眺めていたら、後ろから声をかけられ、モーズは振り向く。
 そこに立っていたのは満面の笑みを浮かべたカリウムと、鬱陶しそうな顔をしたナトリウムであった。しかし2人とよく共に過ごしているタリウムの姿がない。

「タリウムは一緒ではないのか」
「遠征が入っちまってな。さっき発っちまったよ」
「そうか。怪我なく帰ってくるといいのだが」

 ナトリウムから事情を聞いたモーズは、心からタリウムの無事を祈るように呟いた。
 するとカリウムが、モーズへそろりそろりと間合いを詰めてくる。まるで何かを言い出そうとする子供のような遠慮がちさに、モーズは訝しげに眉を寄せた。

「なぁなぁ、フレッシュマン。……タリウム、どう?」
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